答案のおとし所

(元)司法試験受験生の立場から、再現答案のアップしたり、日々の勉強での悩み、勉強法などについて書いていきます。

【再現答案】令和2年司法試験 憲法 A評価

1 再現答案 3238文字

第1 規制①
 持続可能な地域交通システム法(以下単に法とする)3条1項が、生活路線バスを運行する乗合バス事業者のみが高速路線バスを運行する事業者になることができるとすることによって、高速路線バスのみを運行する乗合バス事業を営む自由を害するため、憲法(以下省略)22条1項に反し違憲のおそれがある。
 1 同条は職業「選択」の自由を保障する。また、選択した職業はそれを行って初めて意味があるから、同条は職業遂行の自由をも保障している。
   高速路線バスのみを運行する乗合バス事業者は、生活路線バスに比して収益率の高い高速路線バスのみを運行することを選択しているのであり、上記自由は職業「選択」の自由として保障される。
 2 かかる自由が、法3条1項によって妨げられており、制約があるといえる。
 3 職業とは自己の生計を維持するための継続的活動であるとともに、社会的機能分担たる性質を有し、個人の人格的価値とも不可分の関係を有する重要な権利である。
   また、職業「選択」の自由それ自体を制約しており、強度な制約といえる。
   さらに、法1条を参照すると、法3条1項の主たる規制目的は地域における住民の移動手段の確保にある。これは国民経済の発展を志向するものであり、積極目的規制といえる。
   そうすると、重要な公共の利益のため、必要かつ合理的な措置である場合に限り、22条1項に反せず合憲と解される(薬事法判決)。
   ここでは、生活路線バスを運行すること又は貸切バス事業者に転業して委託を受けることにより事業を継続できるため、職業遂行の自由に対する制約に過ぎない主観的規制といえ、緩やかな基準が適用される(司法書士法判決)との異なる立場が想定される。
   しかし、薬事法判決は距離制限規制の文脈において、特定場所での活動に社会的意義が認められれば職業「選択」それ自体に対する制約を観念できるとしている。*1
   本問おいては、場所というレベルではないものの、高速路線バスのみを運行する事業者というレベルで特定の職業に特定している。そしてこれは生活路線バスに比して高速路線バスの方が収益率が高いという重要な意義を有している。そのため、このような自由への制約は、職業「選択」それ自体に対する制約を観念できる。
   したがって、上記見解は採用できない。
 4 本問において、規制①の主たる規制目的は地域における住民の移動手段の確保にある。地方で、生活路線バスの経営赤字により路線の廃止や減便が続いており、これを防止することは地域住民の不可欠な移動手段を守るという重要な公共の利益の確保を目的とするものいえる。
  手段については、法3条1項が、生活路線バスを運行する乗合バス事業者のみが高速路線バスを運行する事業者になることができるとすることによって、生活路線バス事業への新規参入を促し、また高速路線バス事業による収入と補助金により生活路線バスの事業の赤字を補うことができる。そのため、かかる手段は目的を促進するものといえる。
  他方で、同条は生活路線バス事業への新規参入について既存の業者の経営の安定を害さないことという参入要件を定めている。かかる手段は、既に収益率の高い高速路線バスのみを運行する事業者を選択した者が、収益率の高い生活路線バス事業への新規参入することを妨げるため、目的達成を阻害するものといえる(なお、このような手段は、隠された既存事業者保護という目的の関係でのみその目的を促進させる手段といえるに過ぎない*2) 。
 5 したがって、法3条1項が、生活路線バスを運行する乗合バス事業者のみが高速路線バスを運行する事業者になることができるとすることは、参入要件は撤廃して価格競争させるなどの措置を採った場合に限り、22条1項に反さず合憲であるという意見を述べる。
第2 規制②
 1 法5条1項が、特定区域の住民以外の者が乗車する自家用乗用自動車の通行を禁止することによって、特定地域の住民以外の者が自家用乗用自動車で移動する自由を妨げているため、13条後段に反し違憲のおそれがある。
 ⑴ 13条後段は基底的権利である。他方で、引見のインフレ化を防ぐ必要がある。
   そこで、人格的利益に不可欠なものに限り「幸福追求」権として同条により保障されると解される。
   上記自由は生活のために特定区域を通行する特定区域以外の者がいることを想定すると、人格的利益にとって不可欠といえるため、同条により保障される。
   ここでは、22条1項の「移動」の自由として保障を受けるという異なる立場が想定される。
   しかし、国内旅行について同条による保障を認める判例はあるものの、自家用乗用自動車を用いるものについて直接の判例は存在しない。また、自家用車を用いない移動それ自体は可能である。さらに、仮に22条1項による保障を認めたとしても、上記自由は精神的側面や人身的側面を有するものではないから、13条後段に比して権利の重要性が高いとも言えない。そのため、かかる立場は採用しない。
 ⑵ かかる自由が、法5条1項により妨げられているため、制約がある。
 ⑶ 以上のように、人格的利益に関する重要な権利が、事前かつ直接的に制約を受けているため強度な制約といえる。
   そこで、重要な目的のため、実質的関連性を有する手段である場合に限り、13条後段に反さず合憲であると解される。
 ⑷ 本問において、規制②の規制目的は、交通渋滞の除去にある。これは緊急車両の通行を円滑にする等重要な目的であるといえる。なお、交通渋滞によって害され得る住民の安全や安心な生活という利益は、主観的な利益に過ぎず、重要な目的とまではいえない。
   手段については、自家用乗用自動車の通行が交通渋滞の一因となっている以上、これを禁止することは目的を促進するものといえる。また、場所によっては道路の拡幅をすることができないのであり、より緩やかな他に適当な方法も存在しない。さらに、禁止は日時及び場所を限定して行われるものであり、過度な規制ともいえない。そのため、目的との関係で実質的関連性を有する手段といえる。
   したがって、法5条1項が、特定区域の住民以外の者が乗車する自家用乗用自動車の通行を禁止することは、13条後段に反さず合憲である。
 2 法5条2項が「過料に処する」要件として、同条1項を掲げているため、31条によって明確性が要求される。
   通常の判断能力を有する一般人を基準として、法令の適用の有無を判断できる程度の明確性があれば、31条に反しない。
   法5条1項は、特定区域の住民以外の者が乗車する自家用乗用自動車の通行を禁止する。また、同項カッコ書きにおいて、除外されている通り、特定区域の住民以外の者が乗車する場合であっても、特定区域の住民が乗せて送ってもらうときは、通行が禁止さない。
   もっとも、その他の除外事由として掲げられる「その他やむを得ない事由」というのが、通常の判断能力を有する一般人を基準として、具体的にわからない。そのため、過料を処されるか否かを判断できる程度の明確性がないといえる。
   したがって、法5条は31条に反し違憲のおそれがあるため、除外事由を明確にすべきであるという意見を述べる。
第3 規制①の補足
 1 法3条1項によって生じる生活路線バスの購入費用等に損失補償を規定しないことが、29条3項に反しないか。
   損失補償規定を設けなくとも、同条を直接の根拠として請求可能であるから、規定しないことは29条3項に反しない。
 2 補償を要するか。
  補償の趣旨は、財産権保障及び公平平等の観点である。
  そこで、財産権の内在的制約としての受忍限度を超えた特別の犠牲が生じた場合に限り、補償を要すると解される。
  本問では、高速路線バスのみを運行する事業者のみに損失が生じている。また、積極目的によって損失が生じている。さらに、事業者に生じる損失は新規参入に当たり必要となる費用でありその費用は高額になると予想される。
  したがって、財産権の内在的制約としての受忍限度を超えた特別の犠牲が生じたといえ、補償を要する。
以上

