答案のおとし所

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【再現答案】令和2年司法試験 刑事訴訟法 A評価

1 再現答案 3055文字

第1 設問1
 1 ①取調べが「強制の処分」(刑事訴訟法(以下省略)197条但書)たる実質的逮捕に当たるとすれば、逮捕状(199条1項本文)に基づいて行われていないため、令状主義(憲法33条)に反して違法である。
  ⑴ 「強制の処分」とは、強制処分法定主義と令状主義の両面にわたり厳格な法的制約に服させる必要があるものに限定すべきである。また、処分に対して相手方の承諾がある場合にはそれによって権利利益の制約は観念し得ないから、意思に反して行われるものであることが前提となる。
    そこで、「強制の処分」とは、❶相手方の意思に反して、❷重要な権利利益を実質的に制約するものをいうと解される。
  ⑵ 本問では、任意同行(198条1項本文)に応じた甲は、①取調べ期間中、帰宅しようとしたことはなく、仮眠したい旨の申出をしたこともなかった。また、食事を摂り、休憩も取っている。そうすると、自らの自由な意思に基づいて①取調べに応じていたものといえる。したがって、意思決定の自由が実質的に制約されていたとはいえない(❶不充足)。また、①取調べは、取調室及びその周辺には現に取調べを行っている取調官のほかに警察官が待機することはなかったのだから、甲の移動の自由が実質的に制約されていたともいえない(❷不充足)。
  ⑶ よって、①取調べは「強制の処分」ではなく、逮捕状に基づかないことは、令状主義違反とならない。
 2 では、任意捜査(197条1項但書)としての限界を超え違法といえないか。
  ⑴ 捜査比例の原則から、事案の性質、容疑の程度、被疑者の態度等から捜査の必要性等を考慮した上で、具体的状況の下において相当といえる限度を超えれば違法と解される。
  ⑵ 本問の①取調べは、類似事件が5件続くとされる本件住居侵入窃盗の検挙に向けられて行われている。同事件には早期の犯人検挙を求める要望が多数寄せられており、早期の事案解明が必要な重大事件である。また、容疑者甲は、Wの証言によれば、X方1回掃き出し窓のクレセント錠近くのガラスにガラスカッターを当てていたとされている。X方のガラス窓には半円型の傷跡が残されていた。そのため、それ以後に発生したガラス窓に半円形に割られた上で施錠が外されたという本件住居侵入窃盗に、甲が関与している疑いがあった。
    他方で、甲は素直に任意同行に応じており、24時間という長時間に及ぶ①取調べを行う必要性が高かったとまではいえない。
    また、たしかに、甲は任意同行に応じて帰宅等の申出を行っていないことからすると、意思決定の自由に対する制約は一切観念できないとも思える。しかし、事前の同意をもってそれ以降の全ての不利益を甘受したものと考えるべきではない。①取調べは午後9時20分から始まっており、甲は、翌日午後3時頃には言葉数が少なくなっている。この時点で①取調べから既に18時間程が経過しており、長時間の睡眠を取りたいと考えるのが通常であるにもかかわらず、このような配慮がされておらず、甲は不利益を受けている。そしてこれは深夜帯に行われているものであり、かかる不利益は甚大である。
  ⑶ したがって、①取調べは、捜査の必要性を考慮しても、具体的状況の下において相当とされる限度を超えたといえ、違法である。
第2 設問2小問1
 1 自白法則
 319条1項は「任意にされたものでない疑のある自白」は証拠とすることはできないとされる。
 同条の趣旨は、このような自白は類型的に虚偽であるおそれが高く、誤判に通ずる危険があるため、事実認定の基礎から排除するものである。
 そのため、「任意にされたものでない疑のある自白」とは、類型的に虚偽の自白を誘発するおそれがある状況下でなされた自白をいうと解される。
