答案のおとし所

(元)司法試験受験生の立場から、再現答案のアップしたり、日々の勉強での悩み、勉強法などについて書いていきます。

【再現答案】令和2年司法試験 民事訴訟法 B評価

1 再現答案 3248文字

第1 設問1 課題1
 1 将来給付の訴えが認められるためには、あらかじめその請求をする「必要」性が要件となる(民事訴訟法(以下省略)135条)。
   本問において、Y2はAから相続した敷金返還請求権60万円の支払いをXに求めている。
   他方で、XはAから受け取った金銭は礼金であって、返還の必要のある敷金ではないとして、敷金返還請求権の存在を争っている。
   したがって、現時点において、請求権の存在を認めておく「必要」性があるといえる。
 2 また、将来給付の訴えは、あらかじめ請求を認めたとしても、事後の事情変動により、解決基準として意味をなさなくなるだけでなく、債務名義として不当な執行を招くおそれがある。そのため、訴えの利益の前提として、請求適格も要件となる。
   請求適格とは、①請求権の基礎となる事実関係及び法律関係が既に存在しその継続が予定されており、②被告に有利な事情変動があらかじめ明確に予想でき、③請求異議の訴えによって執行を阻止することの負担を被告に課しても不当といえないことをいう。
   本問では、AX間本件契約において、敷金として120万円がAからXに差し入れられている。また、X及びY2によればAX間の解約合意によって本件契約は9月30日に終了する。さらに、8月分まで賃料の滞納はなく、本件建物には損傷はない。そのため、Y2が本件契約終了後に本件建物を明け渡せば、60万円満額につき敷金返還請求権を行使することができる状況にある(①)。
   また、被告Xに有利な事情変動として考えられるのは、敷金返還請求権が賃貸借契約が終了し不動産が明渡された後に一切の債務を控除した残額につき発生するという特質に照らすと、本件建物に一見して見つけることのできなかった通常損耗を超える損傷がある等の例外的な場合に限定される(②)。
   そうすると、このような状況において、あらかじめY2に敷金返還請求権を認めた上で、被告Xに上記事情変更が生じた場合に請求異議の訴えの負担を課したとしても不当とはいえない(③)。
   したがって、請求適格があるといえる。
 3 よって、Y2の将来給付の訴えは認められる。
第2 設問1 課題2
 1 確認の訴えは、対象が無限定となるおそれがあり、また給付の訴えのように執行力がなく実効性に乏しい。そのため、確認の利益を限定的に考えるべきである。
   そこで、❶対象選択の適否、❷即時確定の利益、❸方法選択の適否から、確認の利益が認められるか判断する。
   本問では、本件契約が終了した後に本件建物が明け渡され一切の債務を控除したこと条件にその残額について発生する現在の停止条件付敷金返還請求権と構成している。Y2としては、同権利が認められるのであれば本件契約終了を争わずに本件建物を明け渡そうと考えており、仮に同権利が認められなければ本件契約の終了を争う又は本件建物を明け渡さないと考えるはずである。そのため、同権利の存在について既判力をもって確定することは当事者の紛争解決にとって有効適切といえる(❶)。
   また、前述の通り、Xは敷金の存在について争っているのであり、Y2の権利に不安が存在し、その不安を除去する必要があるといえる(❷)。
   さらに、課題2においては、将来給付の訴えが認められないことが前提とされているため、他に適当な代替手段がないといえる(❸)。
   したがって、上記訴えについて、確認の利益が認められるといえる。
第3 設問2
 1 裁判所の心証形成の資料
  民事訴訟においては、弁論主義が妥当する。
  弁論主義とは、判決の基礎をなす事実の確定に必要な資料の収集及び提出を当事者の権能かつ責任とする建前である。
  これは、実体法上の私的自治の原則を訴訟法上にも反映することで、原告の合理的意思を尊重し当事者の不利益を防止するためである。