2 分析 ※太文字は試験中の思考

規制①
22条1項の問題であることは明らかであり、平成26年の司法試験憲法との対比で検討しようと考えた。職業「選択」の自由そのものの制約であるのか、それとも職業遂行の自由の制約であるのかを手厚く論じるべきだと思った。ただ、いまさらながら権利と制約の認定順序が悩ましかった。つまり、権利→制約→正当化という順で検討するのが人権パターンであるが、特定の規制との関係で制約を観念するわけだから、制約を念頭に置きつつ権利を確定するのではないかということ(頭の中では制約→権利→正当化)。
直感的に規制①は違憲だろうと思った。
両規制にかかる事実は、規制①:規制②=6:4くらいに見えたので、論述もそれくらいの配分になるように調節した。
参照とすべき判例や異なる立場については明示的に言及するように努めた。令和元年の司法試験でも多くの再現答案が判例を参考にしていたが、採点実感では特定の判例の参考の仕方(射程)が間違いであると述べるにとどまり、想定されているであろう判例名が明示的に言及されていなかった。そのため、受験生としては間違いを過度におそれる必要はなく、とにかく判例を参考にして書く必要があると考えた。
答案を書いている際に、問題文最後の方に記載されている3つの疑問(a「これまで高速専業だった乗合バス事業者からは、生活路線バスに参入しないと…」、b「また、生活路線バス用の車両の購入や…」、c「そもそも、…経営を脅かさずに参入できる地域があるのか」)の一部についての検討を失念していることに気付いた。そのため、規制②を検討した後、規制①の補足として、bを損失補償に構成して論じた。正直これも必須なのかわからないが一応記載した。この辺の事情(特にb)は、手段審査の中で考慮した方が良かったのかもしれない。また、手段審査の中では、既存の業者の経営の安定を害さないことという参入要件が、およそ利益追求を目指す企業にとって選択し難い赤字路線への新規参入を強制していることを指摘しておきたかった。
規制②
権利設定の段階から悩んだ。22条1項で行くのか、13条後段で行くのか、はたまたそれ以外の検討の仕方があるのか。このような悩みもあったので、規制①に重点を当てた答案にした。結果として、13条後段を選択したため、22条1項を採用しない理由を比較的丁寧に論じ、権利選択で大外しという認定を受けた場合の最悪のケースに対してのリスクヘッジをしておいたつもり(もっとも多くの受験生が22条1項で行くのだろうから素直に多数派に乗っておけばよかったと後悔)。13条後段を選択したのは、移動自体が制限されているのではなく、あくまでも域外から自家用車で乗り入れることが禁止されていたから(また、22条1項で保障されるとした上で制約がない又は制約の程度が低いと論じるよりもベターだと感じたから。)。ただ、22条1項を否定した理由として、精神的自由の側面・経済的自由の側面・人身の自由の側面がないことを挙げているにもかかわらず、13条後段を検討する際に人格的利益であることを肯定することには少し違和感があった。この辺りは平成28年司法試験憲法で問われていたから、復習不足を痛感した(大島義則『憲法ガールⅡ』122-124頁(法律文化社、初版、2018年)が参考になる。)

直感的に規制②は合憲だろうと思った。
法5条2項は「過料」を定めていたため、憲法31条の明確性について論じた。しかし、罪刑法定主義との関係で問題となるのは「科料」であるので、書くとしたら行政罰にも憲法31条の趣旨が及ぶのかという検討の仕方が正しかったのかもしれない。そもそも制約の強度で使う事情だったのかもしれない。

*1:大島義則『憲法ガールⅡ』48-49頁(法律文化社、初版、2018年)あたりを念頭に置いていました。

*2:大島義則『憲法ガールⅡ』52-56頁(法律文化社、初版、2018年)あたりを念頭に置いていました。

【再現答案】令和2年司法試験 労働法(集団的労働関係) 50(こちらの方が良い)

1 再現答案 2204文字

第1 設問1
 1⑴ Eは、労働委員会に対して、AがEの求める団体交渉に応じないことが、労働組合法(以下省略)7条2号に反するとして、団体交渉命令及びポストノーティス命令を求めて救済申立てを行う(同27条以下)(また、Cに対する減給処分が7条1号に反するとして、撤回命令を求める)。
  ⑵ また、Eは、裁判所に対して、Eが団体交渉を求め得る地位にあることの確認並びに仮処分(民事保全法23条2項、13条)を申立て、及び不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を求める。
 2⑴ア Eは地域合同労組であるが、「労働組合」(2条)に当たるか(自主性については後述する)。
社外に設置された地域合同組合であるEは、労働者Cに対してなされた減給処分を争うために、Aと団体交渉を行おうとしており、その主たる目的が労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図る「労働組合」に当たるといえる。
Eとしては、法適合組合であることを立証すれば(5条1項本文)、その代表者に団体交渉の権限が存在するといえる(6条)。
イ Eが示した申立事項は義務的団交事項に当たるか。これにあたれば原則としてAに団交交渉に応じる義務が発生する。
義務的団交事項とは、①労働条件その他の待遇に関する事項又は労使関係の運営に関する事項で、かつ②使用者に処分可能なものをいう。
Cに対する減給処分が撤回されれば満額の賃金を得ることができるため、待遇に関するものといえる(①)。また、減給処分はAの懲戒委員会の決定を受けて行われているものの、Aとしては同委員会の決定に従う義務はなくあくまでも同決定を参考にしているに過ぎないため、減給処分の撤回はAに処分可能なものといえる(②)。
したがって、Eの示した申立事項は義務的団交事項に当たり、原則としてAには団体交渉に応じる義務が発生する。
 ウ AはEの団体交渉を「拒」んだ(7条2号)といえるか。
団体交渉権を実効的に確保するためには不誠実な対応を認めるべきではない。
そこで、使用者には誠実な交渉を通じて合意達成の可能性を模索する誠実交渉義務を負い、これに反せば「拒」むに当たると解される。
まず、AはEに所属するA従業員全ての者の氏名を明らかにすることができないのであれば団体交渉に応じることができないと述べている。もっとも、団体交渉に際してこのような要求をする法的権利は認められておらず、Cの減給処分の撤回を検討するに際して同時期にEに加入したFGは無関係であり考慮する必要がない。そのため、このような要求をして団体交渉に応じないことには理由がなく、誠実交渉義務に反するといえる。
また、Aは既にCが併せて加入しているBとの間で団体交渉を終えており改めてEと団体交渉をすることは二重交渉になるため応じることができないと述べている。たしかに、団体交渉が1度行われていたとすれば、団体交渉権行使の機会が実質的に確保されていたといえ、重ねて団体交渉を行う必要ななくAの主張に理由があるとも思える。しかし、CがBに団体交渉を求めたものの、「既に解決済みである」と述べられるにとどまり全く取り扱ってもらえていない。そのため、このような状況にあっては、AB間の団体交渉が適切に行われたものと評価できない。そうすると、Cには団体交渉権行使の機会が実質的に確保されていたとはいえず、このようなAB間の団体交渉をもって、Eとの団体交渉に応じないことには理由がなく、誠実交渉義務に反するといえる。
したがって、以上に2つの理由によって団体交渉に応じないことは「拒」むに当たる。
  エ Cが営業第二課長であるため「利益を代表する者」(2条本文但書、1号)に当たり、このような者の参加を許すEは「労働組合」といえないのではないか。
    「利益を代表する者」であるかは、管理監督者該当性(労働基準法41条2号)が参考とされるが、管理監督者に当たる場合に直ちに「利益を代表する者」に当たるわけではなく、使用者から独立性を有しているかが重要となる。
    たしかに、Cが位置する営業第二課長は、出勤・退勤時間について拘束がなく(勤務内容及び待遇⑥)、労働時間に対する裁量を有し労働時間規制になじまない立場にあった。また、役職手当として月12万円という高額の手当が支給されることとなっており(同⑤)、他の従業員に比して高待遇であった。しかし、営業方針と計画について原案を作成し経営会議に参加及び説明をすることもあったが、議事に参加する権限や議決権は与えられていなかった(同④)。他にも、人事考課(同①)、人事異動の希望聴取(同②)が認められていたに過ぎない。そのため、経営者との一体性を肯定する程に重要な職務と責任がある立場にあったとまではいえない。
    したがって、営業第二課長は管理監督者とはいえない。このような地位である営業第二課長は、経営者からの独立性を有しているとはいえない。
    よって、営業第二課長たるC「利益を代表する者」に当たらない。
  オ 以上からすれば、救済申立ては認められる。
⑵ア 使用者の具体的債務内容の特定は困難であり団体交渉請求権は認められないが、前述のようにAには団体交渉義務があるから、Eに団体交渉を求め得る地位にあることの確認及び仮処分申し立てが認められる。
  イ 不当労働行為は憲法28条の一環であるから、前述のようなAの支配介入によりCに精神的損害が認められるといえ、損害賠償請求権も認められる。
以上              

