答案のおとし所

(元)司法試験受験生の立場から、再現答案のアップしたり、日々の勉強での悩み、勉強法などについて書いていきます。

競業避止義務(特に事実上の主宰者)(平成27年司法試験 商法設問1)

(2019.07.18)

1 事案

甲社取締役B
乙社代表取締役D(乙社株式100%→10%)
Dから譲り受け→B(乙社株式90%)がDを介して事実上取引を行う

2 結論

 取締役会設置会社において、「取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき」(365条、356条1項1号)、株主総会で「重要な事実を開示」し「承認」を得なければならない。

 一般的には、「自己又は第三者のために」で計算説を書き→「事業の部類に属する取引」で市場調査等があれば広く解釈する(東京地裁S56.3.26、山崎製パン事件)ことになると思います。
 このようになるのは、条文文言の流れや同年出題趣旨・採点実感の流れにも沿っていることから自然なことであると思います(もしかすると大阪高判H2.7.18の規範を採用しているのかもしれません。)。

 もっとも、事実上の主宰者性が問題となるような事例について個人的には、①株式会社の「事業の部類に属する」取引→②「取締役が…取引」をしたか(事実上の主宰者性)→③自己又は第三者の「ために」という順に論じるのが良いのではないかと考えています。
 なお、事実上の主宰者の議論は、取締役が別会社で代表取締役又は取締役に就任せずに、ワラ人形や傀儡の取締役を就任させ、これを利用する形態にと、競業避止規制を及ぼすもの(潜脱防止)です。

3 分析

 客観→主観の検討という流れを出すために、①→③の順が良いと考えます(条文文言の流れや趣旨・実感の流れに逆らうことになりますが)。なお、①の段階で、少なくとも問題とすべき取引を特定しておくことが大切です。

 重要だと考えているのは、②と③を別に論じることです。
 確かに、事実上の主宰者性の事情(②)を、「自己又は第三者のために」(③)の枠で論じることも不可能ではないと思いますし、そのような答案が多いように見受けられます。
 しかし、③自己又は第三者の「ために」という要件で検討すべき要素は、行為の経済上の利益の帰属先(計算説)です。他方、②事実上の主宰者性で考慮すべき要素は、(同年の事例では)持株割合、事業への関与、顧問料の受領、工場長の引き抜きや商標取得への関与等です。
そのため、厳密に言えば、③の枠の中で②を書ききろうとするのは難しい(②の規範とあてはめがズレる)と思います。
 また、同年採点実感2⑵ア3段落で、「取締役が自己又は第三者のために…取引をしようとするとき」の要件について言及した後、同5段落で「上記の要件のうち、「自己又は第三者のために」の要件の当てはめについては…」としており、②と③を別に論じることができると考える余地があります。
 そうすると、大株主として当該会社を支配している事案(東京地裁S56.3.26、山崎製パン事件は90%保有)では「自己」の「ために」とし、持株比率が過半数に満たない事案(大阪高判H2.7.18)では「第三者」の「ために」と認定することになります(中村信男「判例における事実上主宰者概念の登場 事実上の主宰者への取締役関連規定の適用事例」判タ917巻119頁参照)(もっとも、同年採点実感2⑵ア5段落では「Bが乙社の発行済株式の90%を保有していることのみを理由としてBの行為は自己のためにした行為であると述べた答案が多く見られた」と述べた後に、下級審裁判例によれば、事実上の主宰者が肯定される事情があるときは、取締役の行為は第三者のためにされたものとされているが、このことを意識した答案はほとんど見られなかった」と述べている。同下級審裁判例とはおそらく「第三者」の「ために」と認定した、東京地裁S56.3.26、山崎製パン事件だと思います。先述の通り、事実上の主宰者の議論は、法の潜脱防止にあるため、利益の帰属が「第三者」の「ために」(計算)なされていることを示した上で、競業避止規制を及ぼすことができるかを論じることは自然であるともいえます。)。
 以上からすると、②と③を別に論じることになると考えます。そして、②→③の順が自然かと思います(「自己」の「ために」とするなら行為の経済上の利益の帰属先を指摘し、「第三者」の「ために」とするなら②の事情をも考慮する)。