答案のおとし所

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【再現答案】令和元年(平成31年)司法試験 民法 A評価(逆構成+過失の書き方+有効性と対抗問題)

1 再現答案 3148文字

第1 設問1
1 甲建物の所有者*1
 ⑴ 建物請負契約(民法(以下省略)634条)における目的物の所有権は、請負人に帰属するのが原則である。たしかに、土地利用権限のない請負人に建物所有権を認めても無意味とも思われるが、代金請求権についての担保として意味があり、また材料主義にも適うからである。
   もっとも、同契約において、注文者が特約により目的物の所有権を注文者に帰属するとした場合や注文者が材料を提供した場合には、例外的に目的物の所有権は注文者に帰属すると解される。
 ⑵ AB間でなされた本件契約では、請負人Bが自ら調達した材料を用いて甲建物を完成させており、Bが甲建物の所有権が帰属するのが原則である。
   また、本件契約に付随する特約により注文者Aに甲建物の所有権が帰属する旨の特約はなく、Aが材料を提供したという事実もない。
 ⑶ したがって、原則通り、甲建物の所有権はBに帰属する。
   なお、Aは既に3億6000万円中の1憶4400万円を支払っているが、未だ過半数以上の残代金債務を負っており、同支払いによって甲建物の所有権がAに移転したとはいえない(176条)。
2 所有者としての責任(717条1項但書)
 同項本文は占有者の過失責任を定め、同項但書は所有者の無過失責任を定める。
 そのため、Cは同項但書を主張し、甲建物の「所有者」Aは「占有者」Bの過失を立証することで責任を否定する主張を行う。
⑴ 「瑕疵」とは、通常有すべき安全性をいう。
   甲建物は、建造物として予想され得る地震によって損傷しない程度の安全性を有していることが求められるのが通常である。もっとも、甲建物において用いられた建築資材の欠陥により日本において予想され得る震度5弱地震によって甲建物の一部が損傷するという事態が発生している。
   これは、通常有すべき安全性を欠くものとして、「瑕疵」にあたる。
 ⑵ 同「瑕疵」は、甲建物という「土地の工作物」の「設置」に関するものであり、これによって、損傷した一部が落下してCに治療費支出という「損害」を生じさせた。 *2
 ⑶ 「占有者」Bにおいて、そのような瑕疵が生じないように努めるべき義務があったとして、同義務違反を理由に「必要な注意」を怠ったとも思える。
   しかし、かかる瑕疵の原因は、甲建物に用いられた建築資材の欠陥によるものである。また、同資材は定評があり、本件事故を契機とした調査がなされるまで欠陥の存在が一見してわかるものではなかった。さらに、欠陥の存在は、同資材の製造業者における検査漏れのために見過ごされていたものである。
   そうすると、Bにおいて、このような建物資材によって、甲建物に瑕疵が生じないように努めることは期待可能性がない。
   したがって、上記義務は存在せず*3、 「占有者」Bは「必要な注意」をしたといえる。
 ⑷ よって、Cは、「所有者」Aに対して、無過失責任として、損害賠償請求をすることができる。
第2 設問2
1 ㋑を根拠付けるF主張*4
 Fとしては、本件譲渡契約が有効であり、かつ同債権譲渡をHに対抗できると主張する。
 ⑴ 将来債権譲渡の有効性
  債権譲渡は自由であり(466条1項本文)、将来債権を目的物としても、将来の不発生リスクを負担するものとして原則として有効である。
  もっとも、①他の債権者を害する偏頗的な場合、②債務者を著しく害する場合には、例外的に無効と解される(90条)。
  本件譲渡契約は、本件賃貸借契約(601条)に基づく平成40年までに発生する乙建物の賃料債権を目的物としており、将来の不発生リスクをFが負担するものである。
  また、12年分で3600万円程度であれば、他の債権者を害することはなく(①)、これに応じた債務者Eを著しく害することもない(②)。
  したがって、本件譲渡契約は有効である。
 ⑵ 対抗
  同譲渡については、債権者Dが、債務者Eに対して「通知」(467条1項)をしており、かつこれは内容証明郵便による「確定日付ある証書」によるものである(同2項)。
  したがって、Fは「第三者」たるHに対して、本件譲渡契約を対抗できる。
2 ㋐を根拠付けるH主張 *5
 Hとしては、賃料債権の請求には、目的物不動産の登記が必要であり、債務者Eに対して賃料支払請求ができるのはHのみであると主張する。
 ⑴ DH間でなされた本件売買契約(555条)の目的物は、既にDE間で本件賃貸借契約の目的物となっている乙建物である。そうすると、乙建物の「引渡し」(借地借家法31条1項)により対抗力が備わった賃借権をEが有しているため、本件売買契約によって、賃貸人たる地位がDからHへと移転する。
 ⑵ また、Hはその後、乙建物について所有権移転登記を経ているため、賃借人Eに対して賃料支払請求をなし得る。
3 いずれが正当であるか
以下の理由により、私見としては、㋐が正当であると考える。
たしかに、㋑によれば、Hが優先するとも思える。
しかし、賃貸人たる地位の移転を受けた者は、従前の賃貸人の地位を受け継ぐといえ、従前の賃貸人の法律行為に拘束される。
 本件では、既に従前の賃貸人Dが既に本件賃貸借契約にかかる賃料債権をFに対して譲渡している。そうすると、その後に、同賃貸借契約の目的物を取得し賃貸人たる地位を受け継いだHとしては、Dの本件譲渡契約に拘束されるといえる。*6
 したがって、Hは乙建物について所有権移転登記を経由したとしても、賃借人Eに対して賃料支払請求をすることはできず、㋑は不当である。
第3 設問3
1 法律構成
 Hは、GH本件債務引受契約において、DH売買契約の無効を主張しようとしている。
 別個の契約である場合、一方の無効を他方の無効として主張できないのが原則である。
 もっとも、両契約が一体性を有する特段の事情がある場合に限り、例外的に、一方の無効を他方の無効として主張することができると解される。
⑴ DH間本件売買契約の無効(95条本文)
 ア 「錯誤」とは、内心的効果意思と表示の不一致をいう。
   そのため、動機の錯誤は原則として「錯誤」といえないが、動機が明示または黙示に表示され、意思表示の内容となった場合には例外的に「錯誤」に当たると解される。
   本件売買契約では、買主Hは乙建物に関する本件賃貸借契約に基づく賃料債権を取得する動機を有している。そして、かかる動機は、本件売買契約の合意①にあるように、以後乙建物に関する本件賃貸借契約に基づく賃料債権を買主Hが取得できることとして「収益性を勘案」しているため、明示に表示され、法律行為の内容となっている。
   したがって、「錯誤」にあたる。
 イ また、Hとしてはもちろんのこと、一般人においても契約時に勘案していた賃料債権を取得することができないとすれば本件売買契約を締結することはないといえるため、上記錯誤は「要素」に関するものといえる。
 ウ さらに、特段Hに「重大な過失」はない(同条但書)。
 エ したがって、本件売買契約は無効である。
 ⑵ GH間本件債務引受契約の無効主張の有無
  ア 両契約は当事者が異なる別々の契約 であるが、一体性を有する特段の事情があるか。*7
    本件では、両契約は、DGHの三者間での協議を経ており、かつ同一日に契約が締結されており、HGに近接性がある。
    また、同協議で、Dは既に乙建物に関する本件賃貸借契約に基づく賃料債権がFに譲渡されていることを述べている。そのため、Gはこれについて知っており、本件債務引受契約においても、本件売買契約の存在が前提とされていたものと考えられる。 *8
さらに、このような事実を知っているGに本件債務引受契約無効の不利益を甘受すべき立場にあり、他方無効としない場合にHが被る不利益は過大といえる。
したがって、両契約が一体性を有する特段の事情がある場合といる。
2 結論
 よって、Hが、本件売買契約の無効を理由に、本件債務引受契約の無効を主張することができ、かつ権利の濫用(1条3項)にも当たらない。
以上