2 分析 ※太文字は試験中の思考

設問1
・例年と同様に機関・根拠・内容が問われた。ここは簡潔に記載して、設問2で具体的に論じた。
 設問2
地域合同労組が団体交渉の主体となるかというのは少し細かいと思った。ただ、大内伸哉ほか『労働法演習ノート』(弘文堂、初版、2011)にこのような問題意識があったと思う。もっとも、同書279-280頁をよく見てみると、「二重加盟している場合には、両組合間で団体交渉権限の調整または統一がなされるまで、使用者は団体交渉を拒否できる」とあった(東京地判平成16年3月4日)。

主に問題となっているのは、団体交渉に応じないことが支配介入に当たるか否かという問題であるが、その前提として行われた減給処分が不利益取扱いに当たるか否かという問題を論じるべきか又は論じるとしたらどの程度論じるべきか悩んだ。結果としては、団交拒否について論じることがかなり多かったため、不利益取扱いについてはほとんど論じないという構成にした。辰巳法律研究所の速報によると、不利益取扱いを論じるべきではないとされていた。たしかに「E組合は」という問いであるから、E組合が主張している団体交渉についてのみ論じれば足りると考えることもできる。しかし、団交応諾命令などの救済命令を求めたとしても、団交拒否の前提となる減給処分について争わないというのは正直意味がわからないです(CがB組合のみに所属していた時点の団交拒否を、E組合に所属した以降に争うことができるならば、減給処分についても争えるんじゃないですかね)。配点を考えるとあまり紙面を割かないという戦略はその通りですが。なお、少し論点はズレますが、組合員が申立て後に退職や脱退して当該組合資格を喪失した場合に、組合は固有の救済利益を有しているので、組合資格を喪失した組合員が積極的に不利益是正を図る意思のないことを表明しない限り、組合は是正を求めることができる(朝日ダイヤモンド工業事件、最判昭和61年6月10日)とされています。
団交拒否該当性を検討するに際して、使用者Aは複数の理由をもって団体交渉に応じないとしているため、これをどのように構成すべきか悩んだ。結果として、誠実交渉義務違反(カールツアイス事件)の枠の中で名簿提示請求と二重交渉を論じ(しかし、本問では形式的に交渉があったがその内容が誠実でなかったというのではなく、団交を申し入れようと書面を送付したところこれを拒否する書面が返送されかつ未だ団交の申し入れに応じていない。そのため、「正当な理由」の枠の中で論じた方が自然だったのだろう。)、利益代表者については別枠で団体交渉の主体という枠で論じることにした。前述した地域合同労組の話も団体交渉の主体として論じたため、同一論点について論述が離れてしまった。
・事例の第1文目は何のための事情なんでしょう。B組合がユシ協定及びチエ協定を含む労働協約を締結しているという事情は、Cがそのような所属しておくことにメリットのあるB組合を脱退せず同組合の組合員としての地位を維持したまま、E組合に加入したという行動の自然さを担保するものという感じでしょうか。なくても良かった気がしますけど。

【再現答案】令和2年司法試験 労働法(個別的労働関係) 50(こちらが悪い)

1 再現答案 1855文字

第1 設問1
 1 Xの主張
  まず、Xは月間総労働時間が180時間を超えた月の労働時間の内180時間を超えない部分における時間外労働及び月間総労働時間が180を超えなかった月の労働時間における時間外労働について、割増賃金の請求をしている(労働基準法(以下省略)37条1項)。
  これらは、Xが月160時間の「労働時間を延長」して労働したことに対する対価を求めるものであり、当該時間外労働の125%の割増賃金請求権が発生している。
 2 Yの反論
  本件約定により、割増手当は基本給に組み入れ支払済みであるとの弁済の抗弁を主張する。
  ⑴ まず、割増手当を基本給に組み入れるという本件約定は有効か。
    契約は申込みと承諾により成立する(民法522条1項)。
    本件約定では、月間労働時間が160時間を超え180時間を超えない部分について基本給とは別に割増手当が支払われないことされている。これは37条1項反するとも思える。
    しかし、Yはその旨を本件契約の契約書に明記して申込みを行い、Xはこれに署名押印することにより承諾を行っている。Xが承諾を行ったのは、月間労働時間が140時間を超えていれば160時間を超えなくても基本給が支払われること、基本給が比較的高額であること、勤務時間に柔軟性があることを考慮したものである。
    したがって、本件約定は有効である。
  ⑵ 次に、本件約定に基づく基本給のみの支払いは、上記Xの時間外労働時間と対価性を有するか。
    対価性は、①雇用契約にかかる契約書の記載や説明、②労働者の実際の勤務状況等を考慮して判断する。
    前述の通り、本件約定は、本件雇用契約の契約書に明記されていた。この趣旨は、月額労働時間180時間を超えなければ割増手当が支給されない反面、月額労働時間が140時間を超えれば基本給を支給することによって、勤務時間の柔軟性を確保するものである。そのため、月間労働時間が160時間を超えた場合に対する割増手当は基本給に含まれていることがあらかじめ説明されていたといえる(①)。
    また、月間労働時間が180時間を超えた平成29年6月については別途割増手当が支払われている。それ以外の月の月間労働時間は140時間を超えかつ180時間を超えないものであったのであり、平均すれば月間労働時間はおおむね160時間といえる。そして、そのため、月間労働時間が160時間を超えかつ180時間を超えない部分の割増手当は、月額労働時間が140時間を超え且つ160時間を超えない部分の基本給による賃金の支給とおおむね一致するといえる(②)。
    したがって、本件約定による基本給のみの支払いは、上記Xの時間外労働時間と対価性を有する。
 3 Xの請求の当否
  よって、Yの弁済の抗弁が認められるため、Xの請求は認められない。
第2 設問2
 1 Xの主張
  Xは割増賃金請求権を有することが前提とされているため、これによって割増賃金を請求する。
 2 Yの反論
  ⑴ 本件約定は24条1項に反さず、Xの請求権は存在しないと主張する。
   割増手当も賃金であるから、全額を支払う必要がある(同項本文)。
   しかし、同項但書は、一部例外を認めており、これは労働者の生活を害さない範囲であれば自由な処分を認める趣旨である。他方で、賃金は労働者にとって生活の糧となる重要な債権であるから厳格に考えるべきである。
   そこで、自由な意思に基づくと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在する場合に限り債権放棄が24条1項に反さないと解される。
   前述の通り、本件約定は、月間労働時間が180時間を超えない限り割増手当を支給しないという労働者に不利益なものである。
    しかし、他方で、本件約定は月額労働時間が140時間を超えれば160時間を超えずとも基本給を支給するという労働者の利益をもたらすものである。また、この場合に支給される基本給は比較的高額であり、その利益は大きかった。さらに、これによって勤務時間の柔軟性が確保されることも労働者に利益をもたらすものである。Xは、かかる本件約定の存在を認識及び理解した上で、本件約定が記載された本件雇用契約の契約書に署名及び押印している。そのため、Xとしてはあらかじめ示された自己に生じる不利益を考慮してもなお利益が大きいと判断して、将来発生し得る割増賃金請求権をあらかじめ放棄するという不利益を甘受したものと考えることができる。
    したがって、かかる意思決定には、自由な意思に基づくと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在するといえ、本件約定は24条1項に反しないため、債権放棄が認められる。
 3 Xの請求の当否
   Yの反論が認められ、Xの割増賃金請求権は存在しないため、Xの請求は認められない。
以上

