答案のおとし所

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【再現答案】令和2年司法試験 刑法 B評価

1 再現答案 3174文字

第1 設問1
 1 ①の説明
  ⑴ 甲がBに対して暴力団組員であることを装い600万円を口座に入金させ行為について、以下の理由から、600万円の恐喝罪(刑法(以下省略)249条2項)が成立する。
  ⑵ 「恐喝」とは、財産上の利益処分に向けられた、相手方の意思を抑圧するに足りない程度の害悪の告知をいう。
    甲は、600万円を自己の口座に入金させるために、暴力団組員であると装い「金を返さないのであれば、うちの組の若い者をあんたの家に行かせることになる」と述べている。このような発言をされれば、一般人であれば、自己又は家族に危害が加えられるのではないかと畏怖するといえ、相手方の意思を抑圧するに足りない程度の害悪の告知があったといえる。
    したがって、「恐喝」に当たる。
  ⑵ 甲の口座に600万円が入金されており「財産上不法な利益を得」たといえる。
  ⑶ 上記行為がなければ、Bは財産上の利益を処分しなかったといえるため、処分した600万円全額が損害額となる。
 2 ②の説明
  ⑴ 上記行為について、以下の理由から、100万円の限度で恐喝罪が成立するにとどまる。
  ⑵ 甲は、Aから既に弁済期の到来した500万円の本件債権について債権回収を依頼されており弁済受領権限が有る。そのため、500万円については、構成要件的危険性がなく、100万円についてのみ構成要件的危険が発生するに過ぎない。
 3 私見
  ⑴ 同条の保護法益は意思決定の自由及び財産権にあるため、反抗抑圧に至らない程度の害悪の告知があれば、構成要件該当性が肯定されると考えるべきである。
    そのため、本問では「恐喝」行為があるため、600万円全額につき構成要件該当性が肯定される。
  ⑵ 判例は、債権額の範囲内で、かつ権利行使の方法が社会通念上相当なものである限り違法性が阻却されるとする(35条)。
    本件債権は500万円であるところ、甲は600万円に水増ししており債権額の範囲内とはいえない。また、権利行使の方法も上記のような虚偽を含む畏怖を生じさせるという方法であり社会通念上相当とはいえない。
    したがって、35条によって違法性は阻却されない。
  ⑶ もっとも、債務者Bの同意によって、500万円については違法性が阻却されないか。
    本問では、Bには、本件債権の回収がAから甲に依頼されたことを伝えられている。そのため、本件債権に対する弁済として500万円を支払うことについては同意があったといえる。
    したがって、500万円の限度で違法性は阻却される。
  ⑷ よって、上記行為について、100万円の限度で恐喝罪が成立するにとどまる。
第2 設問2
 1 構成要件的危険性がない点
  甲は、睡眠薬を混入させたワインをAに飲ませる行為を行った。本件で混入した量の睡眠薬を摂取しても、客観的には人が死亡に至る危険はなかった。そのため、上記行為は、Aの自然の死期に先立って生命を断絶する危険性を有する行為とはいえず、「殺」すに当たらないから、殺人罪は成立しない(199条)。
 2 因果関係がない点
  仮に構成要件該当性が認められたとしても、Aの死亡結果はAの特殊な心臓疾患によって発生している。
  そのため、因果関係が切断されるといえ、殺人罪は成立しない。
 3 故意がない点
  甲は、上記睡眠薬を投与する行為(第1行為)によってAを眠らせた後、X剤等によって致死量の有毒ガスを発生させこれを吸引させること行為(第2行為)によってAを死亡させようと考えていた。
  そのため、第1行為の時点において、甲はAの死亡結果を認識及び認容しておらず、故意が認められないから、殺人罪は成立しない(38条1項本文)。
第3 設問3
 1 第1行為について、以下の理由から、強盗傷人罪(240条後段)が成立する。
  ⑴ 「強盗」
   甲は第1行為を行っており、睡眠薬が投与されれば犯行が抑圧されるのが通常であるから「暴行」があったといえる(236条2項「前項の方法」、1項)。