2 分析 ※太文字は試験中の思考

・設問1
 本問前半で問われているのは、請負契約の主張攻防についてではなく、あくまで目的物所有権の帰属主体についてである。請負契約プロパーの問題は司法試験の過去問で出題がなかったが、短答知識として押さえており十分に論述するに足りた。もっとも、同論点は後続論点の前提に過ぎないこと、他の設問の配点割合がほぼ同じであるとしても他で論述すべきことが多そうなこと等から、端的な記載にとどめるべきと感じた。
 個人的には、下記の「逆構成」(※造語です。*9)に則ったため、結論としては所有者をBとしている。
もっとも、序盤から事実誤認をしており、Aは3億6000万円のうち1億4400万円しか支払っていないと書いてしまっています。過半数が支払われてないという認定をしているところから見ると、正しく80%にあたる2億8800万円を支払っていると指摘できていれば、かかる事情を所有権移転の有無(特約の推認から肯定又は全額支払われてないから否定)に関連して論じることができたはずであり、残念なミスでした。このような考え方は、令和元年司法試験の出題趣旨の例外則㋑と類似する。もっとも、自分のまとめノートを確認したところ、例外則㋐を規範段階で示し、あてはめで80%の支払いについて言及するとまとめてあり、かつそれが素直な考え方であると思いました。なお、請負人帰属説の根拠として、報酬請求権を担保する必要性に加えて、材料主義という許容性を明示してはいるが、形式的なタームを書いただけであり実質的には不理解といえる。ここをかみ砕いていえば、令和元年司法試験の出題趣旨のいう「材料の所有権が積み上げられて完成した建物となる」という理由付けになるのであり、少なくともインプットの段階で理解しておく必要があると思いました。
 本問後半の717条1項責任については、平成23年司法試験の過去問を潰しておけば対応できる。他方で、主張攻防については同過去問を潰しても意識できていないかもしれないが、条文を見ればその構造はある程度わかる。もっとも、被害者が所有者に対して責任追及する場合、占有者の過失(同項但書「必要な注意」)についての主張立証責任が、誰にあるのかがわからなくなった(717条の訴訟物は、民事訴訟法における同時審判申出訴訟の類型に当たる。被害者は、占有者及び所有者双方を被告として訴えを提起し、占有者の過失の有無でいずれか一方に勝訴することができる。そうすると、被告である占有者が主張立証責任を負うのが筋である。もっとも、本問では、所有者Aのみが訴えられており(占有者Bに訴えているのだろうがその旨の記載がないため)、占有者Bが過失不存在の抗弁を主張することに違和感があった。そのため、被告である所有者が、自己の無過失責任を免れるために、(占有者の存在による二次的責任の抗弁に加えて)占有者の過失の存在を主張するという不思議な構成になってしまった。)民法の問題について、あまり要件事実的に考えすぎると良くないというのが露わになったようにも思いました。もっとドライに要件検討だけすれば足りるのでしょう。
 