2 分析 ※太文字は試験中の思考です

設問1
第1問(個別的労働関係)に関する判例に対する理解が不十分であると考えたため、第2問(集団的労働関係)に重きを置いて答案を作成することに決めた。論述量や検討時間の比重としては、第1問(個別的労働関係):第2問(集団的労働関係)=4:6くらいだと思う。
このところ重判などでも多く掲載されていた割増賃金請求権に関する判例が問われているのだろうと思った。
基本的には高知観光事件やテックジャパン事件をベースに、割増手当の一定額払い類型や含み払い類型は、判別要件+精算要件が必要と理解していたところ、一定額払い類型について日本ケミカル事件(平成30年重判労働法3事件、最判平成30年7月19日)国際自動車事件(平成29年重判労働法2事件、最判平成29年2月28日)において判別要件は対価性を考慮すること及び精算要件は独立の要件とならない(労働基準法により算定される割増手当を下回るものは認められないのは当たり前で、使用者の一定額払いにより弁済の抗弁が一部認められるにとどまる)ことが示された。
・もっとも、本件雇用契約において1日8時間・週40時間・月160時間を基準として基本給が月額40万円とされ、本件約定によって月額労働時間が180時間を超えない場合には基本給の支給で160時間を超え180時間を超えない部分についての割増手当の支給がなされたものとする。そのため、含み払い類型に当たるのではないかと思った。そうすると、一定額払い類型に関する上記日本ケミカル事件や国際自動車事件の射程が本問にも妥当するのか疑問に思ったが、答案では日本ケミカル事件を参考にしている。コロナの関係でロースクールの図書館が使えなかったので、国際自動車事件まではフォローすることができていなかった。労働法では、直近の重判や最新判例が問われることが多く、事前準備が欠かせない科目だと思います。
日本ケミカル事件を参考にすると、判別要件の具体的な適用に当たって、対価性を検討することになる。もっとも、ここでも判例の射程に関する疑問でうまく法律構成ができなかった。まず、労働基準法によって算定された割増手当が支給されるのであれば一定額払いの方法も認められるとするのが日本ケミカル事件であるが、含み払いの方法ではそもそも割増率を乗じる基礎となる賃金を確定できないのではないかと思った(テックジャパン事件参照)。そこで、本件約定の有効性を肯定する必要があると考え、これを論じた。しかし、強行法規たる労働基準法に違反しているものを、両当事者の合意によって違反なしとすることにかなり違和感があった。
次に、日本ケミカル事件を参考に、対価性を検討した。ここでは、前提として、判別要件が必要となること及び判別要件について対価性を検討することを述べる必要があったように思うが、書けていない。唐突に対価性を論じている。もっとも、前述した判例の射程に関する疑問からすると、そもそも本問のような含み払い類型では判別要件を充足できないのではないかと思った。対価性の位置付けや判例の射程について事前準備の段階で結構気になっていたので、評釈等を読むことができなかったことが悔やまれる。
・以上からすると、単純に判別要件+精算要件を検討することで足りたのだろう(テックジャパン事件)。特に本件約定で判別要件を充足するのかが主要な検討対象となるのではないか。そのため、評価が大きく沈むことになると思う。
設問2で「割増賃金の請求権がXに発生し得ると考えたとしても」とあるので、設問1ではYの抗弁を否定してXの請求権を認めておくのが結論として素直だったかもしてない。
設問2
割増賃金請求権の放棄について、シンガーソーイングメシーン事件を参考にして論じた。
もっとも、本来の対価性の検討内容と重なるかはさておき、自分の答案では対価性の検討内容と債権放棄の検討内容(自由な意思に基づくと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在するか否か)がかなり重なってしまった。そのため、法律構成自体に誤りがあるのではないかとも感じた。しかし、債権放棄といえば上記判例しか記憶にないので、とにかく論じた。
債権放棄については、労働基準法24条1項との関係で論じることを意識した。
・設問1で感じた違和感(強行法規たる労働基準法に違反しているものを、両当事者の合意によって違反なしとすること)は、設問2で考慮すべきだったのだろう。つまり、放棄を認めない又は仮に放棄を認めるならばそれを覆すだけの合理的な理由が必要となるということ。
・あてはめにおいて、「合理的理由」が「客観的」存在するかという規範に対応することができていません。主観面は拾えていますが、それが客観的にそうであったのかという点について分析的に検討できていないことが評価が沈む原因となったのだと考えられます。

【再現答案】令和元年(平成31年)司法試験 民法 A評価(逆構成+過失の書き方+有効性と対抗問題)