  そのため、ここでの資料とは、当事者が口頭弁論期日において提出した資料(証拠資料)に限定されると解される。当事者は、同手続においては反論の機会が設けられているため(149条4項参照)、その限りで不意打ちを防止できるからである。
 2 和解期日は、口頭弁論期日ではない。また、本問の和解期日では順次個別の面接方式が採用されており、反論の機会もない。そのため、このような和解期日におけるY2の発言を資料として心証の基礎とすると、Y1の不意打ちが生ずるおそれがある。
  したがって、裁判所は、和解期日におけるY2の発言(証拠資料)を心証形成の基礎とすることはできない。
第4 設問3 課題1
 1 本件訴訟の類型
  ⑴ 本件訴訟が、固有必要的共同訴訟に当たるのであれば40条1項によってY2は全員の利益にならない訴えの取下げを行うことはできない。他方で、本件訴訟が、通常共同訴訟に当たるのであれば、39条によってY2は単独で訴えの取下げを行うことができる。
  ⑵ 固有必要的共同訴訟とは、ⅰ訴訟共同の必要性及びⅱ合一確定の必要性がある訴訟類型をいう。敗訴時には訴訟物を処分したのと類似するため、訴え提起も処分に類似するといえる。そのため、管理処分権を基本とし、訴訟法的観点を考慮して考える。
    まず、判例は、所有権に基づく土地明渡請求について、通常共同訴訟であるとする。被告らの明渡債務は不可分債務であり、各人が単独で履行することができるため管理処分権を共同行使すべき関係にない。また、原告にとって被告探求の困難性があり、仮に被告の一人に勝訴しても他の被告との関係では債務名義がなく執行ができないから不当でなない。そのため、訴訟共同の必要性がない(ⅰ不充足)。
   本問では、本件訴訟は、Xの本件契約の終了に基づく本件建物明渡請求である。ここでも、被告の明渡債務は不可分債務であり、各人が単独で履行することができるため管理処分権を共同行使すべき関係にない。また、XにとってAの相続人が誰であるか探求することは困難といえる。さらに、訴えを取り下げても、初めから訴訟係属がなかったことになるに過ぎず(262条1項)、他の相続人との関係では訴訟が継続するため、他の相続人にとって不利益はない。そのため、訴訟共同の必要性がない(ⅰ不充足)。
   したがって、固有必要的共同訴訟にあたらない。
  ⑶ なお、判決効が他に及ぶ関係にもないため、類似必要的共同訴訟にも当たらない。
  ⑷ 本件訴訟は、通常共同訴訟に当たる(38条)。
 2 以上からすると、39条によって、XはY2に対する訴えのみを取り下げることができる。
第5 設問3 課題2
 1 共同訴訟人間の証拠共通の原則
  通常共同訴訟においても、証拠共通の原則は妥当する。
  弁論主義第3テーゼは、裁判所は、当事者に争いのある事実を証拠によって認定するには当事者の申し出た証拠によらなければならないとする。これは、同一期日内における自然な事実認定のために、訴訟人独立の原則よりも自由心証主義を優先させるものである。
 2 訴え取下げの影響
  XのY2に対する本件訴訟について訴えの取下げが行われると、同訴えは初めから訴訟係属がなかったことになる(262条1項)。そうすると、Y2は訴訟の当事者とはいえなくなり、当該訴えにおいてY2が申し出た証拠も、当事者の申し出た証拠といえなくなるのではないか問題となる。
3 結論
  もっとも、上記テーゼは、当事者の不意打ちを防止するものである。そのため、反論の機会が与えられていれば、当事者に不意打ちを与えないといえ(152条2項参照)、上記テーゼに反しない。
  本件訴訟において、XはAとの会話から本件契約の解約合意が成立したことを立証しようとしている。他方、Y2は本件日誌によってAX間に解約合意が成立していないことを立証しようとしている。つまり、XとYらの間では、解約合意の成否が争点となっている。そのため、XはY1との関係においても本件日誌による解約合意の立証について反論の機会が与えられていたといえ、本件日誌によって解約合意が成立しないと認定されても不意打ちを受けるとはいえない。
 したがって、上記テーゼに反さず、Y2の提出した本件日誌を取調べの結果を事実認定に用いてよい。
 以上

