答案のおとし所

(元)司法試験受験生の立場から、再現答案のアップしたり、日々の勉強での悩み、勉強法などについて書いていきます。

仮処分(平成21年・25年司法試験 商法)

(2019.08.01)

1 Twitterアンケート(2019.08.01)

2 結論

1つ目の書き方
 訴訟の流れや論理を重視するものです。
 差止めをしたいと思ったら、まず実効性を確保するために仮処分申立てをし、仮処分申立ての枠の中で被保全権利を主張する。

2つ目の書き方
 会社法の試験において実体法を重視するものです。
 保全については、過去問に配慮して、なお書き程度には記載する。
 ちなみに、(【再現答案】令和元年司法試験 商法では明確に現れていませんが)自分は不正確ながらも会社法の答案としては2つ目の書き方で足りるだろうと考えていました。

3つ目
 下記の分析からすると、書くことは少なくとも期待されており、書かないという選択肢はないと思います。合否を左右する知識でないことは確かですが、コスパがいいです(少なくとも、予備校模試等では配点があることが多いです)。

【追記】
 民事保全には、仮差押え、係争物に関する仮処分、仮の地位を定める仮処分の3種類があります。
 仮差押えは、本案の権利である金銭債権の実現(強制執行)を保全するため、債権者の財産につきその処分を制限する措置を講ずる処分です。
 係争物に関する仮処分は、本案の権利である(係争)物の引渡・明渡請求権等の実現(強制執行)を保全するため、その(係争)物の現状を維持する措置を講ずる処分です。
仮の地位を定める仮処分は、強制執行保全とは関係なく、本案の権利関係につき判決の確定まで仮の状態を定める措置を講ずる処分です。

 会社法で出てくる民事保全は、仮の地位に関する仮処分です。
 講学上、民事保全が認められるための要件は、被保全権利と保全の必要性の存在です。
 仮の地位に関する仮処分について、適切に条文摘示すると、「保全すべき…権利関係」(民事保全法13条1項)と「保全の必要性」(同条同項)です。
 「権利関係」(同条同項)とは、「争いがある権利関係」(23条2項)のことです。
 (アンケート段階で、自分も間違っていますね…)

 なお、仮差押え及び係争物に関する仮処分について、適切に条文摘示すると、「保全すべき権利」(民事保全13条1項)と「保全の必要性」(同条同項)です。
 「保全すべき権利」(同条同項)とは、被保全権利をいいます(20条1項、23条1項)。

 以上からすると、出題出題及び採点実感で指摘されている被保全権利とは、「保全すべき…権利関係」(民事保全13条1項)を含む講学上の表現であると考えられます。
そのため、司法試験委員会としては、民事保全法の条文摘示まで厳密に求めていないといえるかもしれません。
 というよりも、裁判例もこの辺を特に意識しておらず、区別する実益が乏しいので、ここにこだわるのは答案政策上得策でないと考えます。つまり、敢えて「」(条文文言)は引かず、条文(23条2項、13条1項)摘示にとどめ、講学上の被保全権利と保全の必要性を検討するのがベターであると考えます。

福永有利『民事執行法民事保全法』258~266頁(有斐閣、2版)

司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 (補正版)』2~5、78頁(日本弁護士会連合会)

3 分析

 司法試験の商法で仮処分についての言及がなされたのは、平成21年と平成25年です。

 平成21年設問4では、合併契約の締結やその承認を目的とする株主総会の招集の差止め(360条1項)についての仮処分(❶)です。

 平成21年設問6では、合併契約の承認決議の取消訴訟(831条1項1号及び3号)若しくは合併契約の承認決議の無効確認訴訟(830条2項)(平成26年改正前)についての仮処分又は合併の差止め(784条の2第1号)(平成26年改正後)ついての仮処分(全て合わせて❷)です。

