答案のおとし所

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【再現答案】令和2年司法試験 商法 C評価

1 再現答案 2222文字

第1 設問1
 1 訴訟選択
  新株発行無効の訴え(会社法(以下省略)828条1項2号)を提起する。
 2 訴訟要件
  ⑴ Bは、甲社株式を29000株保有するため、「株主」に当たる(同条2項2号)
  ⑵ 被告は甲社である(834条2号)。
  ⑶ 非公開会社たる甲社においては、令和2年5月14日は株式の効力発生日たる同年4月10日から「一年以内」である(828条1項2号カッコ書き)。
 3 本案主張
  ⑴ 無効事由については明文を欠く。
    また、有効に発行された株式を前提に構築された法律関係を覆すことになるから、無効事由は限定されるべきである。
    そこで、重大な瑕疵である場合に限り、無効事由となると解される。
  ⑵ まず、本件招集通知に記載された事項以外の事項である本件議案1及び本件議案2について、取締役会設置会社たる甲社の株主総会で決議したことが309条5項に反し、「決議の方法」の「法令…違反」(831条1項1号)に当たる(以下瑕疵①という)。
    もっとも、招集通知に記載した事項のみを決議の対象とする趣旨は、株主総会において議決権を行使する準備の機会を確保するものである。
    そこで、株主が全員出席し、全員が同意して決議がなされた場合には、上記機会を株主が放棄したものといえ瑕疵が治癒されると解される(300条参照)。
    本問では、たしかに、招集通知に記載されていない本件議案1及び本件議案2を突然上程したことについて、Cが理由を述べている。しかし、同理由のうち、本件優先株式の評価額が客観的には1株当たり4万円であるにもかかわらず、1株当たり2万円であるという虚偽の内容であった。本件議案1及び本件議案2について議決権を行使する株主としては、払込金額について関心があるはずであり、このような内容を認識していない状況においては瑕疵の治癒について同意したとは評価できない。
    したがって、瑕疵①は治癒されたとはいえない。
  ⑶ そして、瑕疵①は株主権の中核である議決権の適切な行使を妨げるものである。また非公開会社においては、持株比率への期待が高く(309条2項5号)、無効確認の訴えの提訴期間も伸長され手厚く保護されている(828条1項2号)。そのため、瑕疵①は重大な瑕疵といえる。
  ⑷ 次に、上記のような議決権の行使は適法なものと認めらない結果、80000株中の29000株の議決権の行使がなかったものと扱われる。そのため、3分の2以上という多数決要件を充足しないといえ(309条2項5号及び11号)、「決議の方法」の「法令…違反」に当たる(以下瑕疵②という)。
  ⑸ 瑕疵②も瑕疵①と同様の理由により重大な瑕疵といえる。
  ⑹ よって、瑕疵①及び②は無効事由に当たる。
 4 主張の当否
  以上から、上記訴えは認められる。
第2 設問2小問⑴
 1 Pは甲社の本件優先株式を5000株保有している。
   また、甲社では、本件優先株式1株につき1000円の配当優先額が設定されている(定款①)。
 2 このような中で、本件優先株式のみを2株につき1株の割合(本件議案3の①)で併合する本件株式併合(180条1項)が行われた。
   そのため、まず、Pの5000株が2500株に減少することによって、非公開会社たる甲社における持株比率が5%から2.5%に低下するという不利益が生じる。
   次に、今までは5000株に対する配当優先額が500万円であったところ、2500株に対する優先配当額は250万円であるから、一事業年度において差額の250万円を得ることができなくなるという不利益が生じる。
第3 設問2小問⑵
 1 手段
  本件株式併合の効力発生前の時点であるから、Pは、株式併合差止め請求権(182条の3)を被保全権利として、仮処分申立てを行う(民事保全法23条2項、13条)。
 2 認められるか
  ⑴ 「法令…違反」
   株式の併合を行うためには、株主総会において株式の併合を必要とする「理由を説明」する必要がある(180条4項)。
   同条の趣旨は、株式の併合により不利益を受ける株主に議決権行使をするか否か判断を可能にさせることにある。
   そのため、本件株式併合について議決権を行使するか否かを判断させるに足りる説明がなければ、「必要な説明」があるとはいえない。
   本問では、上記のような持株比率の低下という不利益が生じる。非公開会社たる甲社においては、かかる不利益は甚大である。また、優先配当額も一事業年度当たり250万円もの減少するため不利益は甚大である。そのため、このような不利益が生じることについて、具体的に示す必要があったといえる。にもかかわらず、Cは、本件臨時株主総会において、本件議案において併合割合を示すのみで、具体的な不利益をPに対して明示していない。このような説明のみでは、Pは本件株式併合について議決権を行使するか否かを判断することは困難である。
   また、Cは、本件優先株式に係る甲社の剰余金の配当の負担を軽減するために本件株式併合が必要である旨を説明するにとどまり、なぜ先に役員報酬の減額等の他の代替手段ではなく本件株式併合でなければ目的を達成できないかについての説明をしていない。このような説明のみでは、Pは本件株式併合について議決権を行使するか否かを判断することは困難である。
   したがって、Cの説明をもって、「必要な説明」をしたとはいえず、180条4項について「法令…違反」があるといえる。
  ⑵ 前述の通り、併合割合を2分の1とする本件決議3が可決されているから、Pには、持株比率の低下及び優先配当額の減少の「不利益を受けるおそれがある」。
  ⑶ よって、上記差止め請求権が認められ、これを被保全権利とする仮処分申立ても認められる。
以上