 2 違法収集証拠排除法則
 同法則は、令状主義を潜脱するような重大な違法があり、将来の違法捜査抑止の権利から排除することが相当な場合、証拠を排除するものである。
 これは、司法の廉潔性を保持し、将来の違法捜査抑止の抑止するためである。
 3 適用の在り方
  ⑴ 自白法則を違法収集証拠排除法則の一類型と捉える考えからも存在するが、以下の理由から、かかる見解は採用できない。
    このように考えることは、319条1項の文言にそぐわないし、偽計による手段等のように重大な違法がなく自白の任意性についてのみ問題があるがある場合に証拠を排除できないとするのは不当だからである。
  ⑵ そうすると、両法則は重畳的に適用されることになるが、自白の任意性が問題となっている本問においては自白法則が適用されると考える。
第3 設問2小問2
 1 甲の自白は「任意にされたものでない疑のある自白」にあたるか。
 2 本問では、①取調べにおいて、Qは、甲に対して、本件住居侵入窃盗に関して甲の目撃情報があるという虚偽の内容を告げた。かかる内容は、本件住居侵入窃盗が甲の犯行であることを強く推認させるものである。そして、かかる発言がされたのは、既に18時間程度の取調べがなされた段階である。そのため、疲労している甲において、かかる発言を受ければ精神的に動揺し又は自暴自棄に陥ってこの追及から逃れるために虚偽であっても自白するおそれがあるといえる。
 3 したがって、甲の自白は、類型的に虚偽の自白を誘発するおそれがある状況下でなされた自白といえ、「任意にされたものでない疑のある自白」にあたる。
  よって、自白法則によって、甲の自白の証拠能力は認められない。
第4 設問3
 1 法律的関連性が認められない証拠は、これを基礎として判断すると事実認定を誤るおそれがあるため、事実認定の基礎とすることはできない。そのため、このような証拠請求も認められない。
 2 類似犯罪事実によって犯人性を立証する場合、原則として法律的関連性が否定される。これは、犯罪性向という実質的根拠の乏しい人間評価を介した不確実な推認過程をたどることになるからである。
 3⑴ そのため、それ自体で犯人性が合理的に推認できるような立証方法であれば、以上のような不確実なる推認過程をたどらないといえ、例外的に法律的関連性は否定されないといえる。
    具体的には、ⅰ類似の犯罪事実に顕著な特徴があり、かつⅱそれが起訴された犯罪事実と相当程度類似するものであることが必要となる。
  ⑵ 本問では、類似の犯罪事実とされるのは、住居侵入窃盗に当たって1階掃き出し窓のクレセント錠近くのガラスをガラスカッターを用いて半円型の傷跡を付けて割ったうえ侵入し犯行に及ぶというものである。しかし、このような手法は住居侵入窃盗において頻繁に行われているものである。また、ここで用いられたガラスカッターは一般に流通し、容易に入手可能なものであったのだから、道具の希少性は高くない。さらに、甲方で差押えられたガラスカッターにはVの指紋やV方のガラスは付着しておらず、防犯カメラ映像にも甲の姿は映っていなかった。そのため、かかる犯行態様には顕著な特徴があったとはいえない(ⅰ不充足)。
    このような類似の犯罪事実の存在から甲の本件住居侵入窃盗の犯人性を立証する場合には、ガラスカッターを所持していれば住居侵入窃盗に使っただろう、以前に住居侵入窃盗をしていれば本件住居侵入窃盗にも関与しているだろう等の実質的根拠の乏しい人間評価を介した不確実な推認過程をたどることになる。そのため、類似の犯罪事実それ自体で犯人性が合理的に推認できるとはいえない。
  ⑶ したがって、原則通り、証人尋問予定のWの発言内容は、法律的関連性は否定される。
 4 よって、②の請求につき、裁判所はこれを認めるべきでない。
以上