 平成H25年設問3では、募集株式の発行の差止め(210条2号)についての仮処分(❸)です。

 ❷は「会社法に基づき、どのような手段を採ることができるか…。」という問題文です。
 同年出題趣旨5頁において、初めて「仮処分」命令の申立てについての言及がなされます。
 同年採点実感14頁において、「仮処分」命令の申立ての検討を論じることが「期待された」とあります。続けて、「しかし、…このような期待される論点に入らない答案が多かった。」とあります。
 つまり、平成21年時点では、保全についての知識不足や問題文に会社法という限定があったこと等が相俟って、書けなかった人が多かったのだと思います。

 ❸は「会社法に基づき採ることができる手段…について、論じなさい。」という問題文です。
 同出題趣旨6頁において、「仮処分」についての言及がなされます。そして、ここでは「言及すべきである。」という少し強い表現に変わっています。
 同年採点実感17頁において、「仮処分…について言及した答案も少なかった。」とあります。こちらの表現からは、平成25年時点において、どの程度言及する人が増えたのかは不明です。

 他方で、仮処分についての言及がなされていないのが、❶です。
 ❶は「どのような会社法上の手段を採ることができるか。理由を付して説明しなさい。」という問題文です。
 ❷❸と比較すると、こちらでも仮処分への言及が期待されたとしていてもおかしくないのですが、出題趣旨及び採点実感のいずれにも言及がありません。この意味も不明です(なお、「新司法試験の問題と解説2009」別冊法学セミナー200号[弥永真生]81頁には、仮処分についての言及があります)。

 そして、令和元年設問2において、新株予約権無償割当ての差止めが問われました。
 「乙社は、…本件新株予約権無償割当ての差止めを請求することを検討している。乙社が採ることのできる会社法上で、論じなさい。」という問題文です。
 現時点では、出題趣旨及び採点実感が発表されていないのでわかりませんが、❷❸に照らせば、仮処分への言及がなされるのではないかと考えます。
 【追記】なお、同年出題趣旨及び採点実感には仮処分の言及がありませんでした…。これまた意味が不明です。

共謀の射程(平成20年司法試験 刑法)

(2019.07.24)

1 前提

 60条が一部実行全部責任の原則を定める趣旨を、結果に対する因果性を生じさせたことと捉えます。
 また、共謀共同正犯の成立要件を、①共謀(単なる意思連絡)、②共謀に基づく一部の者の実行、③正犯性と捉えます。③は、客観的要件としての重要な寄与(指示・関与、重要な役割等)と主観的要件としての正犯意思(主体性・積極性、地位・関係、利益の帰属等)から判断します。

2 分析

 共謀の射程とは、共謀内容と実現内容に齟齬がある場合に、両者の間に関連性があるかという問題(客観的帰責性)をいい、故意の存否(抽象的事実の錯誤)とは区別されます。
 すなわち、事前共謀とは全く無関係の行為を、共謀の射程外として、共同正犯の成立を否定する余地はないかという問題意識です(なお、形式的に少しでも変更があれば射程外という即断は×です)。

 60条の趣旨からすると、自己の関与と因果性を有する限度においてのみ、結果に対する責任を負うことになります。
 因果性を①②③要件との関係で考えると、以下のように②で検討することになります。
 60条が一部実行全部責任の原則を定める趣旨は、共謀(①)によって、犯罪実行を心理的に促進し、結果に対する因果性を及ぼしたことである。そこで、共謀内容と実現内容に齟齬があっても、因果性があれば、共謀に基づく(②)といえる。①によって形成された動機が継続する状況下で行われていれば、因果性があるといえる。

 具体的に、因果性があるか(共謀の射程内)、因果性があるか(共謀の射程外)は、原則、客観的要素としてa日時、b場所、c被害者、d行為態様、e保護法益、主観的要素としてf故意、g動機・目的という要素を比較して共通性をの有無を検討することになります。
 特に太文字部分が重要な要素です。例えば、dについては、窃盗と強盗は意思に反する占有移転という点では共通する(+)、正当防衛と量的過剰防衛は急迫不正の侵害の有無で異なる(-)、昏睡強盗と強盗は反抗抑圧状態を利用して財物を奪取する点で共通(+)等です。また、gについては、正当防衛と量的過剰防衛は防衛の意思の有無で異なる(-)等です。
 もっとも、例外的に、因果性がある(共謀の射程外)場合が存在します。例えば、共謀段階での制約がある場合、共謀段階での影響力の小さい場合です。