1 再現答案 3148文字

第1 設問1
1 甲建物の所有者*1
 ⑴ 建物請負契約(民法(以下省略)634条)における目的物の所有権は、請負人に帰属するのが原則である。たしかに、土地利用権限のない請負人に建物所有権を認めても無意味とも思われるが、代金請求権についての担保として意味があり、また材料主義にも適うからである。
   もっとも、同契約において、注文者が特約により目的物の所有権を注文者に帰属するとした場合や注文者が材料を提供した場合には、例外的に目的物の所有権は注文者に帰属すると解される。
 ⑵ AB間でなされた本件契約では、請負人Bが自ら調達した材料を用いて甲建物を完成させており、Bが甲建物の所有権が帰属するのが原則である。
   また、本件契約に付随する特約により注文者Aに甲建物の所有権が帰属する旨の特約はなく、Aが材料を提供したという事実もない。
 ⑶ したがって、原則通り、甲建物の所有権はBに帰属する。
   なお、Aは既に3億6000万円中の1憶4400万円を支払っているが、未だ過半数以上の残代金債務を負っており、同支払いによって甲建物の所有権がAに移転したとはいえない(176条)。
2 所有者としての責任(717条1項但書)
 同項本文は占有者の過失責任を定め、同項但書は所有者の無過失責任を定める。
 そのため、Cは同項但書を主張し、甲建物の「所有者」Aは「占有者」Bの過失を立証することで責任を否定する主張を行う。
⑴ 「瑕疵」とは、通常有すべき安全性をいう。
   甲建物は、建造物として予想され得る地震によって損傷しない程度の安全性を有していることが求められるのが通常である。もっとも、甲建物において用いられた建築資材の欠陥により日本において予想され得る震度5弱地震によって甲建物の一部が損傷するという事態が発生している。
   これは、通常有すべき安全性を欠くものとして、「瑕疵」にあたる。
 ⑵ 同「瑕疵」は、甲建物という「土地の工作物」の「設置」に関するものであり、これによって、損傷した一部が落下してCに治療費支出という「損害」を生じさせた。 *2
 ⑶ 「占有者」Bにおいて、そのような瑕疵が生じないように努めるべき義務があったとして、同義務違反を理由に「必要な注意」を怠ったとも思える。
   しかし、かかる瑕疵の原因は、甲建物に用いられた建築資材の欠陥によるものである。また、同資材は定評があり、本件事故を契機とした調査がなされるまで欠陥の存在が一見してわかるものではなかった。さらに、欠陥の存在は、同資材の製造業者における検査漏れのために見過ごされていたものである。
   そうすると、Bにおいて、このような建物資材によって、甲建物に瑕疵が生じないように努めることは期待可能性がない。
   したがって、上記義務は存在せず*3、 「占有者」Bは「必要な注意」をしたといえる。
 ⑷ よって、Cは、「所有者」Aに対して、無過失責任として、損害賠償請求をすることができる。
第2 設問2
1 ㋑を根拠付けるF主張*4
 Fとしては、本件譲渡契約が有効であり、かつ同債権譲渡をHに対抗できると主張する。
 ⑴ 将来債権譲渡の有効性
  債権譲渡は自由であり(466条1項本文)、将来債権を目的物としても、将来の不発生リスクを負担するものとして原則として有効である。
  もっとも、①他の債権者を害する偏頗的な場合、②債務者を著しく害する場合には、例外的に無効と解される(90条)。
  本件譲渡契約は、本件賃貸借契約(601条)に基づく平成40年までに発生する乙建物の賃料債権を目的物としており、将来の不発生リスクをFが負担するものである。
  また、12年分で3600万円程度であれば、他の債権者を害することはなく(①)、これに応じた債務者Eを著しく害することもない(②)。
  したがって、本件譲渡契約は有効である。
 ⑵ 対抗
  同譲渡については、債権者Dが、債務者Eに対して「通知」(467条1項)をしており、かつこれは内容証明郵便による「確定日付ある証書」によるものである(同2項)。
  したがって、Fは「第三者」たるHに対して、本件譲渡契約を対抗できる。
2 ㋐を根拠付けるH主張 *5
 Hとしては、賃料債権の請求には、目的物不動産の登記が必要であり、債務者Eに対して賃料支払請求ができるのはHのみであると主張する。
 ⑴ DH間でなされた本件売買契約(555条)の目的物は、既にDE間で本件賃貸借契約の目的物となっている乙建物である。そうすると、乙建物の「引渡し」(借地借家法31条1項)により対抗力が備わった賃借権をEが有しているため、本件売買契約によって、賃貸人たる地位がDからHへと移転する。
 ⑵ また、Hはその後、乙建物について所有権移転登記を経ているため、賃借人Eに対して賃料支払請求をなし得る。
3 いずれが正当であるか
以下の理由により、私見としては、㋐が正当であると考える。
たしかに、㋑によれば、Hが優先するとも思える。
しかし、賃貸人たる地位の移転を受けた者は、従前の賃貸人の地位を受け継ぐといえ、従前の賃貸人の法律行為に拘束される。
 本件では、既に従前の賃貸人Dが既に本件賃貸借契約にかかる賃料債権をFに対して譲渡している。そうすると、その後に、同賃貸借契約の目的物を取得し賃貸人たる地位を受け継いだHとしては、Dの本件譲渡契約に拘束されるといえる。*6
 したがって、Hは乙建物について所有権移転登記を経由したとしても、賃借人Eに対して賃料支払請求をすることはできず、㋑は不当である。
第3 設問3
1 法律構成
 Hは、GH本件債務引受契約において、DH売買契約の無効を主張しようとしている。
 別個の契約である場合、一方の無効を他方の無効として主張できないのが原則である。
 もっとも、両契約が一体性を有する特段の事情がある場合に限り、例外的に、一方の無効を他方の無効として主張することができると解される。
⑴ DH間本件売買契約の無効(95条本文)
 ア 「錯誤」とは、内心的効果意思と表示の不一致をいう。
   そのため、動機の錯誤は原則として「錯誤」といえないが、動機が明示または黙示に表示され、意思表示の内容となった場合には例外的に「錯誤」に当たると解される。
   本件売買契約では、買主Hは乙建物に関する本件賃貸借契約に基づく賃料債権を取得する動機を有している。そして、かかる動機は、本件売買契約の合意①にあるように、以後乙建物に関する本件賃貸借契約に基づく賃料債権を買主Hが取得できることとして「収益性を勘案」しているため、明示に表示され、法律行為の内容となっている。
   したがって、「錯誤」にあたる。
 イ また、Hとしてはもちろんのこと、一般人においても契約時に勘案していた賃料債権を取得することができないとすれば本件売買契約を締結することはないといえるため、上記錯誤は「要素」に関するものといえる。
 ウ さらに、特段Hに「重大な過失」はない(同条但書)。
 エ したがって、本件売買契約は無効である。
 ⑵ GH間本件債務引受契約の無効主張の有無
  ア 両契約は当事者が異なる別々の契約 であるが、一体性を有する特段の事情があるか。*7
    本件では、両契約は、DGHの三者間での協議を経ており、かつ同一日に契約が締結されており、HGに近接性がある。
    また、同協議で、Dは既に乙建物に関する本件賃貸借契約に基づく賃料債権がFに譲渡されていることを述べている。そのため、Gはこれについて知っており、本件債務引受契約においても、本件売買契約の存在が前提とされていたものと考えられる。 *8
さらに、このような事実を知っているGに本件債務引受契約無効の不利益を甘受すべき立場にあり、他方無効としない場合にHが被る不利益は過大といえる。
したがって、両契約が一体性を有する特段の事情がある場合といる。
2 結論
 よって、Hが、本件売買契約の無効を理由に、本件債務引受契約の無効を主張することができ、かつ権利の濫用(1条3項)にも当たらない。
以上

2 分析 ※太文字は試験中の思考

・設問1
 本問前半で問われているのは、請負契約の主張攻防についてではなく、あくまで目的物所有権の帰属主体についてである。請負契約プロパーの問題は司法試験の過去問で出題がなかったが、短答知識として押さえており十分に論述するに足りた。もっとも、同論点は後続論点の前提に過ぎないこと、他の設問の配点割合がほぼ同じであるとしても他で論述すべきことが多そうなこと等から、端的な記載にとどめるべきと感じた。
 個人的には、下記の「逆構成」(※造語です。*9)に則ったため、結論としては所有者をBとしている。
もっとも、序盤から事実誤認をしており、Aは3億6000万円のうち1億4400万円しか支払っていないと書いてしまっています。過半数が支払われてないという認定をしているところから見ると、正しく80%にあたる2億8800万円を支払っていると指摘できていれば、かかる事情を所有権移転の有無(特約の推認から肯定又は全額支払われてないから否定)に関連して論じることができたはずであり、残念なミスでした。このような考え方は、令和元年司法試験の出題趣旨の例外則㋑と類似する。もっとも、自分のまとめノートを確認したところ、例外則㋐を規範段階で示し、あてはめで80%の支払いについて言及するとまとめてあり、かつそれが素直な考え方であると思いました。なお、請負人帰属説の根拠として、報酬請求権を担保する必要性に加えて、材料主義という許容性を明示してはいるが、形式的なタームを書いただけであり実質的には不理解といえる。ここをかみ砕いていえば、令和元年司法試験の出題趣旨のいう「材料の所有権が積み上げられて完成した建物となる」という理由付けになるのであり、少なくともインプットの段階で理解しておく必要があると思いました。
 本問後半の717条1項責任については、平成23年司法試験の過去問を潰しておけば対応できる。他方で、主張攻防については同過去問を潰しても意識できていないかもしれないが、条文を見ればその構造はある程度わかる。もっとも、被害者が所有者に対して責任追及する場合、占有者の過失(同項但書「必要な注意」)についての主張立証責任が、誰にあるのかがわからなくなった(717条の訴訟物は、民事訴訟法における同時審判申出訴訟の類型に当たる。被害者は、占有者及び所有者双方を被告として訴えを提起し、占有者の過失の有無でいずれか一方に勝訴することができる。そうすると、被告である占有者が主張立証責任を負うのが筋である。もっとも、本問では、所有者Aのみが訴えられており(占有者Bに訴えているのだろうがその旨の記載がないため)、占有者Bが過失不存在の抗弁を主張することに違和感があった。そのため、被告である所有者が、自己の無過失責任を免れるために、(占有者の存在による二次的責任の抗弁に加えて)占有者の過失の存在を主張するという不思議な構成になってしまった。)民法の問題について、あまり要件事実的に考えすぎると良くないというのが露わになったようにも思いました。もっとドライに要件検討だけすれば足りるのでしょう。
 