2 分析 ※太文字は試験中の思考

設問1
株式発行無効の訴えを選択した。訴訟要件も丁寧に論じた。
本案の瑕疵については、非上程事項の決議(309条5項)と決議要件違反(309条2項5豪11号)を指摘した。本件優先株式の評価額について虚偽の説明をした点は、前者の瑕疵が全員出席総会によって治癒するか否か(300条参照)の中で論じた。しかし、再現答案を作っている中で、そもそも客観的な評価額の2分の1で株式発行を行っているのであれば、それは有利発行に当たり説明義務違反(199条3項)を別途主張する方が直截であったと感じた。説明義務違反の検討が求められていたとする場合、かかる条文の検討を欠く点で、評価が沈む原因になりそう。もっとも、後述のように、設問2においても説明義務違反の検討をしており、設問1及び設問2の両方で説明義務違反を検討させるという問題の構成には少し疑問を感じたが、そのような検討が求められていた場合には、各説明の内容を具体的に確定しその差異を明確に論じたかった。
司法試験ではあまりないが、5分ほど時間が余ってしまった。設問1で有利発行・説明義務違反、本件決議2が取り消され遡及的に無効となれば有利発行について株主総会を欠くことなどを検討できていないことは、もう少し時間をかけて答案構成をしていれば防ぐことができたかもしれない。設問1で60点分も書けていないと思う。
株主総会決議取消の訴えとの関係については、「その主張の当否」において論じることが可能かもしれないが、自説としては、吸収説を採用しているため、本問では論じる実益がない(江頭憲治郎『株式会社法』737頁注7(有斐閣、第7版、2017)でいう吸収説の①③)。前述のとおり、再現答案では、「どのような訴え」として株式発行無効の訴えのみを指摘している。自分の理解では、株式発行無効の訴えの中で、株主総会決議取消事由を主張する、すなわち別途株主総会決議取消しの訴えを併合提起するわけではないから、裁量棄却についても検討は必要ないはず(ソース確認できていません)。他方で、新株発行無効の訴え及び本件決議1及び本件決議2の取消しの訴えを併合提起することになるとすれば、裁量棄却の検討が必要になるだろう。いずれにしても、取消事由は株主総会決議から3か月間した主張できないはずだから、それについては言及しておくべきだったと思う(上記吸収説の②)(ただし、非公開会社の場合には、提訴期間を1年間に伸長したことの意味が大きく失われかねないとの指摘がある(高橋美加ほか『会社法』324頁(弘文堂、第3版、2020))。

設問2小問⑴及び小問⑵
株式の併合についての平成26年改正の知識が問われたのだと思った。ただ、差止め請求権(182条の3)の要件である法令違反が180条4項の説明義務違反以外に見つからなかった(特別利害関係(831条1項3号)は検討できたかもしれない。たしかに本件決議3に賛成したA及びBには結果として持株比率の上昇という他の株主と共通しない特殊な利益があるといえるから。これもみんな書けてそうだから、評価が沈む原因になりそう。他方、事実7なお書き⑥で甲社の定款で種類株主総会決議が不要とされているが、この定款の有効性云々というのは気づきにくいと思う。)。説明義務違反以外の法令違反は多くが誘導で排除されていた。説明義務違反を検討する場合、株式併合におけるその具体的内容が何なのかがよくわからなかった。差止め請求権の趣旨や株式併合によって生じる不利益から具体的説明義務の内容を構成した。小問⑴で先に株主に生じる不利益を論じさせたのは、小問⑵における説明義務を具体的に論じさせるための誘導なのではないか。
しかし、小問⑴と小問⑵の関係を、説明義務の具体的内容を論じさせるための誘導であると考えると、小問⑴で論じた不利益と小問⑵の「株主が不利益を受けるおそれ」がかなりオーバーラップするように感じ疑問に思った。そのため、小問⑵の「株主が不利益を受けるおそれ」の要件については、不利益性ではなく、その不利益が生じる蓋然性に重きを置いて論じるように努めた。
小問⑴については、持株比率の低下及び優先配当額の減少を指摘した。ここでは、5000/90000株が2500/85000株になること、すなわち持株比率が約5%から3%未満に低下することも指摘できるとよかったみたいですね。つまり、少数株主権伊藤靖史ほか『リーガルクエス会社法』65頁(有斐閣、第4版、2018)の図がわかりやすいです。)の行使ができなくなるという不利益があるんですね。・小問⑵については、前述の通り、再現答案を作っている中で、設問1の説明義務違反(199条3項)を検討すべきであると感じたが、このように考えると設問2小問⑵の説明義務違反(180条4項)とでかなり構成が近接すると感じた(もちろん説明すべき内容は異なるが)。そうすると、設問2小問⑵で説明義務違反(180条4項)を論じること自体が間違っている可能性がある(この場合には、評価が沈むことになりそう。)。