3 検討

平成20年司法試験 刑法
甲乙は住居侵入罪と窃盗を共謀したが、甲が強盗した場合の、乙の罪責
甲乙は、Aが外出すれば家政婦が来るまでの間A宅には人がいない(Bの不存在)という認識をしていた事案

 甲の行為に強盗罪が成立する。
   ↓
 乙は、甲がカッターナイフを用意したことを知らなかった。他方、甲は、乙に対し「先に帰れ」と述べており、乙による暴行脅迫を想定していなかった。したがって、住居侵入罪と窃盗罪の共謀が成する(犯罪共同説、判例実務)(①)。
 たしかに、e身体への暴行脅迫の点で異なる。しかし、abcは同一で、d意思に反する占有移転という点では共通し、g金品を奪うという目的も共通する。したがって、①によって形成された動機が継続する状況下で行われており、因果性があるといえる(②)。
 (+③充足→強盗罪の共同正犯)
   ↓
 実現事実と認識事実に齟齬があるため、抽象的事実の錯誤が問題となります。
 そのため、軽い犯罪については重なり合う構成要件の限度で故意を認めることになります。

 注意することは2点あります。
 1つは、共謀の射程は、抽象的事実の錯誤の論点を論ずる前提として、共謀に基づくか(②)の段階でコンパクトに言及するにとどめる。
 もう1つは、①によって形成された動機が継続する状況下で行われているといえず、因果性がない場合、すなわち共謀の射程外である場合には、因果性がないため、狭義の共犯の可能性も全て否定される。


大塚裕史「共同正犯の処罰根拠と共謀共同正犯」法学セミナー743号92-100頁(2016)
大塚裕史「共謀の射程と共同正犯の錯誤」法学セミナー746号99-108頁(2017)

競業避止義務(特に事実上の主宰者)(平成27年司法試験 商法設問1)

(2019.07.18)

1 事案

甲社取締役B
乙社代表取締役D(乙社株式100%→10%)
Dから譲り受け→B(乙社株式90%)がDを介して事実上取引を行う

2 結論

 取締役会設置会社において、「取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき」(365条、356条1項1号)、株主総会で「重要な事実を開示」し「承認」を得なければならない。

 一般的には、「自己又は第三者のために」で計算説を書き→「事業の部類に属する取引」で市場調査等があれば広く解釈する(東京地裁S56.3.26、山崎製パン事件)ことになると思います。
 このようになるのは、条文文言の流れや同年出題趣旨・採点実感の流れにも沿っていることから自然なことであると思います(もしかすると大阪高判H2.7.18の規範を採用しているのかもしれません。)。

 もっとも、事実上の主宰者性が問題となるような事例について個人的には、①株式会社の「事業の部類に属する」取引→②「取締役が…取引」をしたか(事実上の主宰者性)→③自己又は第三者の「ために」という順に論じるのが良いのではないかと考えています。
 なお、事実上の主宰者の議論は、取締役が別会社で代表取締役又は取締役に就任せずに、ワラ人形や傀儡の取締役を就任させ、これを利用する形態にと、競業避止規制を及ぼすもの(潜脱防止)です。

3 分析

 客観→主観の検討という流れを出すために、①→③の順が良いと考えます(条文文言の流れや趣旨・実感の流れに逆らうことになりますが)。なお、①の段階で、少なくとも問題とすべき取引を特定しておくことが大切です。