・設問2
 各当事者の生の主張を法律構成するのは司法試験の過去問でも良く出題されているし、オーソドックスな民法の出題だと感じた。
 「いずれが正当か」という問いであるから各法律構成の優劣を決するポイントを見つけるのが一番大切だと思った。そして、債権譲渡が存在するため、対抗関係のレベルで優劣を判断するのではないかという第一感をもった(同時に、債権譲渡の有効性を否定する筋も思い浮かんだが、取り得ないと思った。㋑のDF間将来債権譲渡契約(改正民法466条の6第1項)は12年分の賃料債権を対象としており範囲の特定性は問題ないとしても、たしかに乙建物と賃料債権以外に財産を有さないDが、債権譲渡を行うことは他の債権者Hを害する偏頗性がある。しかし、自分は、偏頗性の相場観について知識はないし、㋑Fの法律構成が無効→㋐Hの法律構成が勝つというのはいかにもショボい問題だと思った。そのため、同契約は有効を前提とするべきと考え、有効性についてはあっさりぼかして論じた。)。あとは、先に債権を譲り受けたFが勝つはず!後から建物を買ったHが負けるはず!という直感に従った。ここでも、上記の「逆構成」を参照すれば、設問3で「仮に…㋑が正当であるとした場合」という仮定が付されていても、設問2で㋐が正当であるという結論に至ることに不安を抱く必要はない。
 結局、対抗要件(借々31条1項)を備えた賃貸借契約の目的物が売買されたことで、賃貸人たる地位が移転し、新賃貸人は旧賃貸人の地位の内容として賃料債権譲渡の存在についても負担するという構成にした
(法定承継による賃貸人たる地位の移転については改正民法605条の2第1項、同地位を賃借人に対抗するためには登記を備える必要があることについて同3項)。他方、債権譲受人が劣後する構成としては、賃貸借契約の目的物と差押えに関する判例(H10.3.24、民事執行・保全判例百選50事件(第2版))が差押えの限度で賃貸人が負担を負うといった内容の判例を活用することができるかもしれませんが、債権譲渡と差押えは異なるしその射程も及ばないとも思いました。令和元年司法試験の出題趣旨では、「理論的な理由」と「結論の妥当性の観点からの理由」を共に挙げることが必要とされており、必要性と許容性(相当性)という二つに観点から理由付けを理解しておくことに汎用性があると思われる。自分の答案では許容性を基礎付ける理由を欠いているといえる。
 分量的には一番書いてしまいがちな(書けてしまう)問題ではあると思うが、配点が一番低いというのも考慮して書きすぎて途中答案にならないように注意した。

・設問3
 複数契約の無効に関するリゾートマンション事件(H8.11.12)を想起した。もっとも、同事案と異なり、本件は三者間の複数契約であり、一方の契約の無効が他方の契約を無効にするという例外はより認められにくい(=例外論について最も論述の分量を割くべき)と思った。
 例外論の規範としては契約の一体性(客観・主観)又は相手方による無効主張の否定が権利濫用に当たるか否か等いくつか法律構成があると思う。このように考えたのは、本問では、DHGの三者間の契約であるという客観面とGが債権譲渡の存在を知っているという主観面が存在するという特徴があり、特に後者の事情は上記構成の例外規範又は権利濫用
(H23.10.25)でしか拾えないと思ったから。また、仮にこのような構成によらず、本件引受契約における動機の錯誤だけが問題となっているとすると、35点は配点振りすぎじゃない?と思ったから。ここでのあてはめ事情も結構多くちりばめられていたので、方向性としては間違っていないと思っている。
 もっとも、上記のような迂遠な?法律構成によらずとも、直截に本件引受契約の無効として論じれば足りるという構成をした答案が多いようです。加藤喬さんの解説答案を拝見したら、Hに重過失あり→Gに共通錯誤ありという構成でした。共通錯誤という法律構成を採れば、上述のGが債権譲渡の存在を知っているという主観面を考慮できるため、なるほど!アリだ!と思いました。逆に言えば、そこまで書けてこそ十分であり、これを欠けば不十分であると思いました。実際に、令和元年司法試験の出題趣旨・採点実感でも、契約の一体性みたいな話は一切出てこず、「いわゆる同機の錯誤による意思表示の無効の要件に関する基本的な理解を問う」問題と書かれており、ゾッとしました。しかし、採点基準にないような法律構成であってもA評価がついているのも事実です(設問1と2で既にA評価として十分で、設問3は0点だったということも考えられないではないですが)。
 
 なお、改正民法ならどのようになるのか、ついでに検討してみます。
 まず、本件債務引受契約は、免責的債務引受契約であり、改正民法472条2項で有効である。
 次に、本件債務引受契約では、本件売買契約によって乙建物から生じる賃料債権をHが取得し得るという「法律行為の基礎とした事情」が、㋑が正当であるとすると「真実に反する」といえる(改正民法95条1項2号)。また、当該事情は合意①「収益性の勘案」で「表示」され契約内容となっている(同2項)。さらに、このような表示と内心の不一致による「錯誤」に「基づいて」Hは意思表示をしており、かつ本件引受契約による6000万円という高額なHの負担を担保するために前記表示がなされているため一般人においても錯誤は「重要」といえる(同1項柱書)。
 一般人Hにおいて、㋑が正当であるか否かは調査困難であり、少なくとも「重大な過失」はないと考えられるから(同3項柱書)、Hは錯誤無効を主張して本件債務引受契約の取消しをすることができる。仮に、「重大な過失」があったとしても、本件債務引受契約の「相手方」Gも、乙建物を売りに出せば、買主は長期の安定した賃料収入を見込めるだろうと考えていることからすれば、「表意者」Hと「共通の錯誤に陥っていた」といえるため(同3項2号)、結論は異ならない。Hが錯誤により本件債務引受契約を取消せば、遡及的に無効となるため(120条2項、121条)、本件債務引受契約の無効を主張できるといえる。

*1:設問後段の717条を検討するための前提論点であり、最低限の記載にとどめた(設問後段は仮定が付された問いであり、設問前段の結論によって影響を受けない)。

*2:甲建物という「土地の工作物」の「設置」に関するものであり、これによって、損傷した一部が落下してCに治療費支出という「損害」を生じさせた。

*3:不審事由→義務→違反→過失というフローを意識した。

*4:有効性と対抗問題の区別を意識して論じた。 ㋑の有効性については否定される可能性が頭をよぎったが、㋐との比較が問われているため、ぼかして書いた。 問題意識については、こちらのこちらの記事も参考にしてみてください。piropirorin0722.hatenablog.com

*5:有効性と対抗問題の区別を意識して論じた。

*6:私見の理由を端的に示した。

*7:リゾートマンション事件と混同していると誤解されないように意識して書いた。

*8:このあたりの事実を使える法律構成を考えた。

*9:設問が前半後半と連動していて、かつ後半が仮定が付された問題(所有者が誰であるか→仮に〇〇が所有者であるとして…)については、後半の仮定に逆らった結論を採るようにしています。すなわち、本問では、甲建物の所有者はAかBか→仮に所有者がAであるとして、となっているため、後半の仮定に逆らい前半においてはBを所有者にする構成を採用するといった具合です。これは、前半後半が連動しているとはいえ、後半は仮定が設定されており、前半の結論は必ずしも後半に影響しないためです。出題者としても後半の仮定に逆らった結論が出ることを許容しているだろうという推認です。あとは、結論自体には、絶対に採り得ないであろう結論を除き、あまり意味はなく、その結論にたどり着いた思考過程や法律構成に意味(配点)があると考えるからです。

物権法の処理手順+結論の妥当性(平成23年予備試験 民法)

(2020.04.13)

1 はじめに

 同問については、解説が乱立しているという印象を抱いていたので、自分なりに検討を加えてみようと思いました。

2 分析(物権法の処理手順)

解説①
受験新報編集部『司法試験予備試験論文3か年問題と解説平成23〜25年度1(憲法行政法民法・商法・民事訴訟法)』西口竜司「民法」(法学書院、2019)