  結果としてAは死亡しており、本件債権の存在を証明する資料が存在しないこと、AB甲以外に本件債権の存在知っている者がいないこと等からすると、本件債権を基礎として発生したAの甲に対する500万円の不当利得返還請求権は、実質的に行使困難になったといえ「財産上不法な利益を得」たといえる。
  したがって、第1行為は2項強盗に当たり、「強盗」に当たる。
  ⑵ 「死亡させた」
   ア 同条は、結果的加重犯としての強盗致死罪だけでなく、故意による強盗殺人罪をも定めている。
   イ では、第1行為は死亡結果を発生させる危険性を有するか。すなわち、第1行為の時点で「実行…着手」があるか(43条本文)。
     「実行…着手」があるといえるためには、文言上の制約からくる①構成要件該当行為との密接性、及び未遂犯の実質的処罰根拠である②構成要件的危険性が必要となる。ここでは、❶第1行為が、第2行為を確実かつ容易にするために不可欠であること、❷第1行為を行った場合に第2行為を行うことにつき障害なないこと、❸第1行為と第2行為の時間的場所的接着性があることを考慮して判断する。
     本問では、第1行為たる睡眠薬投与行為は、第2行為によって発生させた有毒ガスを吸引させるための手段である。睡眠薬によって意識を失わせれば死亡結果を発生させる危険のある第2行為は容易に行うことができる(❶)。また、確実に数時間は目を覚まさない程度の睡眠薬によってAを眠らせてしまえばA方に隣接した駐車場に駐車した自車内のX剤等を取りに行き第2行為を行うことに障害はない(❷)。さらに、A方と自車が隣接していたことから第1行為と第2行為は時間的場所的に近接していたといえる(❸)。
     したがって、第1行為の時点に、①密接性と②危険性が存在するといえ、「実行…着手」がある。
   ウ よって、「死亡させた」といえる。
  ⑶ア 因果関係があるといえるためには、行為の危険が結果に現実化したといえることが必要となる。
     本問では、前述の通り、第1行為の時点で死亡結果を発生させる危険性があった。他方で、第1行為で投与された睡眠薬は、それ自体生命に対する危険性は全くないものであり、死亡結果はAの特殊な心臓疾患があったという介在事情によって発生したとも言い得る。しかし、甲の第1行為がなければAは睡眠薬を摂取することはなかったのであり、死亡結果は第1行為によって誘引されたものといえる。
     したがって、第1行為の危険が結果へと現実化したといえ、因果関係が肯定される。
   イ 甲は、第2行為によってAを死亡させることを計画していたが、実際には第1行為によって死亡結果が発生している。そのため、因果関係の錯誤が問題となる。
     もっとも、危険の現実化の範囲内で符合する限り、規範に直面したといえ故意は阻却されない。
     本問では、甲が想定していた有毒ガス吸引によるAの死亡と、実際に発生した睡眠薬による死亡とは、危険の現実化の範囲内で符合するといえ、故意は阻却されない。
  ⑷ 甲は、第2行為によって、Aを死亡させようと考えていたが、甲の計画をも考慮すると、死亡結果を発生させる第1行為を行った時点において、Aの死亡結果に対する認識があり、これを行っているため死亡結果を認容していたといえる。そのため、第1行為の時点において、故意がある。
 2 A所有の高級腕時計を自らの上着のポケットに入れた行為について、以下の理由から、窃盗罪(235条)が成立する。
  ⑴ 高級腕時計は財産的価値のあるA所有物であるから「他人の財物」といえる。
  ⑵ 「窃取」とは、占有者の意思に反して占有を侵害し自己または第三者に移転させることをいうところ、同時計はポケットに入れた時点で生存するAの占有が認められ、かかる行為はAの昏睡中に行われたためAの意思に反して占有を侵害し、甲に移転させたといえるから、「窃取」がある。
  ⑶ 甲はAの利用を排除し、遊興費を得る意思があるから、不法領得の意思がある。
  ⑷ また、占有侵害を認識して窃取しておりそれでもかまわないと認容しているから故意もある。
以上