 重要だと考えているのは、②と③を別に論じることです。
 確かに、事実上の主宰者性の事情(②)を、「自己又は第三者のために」(③)の枠で論じることも不可能ではないと思いますし、そのような答案が多いように見受けられます。
 しかし、③自己又は第三者の「ために」という要件で検討すべき要素は、行為の経済上の利益の帰属先(計算説)です。他方、②事実上の主宰者性で考慮すべき要素は、(同年の事例では)持株割合、事業への関与、顧問料の受領、工場長の引き抜きや商標取得への関与等です。
そのため、厳密に言えば、③の枠の中で②を書ききろうとするのは難しい(②の規範とあてはめがズレる)と思います。
 また、同年採点実感2⑵ア3段落で、「取締役が自己又は第三者のために…取引をしようとするとき」の要件について言及した後、同5段落で「上記の要件のうち、「自己又は第三者のために」の要件の当てはめについては…」としており、②と③を別に論じることができると考える余地があります。
 そうすると、大株主として当該会社を支配している事案(東京地裁S56.3.26、山崎製パン事件は90%保有)では「自己」の「ために」とし、持株比率が過半数に満たない事案(大阪高判H2.7.18)では「第三者」の「ために」と認定することになります(中村信男「判例における事実上主宰者概念の登場 事実上の主宰者への取締役関連規定の適用事例」判タ917巻119頁参照)(もっとも、同年採点実感2⑵ア5段落では「Bが乙社の発行済株式の90%を保有していることのみを理由としてBの行為は自己のためにした行為であると述べた答案が多く見られた」と述べた後に、下級審裁判例によれば、事実上の主宰者が肯定される事情があるときは、取締役の行為は第三者のためにされたものとされているが、このことを意識した答案はほとんど見られなかった」と述べている。同下級審裁判例とはおそらく「第三者」の「ために」と認定した、東京地裁S56.3.26、山崎製パン事件だと思います。先述の通り、事実上の主宰者の議論は、法の潜脱防止にあるため、利益の帰属が「第三者」の「ために」(計算)なされていることを示した上で、競業避止規制を及ぼすことができるかを論じることは自然であるともいえます。)。
 以上からすると、②と③を別に論じることになると考えます。そして、②→③の順が自然かと思います(「自己」の「ために」とするなら行為の経済上の利益の帰属先を指摘し、「第三者」の「ために」とするなら②の事情をも考慮する)。

同種前科による犯人性立証(平成28年予備試験 刑事訴訟法設問2)

(2019.07.08)

1 結論

 前科証拠の証拠能力が肯定されるためには、自然的関連性に加えて、法律的関連性(実証的証拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定がされるおそれがないこと)が必要です(H24.9.7)。
 これは不確かな推認(前科→犯罪傾向→起訴事実についても当該犯罪傾向に基づく)を回避するためです。
 そのため、不確かな推認を経なければ、法律的関連性が認められます。
 具体的には、①犯罪傾向の推認を経ない別の推認をするパターン(「特殊な犯行方法・態様等の共通性に着目し、そこから被告人が被告事件の犯人であることを推認させようとする推認過程」)、②犯罪傾向の推認は経るものの当該推認過程に実質的根拠があるパターン(「被告人に前科があるという事実から、被告人が犯罪を犯すような悪性格をもっていることを立証し、こうした悪性格の立証を介して、被告人が被告事件の犯人であることを推認させようとする推認過程」)です(平成19年司法試験刑事訴訟法の出題趣旨)。もっとも、②は現在の科学水準では想定し難く、①パターン(前科にかかる犯罪事実に顕著な特徴+起訴事実と相当程度の類似性)がメインです。
 ①パターンは、❶犯行に用いられた物・手口・態様等の特殊性、❷日時・場所等の特殊性、❸前科の犯罪事実やそれに密接する事実の特殊性の事情を使って、特に顕著な事実の有無のあてはめを行うことになります。
被告人以外の犯行可能性を否定できるかという観点から、❶では物(道具・材料)の希少性・入手困難性や手口・態様(手段)の専門性が重要となると思います。

 なお、③類似事実の犯人が起訴事実の被告人であることを前提としない間接事実の推認をするパターン(岩崎邦夫「判解」平成24年度337頁)にも、法理的関連性が認められる。
また、H24.9.7の射程外として、④被告人と犯人の同一性以外の証明に用いるパターン(S41.11.22、主観的要素の推認等)にも、法律的関連性が認められる。