2 分析 ※太文字は試験中の思考

設問1
休憩を取っているとはいっても24時間の取り調べなんて(甲方とH警察署は徒歩10分であり容易に帰宅させることができますし)直感的にも、設問2の違法収集排除法則との関係でも、違法だろうと思った。
令和元年司法試験では別件逮捕勾留が問われていたため、強制処分では連続して身体拘束関係が問われるのではないかと考え、準備しておいてよかった。この論点でも、判例は強制処分(基本的には理由付けをできるだけ削っていくタイプですが、ここに関しては原告適格と同様にとりあえず書きました)(最決51年3月16日、富山地決昭和54年7月26日)と任意捜査(高輪グリーンマンション事件、最判昭和59年2月29日)の2段階枠組み処理しているとされている。もっとも、強制処分レベルで意思決定の自由に制約がないとすると、任意捜査レベルで被侵害利益を認定しにくいというのが論じにくい点である(酒巻説は、意思決定の自由が侵害されるか侵害されないかの二者択一関係にあり、2段階目で意思決定の自由に対する侵害は観念できないため、利益衡量的枠組みにはよることはできないとしても、事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、「社会通念上」相当と認められる方法ないし態様及び限度において、許容されるという「行為規範」を示したとします。他方、川出説は、意思決定時点の法益侵害だけでなく、意思決定後の法益侵害を被侵害利益と捉えて、なお比較衡量の枠組みを用いた上で反対利益として考慮することができるとします(両説について、詳しくは古江頼隆『事例演習刑事訴訟法』48-52頁(有斐閣、第2版、2015年))。

自分の答案では、後者の立場を念頭に置きつつ、任意捜査レベルでは被侵害利益をぼかして「不利益」という語を使って説明したつもりだが、あてはめの中で抽象論の理由を述べでおりあまりうまく書けていない。
また、強制処分レベルでの検討事項に移動の自由や人身の自由、さらには黙秘権をも含むのか等という難しい問題もある
(詳しくは宇藤崇ほか『リーガルクエス刑事訴訟法』(有斐閣、第2版、2018年)の昭和59年判例の解説「「相当性」の意義」。)。さらに、個人的には、第1段階目で自由な意思決定に基づくとされる場合に、①意思に反するか、②重要な権利利益を実質的に制約するかのいずれで「強制の処分」該当性を否定するのかも悩んだ斎藤司刑事訴訟法の思考プロセス』60-62頁(日本評論社、2019年)は、出頭拒否・退去の自由(198条1項但書参照)について①´「意思の制圧」で考慮しているようです。)。・「クレセント錠」というのは、平成20年司法試験刑事訴訟法で出てきます。これは司法試験では常識とされているのでしょう。とはいえ、事実1でクレセント錠とともに施錠(名詞)が出てくるので、これは別物なのかと混乱しかねません。さらには、設問3との関係では、クレセント錠がどの程度普及しているものなのかということがわからないと結論に影響が出てしまうように思われ、これは問題があると思います。
個人的には、クレセント錠よりも、「掃き出し窓」ってなんだっけと思ってしまいましたが、こちらは結論にあまり影響しないでしょう(ちなみに、こちらは平成29年司法試験刑事訴訟法で出てきます)。

設問2
自白法則と違法収集証拠排除法則の適用関係については、違法収集排除法則で一元的に処理する見解(二元説)も存在する。事前準備の段階で、派生証拠等問題の事案によっては同見解を採用することもあり得ると考えていた。もっとも、同見解では本問のような違法性の弱い偽計による手段が用いられている場合が試金石となっている。そのため、同見解は採用せず、両法則が重畳適用されるという見解(二元説)を採用した。そして自白法則をメインに論じることにしたが、自白法則が優先適用されることを適切に説明することができなかったと思う(主に違法収集証拠排除法則を優先的に適用されない理由(自白法則を優先的に適用する消極的理由)を述べたにすぎず、自白法則を優先的に適用する積極的理由は分量的に全然書けていないことが心配ではある)。他方、一元説を採用すれば、一元説の論証の過程で、自動的に「自白法則と違法収集排除法則の適用の在り方」が導かれるため、正面から問いに答えることができたはずであり、ここにジレンマを感じた。
設問3
直感的にガラスカッターで窓ガラスを半円型に割って住居に侵入して窃盗を行うという犯行態様は顕著な特徴があるとは到底言えないと思った。
・類似の犯罪事実によって犯人性を立証する場合、犯罪性向等の乏しい人間評価を介することなく、それ自体で合理的な推認を行うことができるのかが問われているのだと思った。そのため、伝聞法則と同様に、推認過程を詳細に論じることに努めた。

・起訴され判決が確定した前科(各論については以下のブログもご参照ください)ではなく、類似事実から犯人性を推認するという特殊性は、どのように評価すべきか悩んだが、悩みを見せることはできなかった。
piropirorin0722.hatenablog.com