 解説①は、以下のような流れで論じています。
 甲土地の所有権移転過程がABDをたどるとすると(B元所有、売買契約によりD取得を前提とする請求原因だと)、甲土地につきB所有を認めることになり、同土地上に建築された乙建物を取得しその登記を具備しているため、BC間賃貸借契約が対抗されてしまうとも思える(借地借家法10条1項)。
  ↓
 しかし、BがAを相続することによって、 BはCとの関係で賃貸借契約を追認拒絶できなくなる(116条本文類推適用)。もっとも、これによってDを害することはできない(116条但書類推適用)。
  ↓
 したがって、Dが優先する。


解説②
受験新報編集部『予備試験論文式問題と解説平成23年度』中村晃基?「民法」(法学書院、2011)

 解説②は、以下のような流れで論じています。
甲土地の所有権移転過程はADをたどるため(法定承継取得説)、無権利者BとCの間は他人物賃貸契約ということになり、CはDに対して対抗することができない。
  ↓
 したがって、Dが優先する。


 解説①(116条但書類推適用部分を除く)のように所有権移転過程がABDをたどる(順次取得説)と考えてしまうと、甲土地につきB所有を認めることになり、DはBC間賃貸借契約が対抗されてしまいます。
 そこで、解説②では、訴訟戦略的に法定承継取得説を採るべきというニュアンスであるように感じます。


 では、解説①②のいずれが適切なのでしょうか?
 結論から言うと、(少なくとも記載自体からすると)いずれも物権法の原則的な処理手順に従っておらず、適切ではないと思うのです。
 平成29年司法試験の採点実感6頁⑷によれば、物権法の原則的な処理手順は【物権変動】→【対抗】の順とされています。
 そうすると、以下のような説明が可能になるのではないかと考えます。

 まず、AB間甲土地売買契約(555条)は税金の滞納による差押えを免れるために仮装されたものでありABが「通じて」行った「虚偽」の意思表示であるから無効である(94条1項)。そのため、Bは甲土地所有権を取得せず(176条)、BD間甲土地売買契約は他人物売買(560条)といえる。もっとも、Dは前記仮装を知らず、それを知らないことについても過失もなかったため、「第三者」として保護される(94条2項)(BD間甲土地売買契約という【物権変動】としての所有権移転過程はADをたどる(法定承継取得説、判例))。これによって、Dが甲土地所有権を取得する(176条)。
  ↓
 次に、他方で甲土地につき無権利者であるBとCとの間の甲土地他人物賃貸借契約(559条、601条、560条)であるものの、A死亡B相続による【物権変動】(882条、887条1項、896条本文)の結果としてBは本人の地位と併存する他人物賃貸人の地位により追認拒絶(116条本文類推適用)をすることは信義則上(1条2項)許されず、遡及的に他人物賃貸借契約ではなくなる(=Dの甲土地所有権取得に先立ち借地借家法10条1項の【対抗】要件を具備したCが優先する)。
  ↓
 もっとも、116条但書類推適用で妥当性を図るべき(=Bの追認拒絶は「第三者」Dを害するため、Dに対してはその効果を主張できず、結果としてDが優先する)。

3 分析(結論の妥当性)

解説③
辰巳法律研究所『Newえんしゅう本(3)民法』(辰巳法律研究所、2019)

 解説③は、法定承継取得説、116条本文類推適用の順で論じていますが、同但書までは検討していません。

 結論の妥当性については、平成24年・28年司法試験の出題趣旨及び採点実感に書かれています。
 しかも、同年の設問2小問⑶は、結論の妥当性から、一定の結論になることを前提として、当該結論を導く法律論の組立てを問うています。

 以上からすると、相続という偶然の事情により、Cが利益を得る(116条本文類推適用)反面、Dに不利益が生じる(先に甲土地所有権を取得したDが負ける)ことは不当であるという方向性で評価することが可能だと思います。


解説④
菅野邑斗『読み解く合格思考 民法 予備試験・司法試験短期合格者本』(辰巳法律研究所、2015)

 他方で、解説④は、更に緻密な分析を加えています。

 解説④では、94条2項の【物権変動】による所有権移転過程につき法定承継取得説を採用することを前提とすると、BがAを相続した時点においてAは甲土地所有権を有しておらず、Bも甲土地所有権を相続し得ないのではないかとの疑問が呈されています。すなわち、相続が生じたとしてもBにBC間甲土地他人物賃貸借契約の追認権がない(=追認拒絶の論点が出てこない)のではないかということです。
 また、仮にBがBC間他人物賃貸借契約を追認拒絶し得ないとしても、他人物売買契約において他人物売主が目的物の所有権を取得したときに他人物買主に所有権が移転すること(176条)とパラレルに考えると、相続時(平成21年12月16日)に初めてCが対抗要件を具備したといえます(=甲土地他人物賃貸人Bが平成21年12月16日に相続により甲土地の所有権及び追認権を取得し、Bの追認拒絶が信義則上許されないとしても、Cが甲土地賃借権を取得したのは同日であり、借地借家法による対抗要件を具備したのも同日である)。これはDがBとの間で甲土地売買契約により所有権を取得した時点(平成21年10月9日)に遅れます。そのため、Cは同賃借権をもって占有権原を主張することができないといえます。

 ここでも、やはりDに不利益が生じる(先に甲土地所有権を取得したDが負ける)ことは不当であるという方向性が示されており、結論の妥当性が意識されていると考えられます。

令和元年(平成31年)公認会計士試験論文式 企業法

(2019.08.28)

1 経緯

 縁あって公認会計士試験(企業法)を解く機会をいただきました。
 司法試験の知識を前提にして解くとどのようになるのか検討していきます。
 なお、司法試験合格資格があると、短答式及び論文式の一部(企業法、民法)が免除されます。また、どの程度被るかわかりませんが、司法試験で租税法を選択していると、公認会計士試験論文式租税法を有利に進めることができるかもしれません。

2 検討

 まず、形式面では、答案用紙を見る限り、第1問設問1:同設問2=第2問設問2:同設問1=2:1の配点であると伺えますので、分量に注意します。あとは、設問の問いにしっかり答えることを心がけます。

 次に、内容面についてです。
第1問
設問1

・本件「契約の効力」が問われていますが、第三者の主観面まで問題文に記載されているので、一応主張の可否まで論じる必要があるかもしれません。
・効力としては、⑴純資産額の5%とあるので「重要な財産の処分」該当性(会社法362条4項1号)、⑵Aが乙社の全株式を保有しているので利益相反取引該当性(365条、356条1項2号又は3号)が問題となり得ます。これらが肯定されれば取締役会決議を経なかった点に法令違反があります。
・⑴は、最判H6.1.20に照らして、肯定できます。
・⑵は、名義説を前提とすると、「株式会社」甲と、(「取締役」Aではなく)「取締役」でないBと本件契約という「取引」をしたにすぎないので、直接取引(2号)にあたりません。そして、Aが乙社の全株式を保有しているため、間接取引(3号)にあたります。
・相対的無効説について、⑴なら原則有効(最判S40.9.22)、⑵なら原則無効(S46.10.13)です。もっとも、甲社の主張の可否についてまで書くとすれば、本問では乙社の取引相手方第三者は、取締役会の承認を欠くことにつき善意なので、主張は認められません。


・423条1項を検討します。
・①⑴⑵に該当すれば、取締役会決議を経なかった点に法令違反があります。
・①⑵で利益相反行為に該当すれば、423条3項の任務懈怠推定規定が適用できます。
・損害は時価と売却価格の差額です。
・因果関係、過失は問題ないです。
・結論として、Aは責任を負います。