 ①パターンと③パターンは、事前に推認過程を確認しておくと本番で出題されても混乱しなくなると思いました。

2 検討

 平成28年予備試験 刑事訴訟法設問2 ①パターン
 甲は本件被疑事実(住居侵入、窃盗、放火)で起訴されており、これについてすべて否認している。そのため、各犯罪との関係で犯人性が争点となっている。
 「証拠」(317条)→証拠能力→法律的関連性→
 規範:「前科にかかる犯罪事実に顕著な特徴」+「起訴事実と相当程度の類似性」
 あてはめ:本件前科(放火)で用いられたウイスキー瓶及びガソリンは、誰もが量販店で購入することができ入手が容易である。また、ガソリンの使用については、その揮発性の高さは一般人をして周知のとおりであり放火に用いることは想定しやすく、手製で火炎瓶を作成することも、インターネットを駆使して情報を集めれば誰においても容易である(❶)。さらに、両犯行には約7年間の隔たりがあり、日時場所との規則性や犯行後の行動等に特異な点は認められない(❷❸)。
 (本件前科(住居侵入、窃盗)で用いられた道具等は不明であるが、特異な道具等が用いられていないものと考えられれる。また、住居内の美術品の彫刻1点を盗むという態様は社会的事象としてままあり得ることである。)
 結論:したがって、被告人以外の者が犯行を行ったことを否定する程に「前科にかかる犯罪事実に顕著な特徴」を有するとはいえない。  
 ※仮に「前科にかかる犯罪事実に顕著な特徴」があるとすると、本件前科を有する甲(H県K市に単身住居)→同様の(住居侵入、窃盗及び)放火を行う犯罪傾向を有する→隣のJ市V方で起きた本件被疑事実にかかる(住居侵入、窃盗及び)放火についても同犯罪傾向に基づく甲が行ったはずだという不確かな推認過程を経るになってしまいます。②パターン。

抵当権に基づく搬出物の(抵当不動産への)返還請求(平成17年旧司法試験 民法設問2小問2)

(2019.07.05)

1 Twitterアンケート(2019.4.25)

 ①公示の衣説、②善意者取得説が存在し、多くの方が①を採用していると思います。



2 結論

 もっとも、結論として、両説は対立しているわけではないと考えられます。

3 分析

 ①公示の衣説(我妻)
 抵当権の【効力】が搬出物に及ぶことを前提に、搬出された場合には「第三者」(177条)に【「対抗」】することができない。もっとも、背信的悪意者は「第三者」にあたらないため【「対抗」】することができる。
 同説は、抵当権設定者本人(抵当権目的物上の動産の処分権を有する者)が搬出した等対抗関係にある物権変動の場合(松岡久和『担保物権法』51頁(日本評論社、初版、2017年)Case10等)を想定しています。

 そのため、動産の処分権を有しない者が搬出した等対抗関係にない物権変動の場合(青木則幸「判批」別冊ジュリスト237号百選Ⅰ90事件(S57.3.12)(有斐閣、第8版、2018年)等)には、即時取得説による処理が必要になります(工場抵当法の事例に関する同判例の射程が、民法の抵当権に及ぶことを前提とします)。

 ②善意者取得説(星野)
 抵当権の【効力】は、搬出物が第三者に「即時…取得」(192条)されるまで及ぶ。


 以上を簡単にまとめると、いずれの説も搬出物に抵当権の効力が及ぶことは前提としてるのですから、対抗関係がある場合には(背悪でない限り広く)取得者が保護されて、対抗関係がない場合には(即時取得したときに限定的に)取得者が保護される、ということになりそうです。

間接正犯(平成25年司法試験 刑法)

(2019.07.04)

1 Twitterアンケート(2019.4.25)

 間接正犯の法律構成としては、①実行行為性アプローチ、②正犯性アプローチが存在し、多くの方が①実行行為アプローチを採用していると思います。



2 結論

 もっとも、結論として、自分は両アプローチは使い分けができると考えています。そして、下記の考え方1だけでなく、考え方2(②正犯性アプローチを含む)をもストックすると良いのではないでしょうか。