2 分析 ※太文字は試験中の思考

設問1課題1及び課題2
・課題1については、将来給付の「必要」性要件(民訴法135条)と請求適格(請求権発生の蓋然性要件)を検討した。後者について、予備試験でも問われていたため、事前準備はしていたTwitterアンケート2020.3.19)


もっとも、「適法性が認められた場合の被告の負担を考慮する必要があります。ただし、応訴の負担は考慮する必要がありません。」という誘導の意味が分からなかった。誘導の本文は請求適格の一番最後の要件の検討を具体的に行うことを求めるように読める一方、誘導の但書は同要件で本来に検討すべきである請求異議の訴えを提起しなければならなくなるという被告の負担を考慮する必要がないと読めるからである。
・課題1は、実務的には請求適格否定というのが当然だ!みたいな話を聞きました。たしかに賃貸人・大家さんからすればそうなのかもしれない。しかし、参考答案では例外的に請求適格肯定の結論を導いています。つまり請求適格要件②を肯定したということです。この辺の事情って問題文にはあまり書いておらず、想像して書くことになるんですよね。存在しない事情をないものとして②要件を否定するのが素直だったのかもしれないです。存在しない事情を考えて書いたわけですから、それがあーなるほどなと思わせる表現になっているとすれば、②要件を肯定したことも、評価が大きく沈む原因にはならないのではないかと思っています。
・課題2については、おなじみの3要素から検討している。特に❶では条件付権利について、❷では即時確定の利益(将来給付の訴えの(請求適格ではなく)必要性とオーバーラップ)についてを厚く論じた。
設問2
・一番問われていることがわからない問題だった。心証形成の資料が問われているから弁論主義の問題なのだろうと思った。まず、(和解成立に至らない状況において)「和解手続における当事者の発言内容をその後の判決に影響させることがないように、注意する必要があります」というJの発言と(「和解期日におけるY2の発言から、XA間の解約の合意は存在したという心証を得て、それに基づいて判決をすることができないのですね」というQの質問に対して)「もちろん許されません」というJの発言から、向かうべきゴールは見えてきます。次に、Jの発言を「まず」と「また」で分節し、前者について①「裁判所は何を心証形成の資料とすることができるとされているのかを示」すこと、②「和解期日におけるY2の発言がそれに当たらないことを説明」すること、後者について③「和解手続における当事者の発言内容を心証形成の資料とすることができるとすると」生じてしまう「問題」を示すことに分解します。そうすると3点が求められていることがわかります。内容のわからない問題は、とりあえず最低限形式面を揃えることを考えます。
①については、当事者が資料の提出をするのは通常は口頭弁論期日なのだから、和解期日で提出された資料ではだめなのだろうと考えた。もっとも、民事訴訟法の短答式もなくなったこと、予備試験の民事訴訟法の短答を勉強していないこと等もあり、基本的な知識であろう和解期日が口頭弁論期日であるか否かということすらわからなかった。そのため、民事訴訟法における講学上のタームを適切に使って説明できるか不安だった(条文に引き付けて論じるとすれば、「口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果」(247条)に当たらないことを論じることになるのでしょうか)。とりあえず、訴訟資料と証拠資料の峻別に紐付けて論じた。
・②については、①で導いた規範のあてはめとして論じ、③についても、①の規範を導く理由として論じた。要するに、①の結論(規範)があって、これを基礎付ける理由が③であり、実際にあてはめると②になるという構成にした。
設問3課題1及び課題2
・課題1については、訴訟類型が問われているから、固有必要的共同訴訟と通常共同訴訟の区別が問われているのだろうと思った(各論については以下のブログをご覧ください)。もっとも、現場ではパニック(おそらくいずれか一方であることが明確なんだろうがどっちだろう、ここで外したら評価が大きく沈む原因になりかねない)に陥って結論をどちらにすべきなのかよくわからなかった。つまるとこと、管理処分権について、明渡債務が可分債務なのか不可分債務なのかがわからなかった。そのため、確定した類型によって適用される条文が異なる(40条1項と39条)ことを先出することで、問題意識には気づいていることをアピールすることに努めた。
piropirorin0722.hatenablog.com
・課題1については、契約終了に基づく建物明渡請求が問題となっている。他方、所有権に基づく土地明渡請求権について、判例
最判昭和43年3月15日)は通常共同訴訟であるとしている。同判例の射程が及ぶのか、又は同判例を参照にすることができるのかを意識して論じた。
・課題1では、時間の都合で割愛したが、通常共同訴訟のあてはめを論じたかった。
・課題2については、弁論主義第3テーゼについて、弁論主義の趣旨及び機能に遡って論じた。正直課題2も良くわからなかったが、訴え取下げによって証拠を申し出た者(Y2)が当事者でなくなるのではないか、相手方(X)に不意打ちを与えることになるのか等疑問に思った点について論じた。
辰巳法律研究所の速報によると、訴訟行為は原則撤回自由であるが、証拠調べ終了後の証拠申出の撤回は、裁判官の心証が形成されている以上、認められないとされていることとパラレルに考えることができるとされていました。なるほど、証拠申出の当事者だけでなく、その相手方においても、既に心証形成がなされていること(Y側(特にY1)の事情)を理由に、同様の立論をすることが可能なのかもしれません。しかし、そうだとすると本問の特殊性である訴えの取り下げ(ひいては自己に不利な証拠申出及び証拠調べがされた者(X)が、その証拠を排除し得るという不当性(X側の事情))を十分に考慮することができないのではないかと思いました。