設問2
・報酬請求(差額の270万円)は役員としての委任契約(会社法330条、民法644条)に基づきます。
株主総会決議で最高限度額の定め、具体的報酬額を取締役会へ委任することは認められます(最判S60.3.26)。
・具体的報酬額が定められたら、会社と役員の契約内容となり、役員が同意しない限り会社が一方的に減額できません(最判H4.12.18)。
・もっとも、黙示の同意があるなら減額できます。問題文なお書き「各取締役の役職に応じて支給額を定めることが慣行」という事情があるので、慣行を了知して就任したのであれば黙示の同意があったと評価できると思います。
・黙示の同意があれば、結論として、Aの請求は認められません。なお、30万円が請求できることに争いはありません。

第2問
設問1
・前提として、丁社は本件株式交換契約について株主総会特別決議を必要なのが原則です(795条1項、309条2項12号)。
・例外は、796条1項及び2項です。
・もっとも、いずれの例外要件についてもあてはめる事情がありません(特別支配会社(468条1項参照)であると認定するための株式保有の事情や純資産額の事情)。そのため、条文摘示で終え、次に進むのが無難だと思います。

設問2
・会計帳簿閲覧請求(433条1項)に基づきます。株式保有、営業時間内、理由明示は問題ありません。
・拒絶事由(同2項各号)のメインは3号です。請求者戊社と丙社ではなく、戊社の完全親会社と丙社に「実質的」「競業関係」があることが前提とされています。問題は、「請求者」戊社が実質的競業関係にある「事業を営」んでいるか否かです。問題文では、「戊社の完全親会社は…戊社と一体的に事業を営んでいる」とあるので、「請求者」戊社に丙社との実質的競業関係を肯定できます。
・戊社は、「本件株式交換契約に関する株主総会決議での賛否の判断材料とするため」に請求しているので、「権利の…行使に関する調査以外の目的で請求を行った」(1号)といえません。なお、理由明示でここの事情を使えば、検討しなくてよいかもしれません。
・2号、3号、5号については、該当する事情がないため、検討しなくてよいと思います。

3 備考

・記載時点は、出題趣旨が発表される前です。
・第1問設問1①⑴は平成20年司法試験商法第2問設問1が、同⑵は平成24年司法試験商法設問2小問⑵が参考になります。
・第1問設問2は平成28年司法試験商法設問1⑵が参考になります。
・第2問設問2は平成30年司法試験商法設問1が参考になります。

必要的共同訴訟(平成23年司法試験 民事訴訟法)

(2019.08.22)

1 結論

 固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別
 実体法的観点を基準としつつ、訴訟法的観点をも加味して、総合して判断する等が一般的な論証であると思います。

 注意すべきことは、2つあります。
 1つは、固有必要的共同訴訟にあたらない場合に、直ちに通常共同訴訟にあたるわけではなく、あくまでも類似必要的共同訴訟(例外)か通常共同訴訟(原則)かのいずれかにあたるということです。そのため、固有→類似→通常の順で検討することになります。

 もう1つは、固有必要的共同訴訟にあたるかを判断する上記一般的な論証が、規範として不十分であるということです。これは、複数の観点から判断するという命題と、A+Bの要件を充足した場合に特定の効果が発生するという規範とは性質が異なり、前者では一義的に結論を導けないという意味です。そこで、❶+❷という(抽象的な)要件を立てるという論じ方もあるのではないかという観点から考えていきます。
 以下では、❶❷要件と実体法的観点及び訴訟法的観点の関係を見ていきます。
 「合一にのみ確定すべき場合」(民訴法40条1項)を必要的共同訴訟といい、これは固有必要的共同訴訟と類似必要的共同訴訟に分類されます。
 固有必要的共同訴訟とは、❶訴訟共同の必要性(手段)+合一確定の必要性(目的)がある場合をいいます。
 類似必要的共同訴訟とは、❷´合一確定の必要性がある場合をいいます。

2 分析

 まず、固有必要的共同訴訟にあたるかから見ていきます。
 必要的共同訴訟かそれ以外かを判断するメルクマールは、共同訴訟人たるべき者が全員当事者として訴訟に関与して初めて当事者適格が認められるか否かです。すなわち、実体法上の管理処分権を共同行使する必要があるか否かによって決定されます。従来は、ⅰ管理処分権が単独行使できない場合が想定されていました。その後判例では、ⅱ手続法上の考慮で権利関係の帰属主体全員を訴訟に関与させるべき場合が認められてきました(共有地についての境界確定訴訟(S46.12.9)、遺産確認の訴え(H元.3.28)、相続人の地位不存在確認の訴え(H16.7.6)等です。)。
 そのため、ⅰ管理処分権を単独行使できない場合は、実体法的観点から肯定のあてはめを行います。他方、ⅱ手続法上の考慮で権利関係の帰属主体全員を訴訟に関与させるべき場合には、実体法的観点を一応指摘した上で、訴訟法的観点から肯定のあてはめを行います。そして、当然に❷につなげるだけです。❶が充足されれば、固有必要的共同訴訟にしかあたり得ませんし、❶は❷のための手段にすぎませんので。

平成23年司法試験 民事訴訟法設問3
 土地所有者が所有権に基づいて、同土地上の建物所有者である共同相続人に対して提起した建物収去土地明渡訴訟は、通常共同訴訟であるとされています(S43.3.15)。
 上記❶を検討すると、各相続人の明渡義務は不可分債務であり(民法430条)、所有者は各相続人に対して全部の履行を請求し得る(同法436条)ため、ⅰにはあたりません。また、仮に固有必要的共同訴訟であるとすると、争う意思のない者をも被告としなければならず、無用な手続が増え、訴訟不経済であること、建物に相続登記がされていない場合に当該建物の所有者が誰であるかを把握することが困難であること、仮に通常用同訴訟であるとしても、土地所有者は、共同相続人全員に対して債務名義を取得するか同意を得なければ強制執行ができないため、他の共同相続人の権利保護に欠けないこと等から、ⅱにもあたりません。
 次に、上記❷´を検討しても、やはりあたりません。
 そのため、本訴請求は、通常共同訴訟にあたることになります。

 他方、中間確認の訴え(145条)としての共有関係確認の訴えは、固有必要的共同訴訟であるとされています(S46.10.7)。
 上記❶を検討すると、共有権(数人が共同で有する所有権)に関するものなので、ⅰにあたります。
 そのため、本件確認請求は、固有必要的共同訴訟にあたることになります。

 なお、同年の出題趣旨は、Mの本訴請求の認諾は少なくともM自身には効果が生じる(39条)のに対して、中間確認の訴えの放棄は、共同訴訟人LだけでなくM自身にも効果が生じない(40条1項)という点です。このように、異なる規律によって生じる不都合性(Mは中華間確認の訴えについてだけ当事者として残ることになり、「終局判決において、中間確認の訴えが認容され、この判決が確定した場合には、Mは乙土地の共有者であるにもかかわらず、Nに対して乙土地の明渡義務を負うという、実態法上は矛盾した結果」が生じるおそれ)があります。問題文では「判例がある場合にはそれを踏まえる必要がありますが、それに無批判に従うことはせずに、本件での結果の妥当性などを考えて」とある通り、かかる不都合性を解消するための立論が求められているのであり、固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別は、その前提論点に過ぎません。

 次に、固有必要的共同訴訟が否定された場合、類似必要的共同訴訟にあたるかを見ていきます。
 類似必要的共同訴訟(例外)が通常共同訴訟(原則)かを判断するメルクマールは、判決効の第三者への拡張の有無です。そのため、❷´判決効の第三者への拡張すなわち、既判力が矛盾抵触する関係にあることを肯定するあてはめを行います。ここでは、❷´の内容は、固有必要的共同訴訟の❷とは少し異なっています。

 最後に、類似必要的共同訴訟が否定された場合、通常共同訴訟にあたることになります。

 なお、上記3つのいずれかの類型にあたるとしても、(単独訴訟を除き)38条の要件を充足する必要があります。

勅使河原和彦『読解 民事訴訟法』240~261頁(有斐閣、初版、2015)