3 分析

 ①実行行為性アプローチ
 正犯処罰根拠を、結果発生の現実的危険性が同等であることと捉える。
 上記危険性があるといえるためには、❶一方的利用支配関係が必要となる。
 故意の内容として、❷利用意思も必要となる。
なお、直接正犯と同等の実行行為性をメルクマールとする危険性説は、正犯(間接正犯)と共犯(教唆犯)との区別が困難になるため採用しません。

 ②正犯性アプローチ
 正犯処罰根拠を、正犯性を有することと捉える。
 正犯性があるといえるためには、❶客観的要件として、他人の行為を一方的に利用して結果の実現過程を支配したこと(重要な寄与=利用者と被利用者の関係・利用行為の態様・被利用者の状況)、❷主観的要件として、他人の行為を一方的に利用して自己の犯罪を実現しようとする意思(正犯意思)が必要となる。
 
 なお、❶のあてはめは、両アプローチでほとんど同じになり、下線部が重要な考慮要素となります。
 ❶被利用者の関係:親子関係等被利用者が利用者の指示・命令を拒否し難い事実上の関係
 ❶利用行為の態:働きかけの程度、被利用者を畏怖・困惑させその意思を抑圧するような強制や暴力等の有無・程度、犯行時に利用者が監視していたか否か
 ❶被利用者の状況:年齢や心神の発達状況、規範的意識の有無・程度、畏怖・困惑・意思抑圧の有無・程度、被利用者の行為についての自律的決定の有無、機械的な動作か複雑な行動か等被利用者が行った犯罪行為の内容や重大性


 以上を踏まえ、答案戦略的に考えて、どのように両アプローチを使い分ければいいのかを考えていきます。

 考え方1:(割り切って)全て②実行行為性アプローチ
❶一方的利用支配関係については、考慮要素が両アプローチでほとんど同じなので、特に問題ありません。
 もっとも、故意の内容として❷利用意思が必要であることを認定しただけでは、❷自己の犯罪として利用したという正犯類型の考慮要素を拾って認定・表現すること(教唆犯との峻別)が難しいように思います(❷のあてはめは、両アプローチで異なるためです。)。事実を拾えないという点で悩ましいです。

 考え方2:原則①正犯性アプローチ(例外②実行行為性アプローチ)
 間接正犯の事例は、途中知情事例とそれ以外の事例に大きく分かれます。
 答案(特に共犯)は実行行為者から検討していくことがセオリーですので、途中知情事例では被利用者の直接正犯の検討から始めます。
 他方、それ以外の事例は、利用者の犯罪を検討します。こちらの事例では、被利用者の行為に犯罪が成立する場合と、被利用者の行為に犯罪が成立し得ない場合とがあり、適するアプローチが異なると考えます。前者では、まさに原則正犯性アプローチが適しています。しかし、後者では、共犯として関与すべき被利用者の行為に犯罪が成立し得ない以上、利用者の関与に犯罪を成立させることが困難です。そこで、例外的に実行行為性アプローチを採用して、利用者の利用行為が特定犯罪の実行行為性を有するかを検討します。

4 検討

 以上を踏まえ、原則①正犯性アプローチ(例外②実行行為性アプローチ)の適用を見ていきます。

 途中知情事例において、原則正犯性アプローチ(例外実行行為性アプローチ)を採用したとき、正犯性アプローチに従うと、道具性を欠くため❶が不充足になります(ここで注意したいのは、間接正犯が成立しないことから直ちに間接正犯と教唆犯の抽象的事実の錯誤の検討に入らないということです。)。
 次に、利用者の関与について「実行の着手」(43条本文)があれば、間接正犯の未遂罪が成立します。間接正犯の「実行の着手」については、利用者標準説と被利用者標準説の対立があり、前者では未遂罪の間接正犯が、後者では被利用者が途中知情した以上未遂罪の間接正犯は成立し得ず、予備罪(単独犯)が成立し得るにとどまります。
 最後に、教唆犯が成立することを認定した後、間接正犯と教唆犯の抽象的事実の錯誤を検討することになります。通常、保護法益と行為態様に照らして、教唆犯の限度で故意が認められることになるかと思います。なお、厳密には、教唆犯の検討の前に、共謀共同正犯をすることになります。しかし、片面的共同正犯を認めない限り、共謀共同正犯は成立し得ません。