2 分析 ※太文字は試験中の思考

設問1
①の説明及び②の説明に言及した上で、甲の罪責を論じる(私見を述べる)という問いに答えることを意識した。
・損害額が争点となるといえば、パチスロ機について通常遊戯方法である限り占有者の意思に反しないないから損害額から除外されるという判例
最判平成19年4月13日)を想起した。しかし、本問は2項恐喝であり(捉え方次第では、口座への入金をもって1項恐喝もあるだろう。この辺については事例演習教材の事例39(渡る世間は金ばかり)の解説1⑴が参考になります。また、同事例47(母さん、僕だよ)の解説2では詐欺の文脈ではあるが「100万円の預金債権を不法に取得したとして、二項詐欺罪の成立を認めるのが筋であるが、100万円の振込みは現金100万円の占有を取得したしたことと同視しうるとして、一項詐欺罪の既遂を認めるのが実務の一般的な運用であるといわれる」ととしています。)、この判例は援用できなかった。
・次に考えたのは、構成要件レベル又は違法性阻却レベルで損害額の捉え方を変えるというもの。詐欺罪における実質的個別財産説を参考にして、②では、500万円については実質的損害がなく構成要件該当性を否定(100万円についてのみ実質的損害があり構成要件該当性を肯定)される。しかし、額で構成要件該当性を分けることができるかについては適切なものかよくわからず違和感(実質的個別財産説は、未成年者が年齢を偽って成人誌を購入した場合に実質的損害がないとして未遂すら否定する理論と記憶していたので)あった(事例演習教材の事例25(報復と仲間割れ)の解説では「権利行使の部分については財産損害はないとして、恐喝罪の構成要件該当性を否定する見解も有力である」とされています。)私見では、恐喝による取立ての違法性阻却を検討した。

・これに続けて被害者の同意による違法性阻却を検討した。しかし、これは筆が滑った感がある。現場でこのように考えたのは、たしかに甲の恐喝によりBは畏怖しているから有効な同意なんて観念できないとも思えるが、AがBに対して甲が本件債権を取り立てる旨を伝えてBがこれに同意したとすれば事前の有効な同意を観念し得ると思ったから。簡素な問題でしたが、個人的にはよくわからない問題だった。
設問2
「簡潔に述べなさい」に従うように努めた。おそらく設問3への誘導となっているのだろうと思った。最低限の事実を指摘し、あてはめの中で規範を示した(具体的な事実については、設問3で論じようと思った)。しかし、設問2の問いでは、殺人既遂罪が成立しないという結論の「根拠となり得る具体的な事実」を3つ挙げ、当該「結論を導く理由」を事実ごとに書くことが求められていました。具体的な事実として足りないのではないか、規範を導く理由が求められていたとすればあてはめを示すだけでは問いに答えたことになっていないのではないかなど疑義がある。
設問3
設問2の誘導に従うと、上記で論じた3つの観点から考えると甲の犯罪が成立しないとする余地があり、この3点をいかにフォローしながら犯罪成立を肯定するのかが問われているのだろうと推測した。
・2項強盗による強盗傷人罪を主に論じた。加えて、腕時計の窃盗罪(不法領得の意思が故意とは異なる要件であることを並列して論じることで示した)を論じた。他方、払い戻し行為につき詐欺罪、
Aから依頼を受けて弁済を受けた金銭を消費した行為ににつき横領罪、ホームセンターでX剤等を購入した行為につき強盗予備罪を検討する余地があるのだろうが、時間との関係で論じなかった。このように論点を絞る方針にしたのは、上記推測によるものである。しかし、設問3の問いは「【事例2】における甲の行為について、その罪責を論じなさい」「なお、【事例1】における甲の罪責及び【事例2】で成立する犯罪との罪数については論じる必要はない」とされており、裏を返せば【事例2】における甲の行為全てが検討対象となり、これらの犯罪については罪数処理が必要ということ。また、上記のような推測では、事実3の事情を全く拾えてないんですよね。そうすると、甲の罪責は網羅的に検討し罪数処理までするべきであり、自分の方針はあまりよくないのでしょう。詐欺罪、横領罪の検討を欠いたことは、評価が沈む原因となりそう。それにしても時間足りないでしょ。
設問3で一番悩んだのは、強盗殺人罪の成立要件である「強盗」が何条の強盗罪なのかということ。甲はAに対する不当利得返還債務を免れようとしているため2項強盗として問擬できるものの、睡眠薬投与行為自体を相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行又は脅迫といいにくいのではないか。他方、昏睡強盗として問擬すると、「財物の窃取」といいにくいのではないか。
・また、「実行…着手」の論点をどの段階で論じるべきかについても悩んだ。強盗殺人罪の成立要件である「強盗」の実行行為の中で論じるのか、それとも強盗殺人罪の「死亡させた」の中で論じるのか。