 既遂罪の間接正犯:不成立
 未遂罪の間接正犯:不成立
 予備罪:成立
 共謀共同正犯:不成立
 教唆犯:成立

 そして、予備罪は、教唆犯に吸収される結果、教唆犯の罪責を負うことになります。
 以上の通り、論点は多岐に渡るため、はあくまでもメインである既遂罪の間接正犯及び教唆犯を厚く論じ、それ以外はコンパクトに処理する必要があります。


 法学セミナー 大塚裕史 第22講 間接正犯と共同正犯・教唆犯 2017.07 750号 86-95頁

横領後の横領(平成24年司法試験 刑法)

(2019.07.04)

1 結論

  同論点については、よくある論パ(高裁ベース)で処理する方がほとんどかと思います。
先行行為が抵当権設定、後行行為が売買契約というのが典型例で、先行行為では所有権侵害が(比喩的に)半分であり、後行行為によって全部侵害されるため、別個の法益侵害があるという理論です。

 自分は答案に書く際には以下の理由から最高裁ベースで論じるようにしていました。
 第1に、個人的には条文文言と離れた抽象論を展開したくないと思っています(高裁の理論でも法益侵害について言及することになるので、条文に引きつけて論じることは可能だと思いますが。)。
 第2に、いずれも売買契約であった場合には説明ができますか?という点です。
 第3に、高裁の理論が、最高裁によって変更されていることです。また、高裁の理論も、横領後の横領を肯定するという点で、後行行為時点において、対象物が「自己の占有する」「他人の物」に該当することは前提となっています。そうであれば、最高裁ベースの方がスマートだと思います。

2 分析

 最高裁ベース
 ・・・先行行為に横領罪が成立する。
 先行行為に既に横領罪が成立しており、保護法益が侵害されている以上、対象物は「自己の占有する」「他人の物」(252条1項)とはいえず、不可罰的事後行為として後行行為には横領罪は成立しないのではないか。
 同条の保護法益は、所有権(「他人の物」に対応)及び委託信任関係(「自己の占有する」に対応)である。
 先行行為に横領罪が成立しても、未だ所有権は委託者の下にあり、依然として委託信任関係も継続している。そのため、対象物について先行行為に横領罪が成立しても、「自己の占有する」「他人の物」であるといえる。
 では、後行行為は「横領」といえるか・・・(省略)。

 なお、この場合には、罪数処理を忘れないことが重要です。先行行為に成立した横領罪と後行行為に成立した横領罪は、いずれも犯罪として成立し得る(共罰的事後行為である)ものの、保護法益の共通性に照らして包括一罪の関係にあるからです。

3 おまけ

 刑法に限ったことではありませんが、答案を書くべき適切な順番というものがあります(すごく簡単なところだと、民法の解除の要件(541条、542条1項2項)→解除の意思表示(540条1項))。

 業務上横領罪(253条)について、自分は以下のような順序で答案を書いていました。
 「業務」とは、社会生活上の地位に基づき反復継続して行われる事務であって、委託を受けて物を占有保管する事務をいうところ、甲は~契約によって~の委託を受けて、~の地位に基づき反復継続しているためかかる事務は「業務」にあたる。
 「自己の占有する」とは、法律上の占有を含むところ、上記委託によって、~できる(権利がある)ため、対象物は、「自己の占有する」「他人の物」にあたる。
 「横領」とは・・・(省略)。
 「業務」で地位を指摘し、「自己の占有する」で前述の地位に基づく権限を指摘します。


 文書偽造罪の有印私文書偽造罪(159条1項)及び同行使罪(161条1項)について、自分は以下のような順序で答案を書いていました。
 いかなる「文書」か→「偽造」→「印章」又は「署名」→「行使の目的」→「行使」
 「偽造」の対象となる「文書」がいかなる種類の文書か特定し、「偽造」行為を認定し、有印か否かを指摘し、主観的構成要件たる「行使の目的」を認定します。その後、「行使」も認定します。