・設問2
 各当事者の生の主張を法律構成するのは司法試験の過去問でも良く出題されているし、オーソドックスな民法の出題だと感じた。
 「いずれが正当か」という問いであるから各法律構成の優劣を決するポイントを見つけるのが一番大切だと思った。そして、債権譲渡が存在するため、対抗関係のレベルで優劣を判断するのではないかという第一感をもった(同時に、債権譲渡の有効性を否定する筋も思い浮かんだが、取り得ないと思った。㋑のDF間将来債権譲渡契約(改正民法466条の6第1項)は12年分の賃料債権を対象としており範囲の特定性は問題ないとしても、たしかに乙建物と賃料債権以外に財産を有さないDが、債権譲渡を行うことは他の債権者Hを害する偏頗性がある。しかし、自分は、偏頗性の相場観について知識はないし、㋑Fの法律構成が無効→㋐Hの法律構成が勝つというのはいかにもショボい問題だと思った。そのため、同契約は有効を前提とするべきと考え、有効性についてはあっさりぼかして論じた。)。あとは、先に債権を譲り受けたFが勝つはず!後から建物を買ったHが負けるはず!という直感に従った。ここでも、上記の「逆構成」を参照すれば、設問3で「仮に…㋑が正当であるとした場合」という仮定が付されていても、設問2で㋐が正当であるという結論に至ることに不安を抱く必要はない。
 結局、対抗要件(借々31条1項)を備えた賃貸借契約の目的物が売買されたことで、賃貸人たる地位が移転し、新賃貸人は旧賃貸人の地位の内容として賃料債権譲渡の存在についても負担するという構成にした
(法定承継による賃貸人たる地位の移転については改正民法605条の2第1項、同地位を賃借人に対抗するためには登記を備える必要があることについて同3項)。他方、債権譲受人が劣後する構成としては、賃貸借契約の目的物と差押えに関する判例(H10.3.24、民事執行・保全判例百選50事件(第2版))が差押えの限度で賃貸人が負担を負うといった内容の判例を活用することができるかもしれませんが、債権譲渡と差押えは異なるしその射程も及ばないとも思いました。令和元年司法試験の出題趣旨では、「理論的な理由」と「結論の妥当性の観点からの理由」を共に挙げることが必要とされており、必要性と許容性(相当性)という二つに観点から理由付けを理解しておくことに汎用性があると思われる。自分の答案では許容性を基礎付ける理由を欠いているといえる。
 分量的には一番書いてしまいがちな(書けてしまう)問題ではあると思うが、配点が一番低いというのも考慮して書きすぎて途中答案にならないように注意した。

・設問3
 複数契約の無効に関するリゾートマンション事件(H8.11.12)を想起した。もっとも、同事案と異なり、本件は三者間の複数契約であり、一方の契約の無効が他方の契約を無効にするという例外はより認められにくい(=例外論について最も論述の分量を割くべき)と思った。
 例外論の規範としては契約の一体性(客観・主観)又は相手方による無効主張の否定が権利濫用に当たるか否か等いくつか法律構成があると思う。このように考えたのは、本問では、DHGの三者間の契約であるという客観面とGが債権譲渡の存在を知っているという主観面が存在するという特徴があり、特に後者の事情は上記構成の例外規範又は権利濫用
(H23.10.25)でしか拾えないと思ったから。また、仮にこのような構成によらず、本件引受契約における動機の錯誤だけが問題となっているとすると、35点は配点振りすぎじゃない?と思ったから。ここでのあてはめ事情も結構多くちりばめられていたので、方向性としては間違っていないと思っている。
 もっとも、上記のような迂遠な?法律構成によらずとも、直截に本件引受契約の無効として論じれば足りるという構成をした答案が多いようです。加藤喬さんの解説答案を拝見したら、Hに重過失あり→Gに共通錯誤ありという構成でした。共通錯誤という法律構成を採れば、上述のGが債権譲渡の存在を知っているという主観面を考慮できるため、なるほど!アリだ!と思いました。逆に言えば、そこまで書けてこそ十分であり、これを欠けば不十分であると思いました。実際に、令和元年司法試験の出題趣旨・採点実感でも、契約の一体性みたいな話は一切出てこず、「いわゆる同機の錯誤による意思表示の無効の要件に関する基本的な理解を問う」問題と書かれており、ゾッとしました。しかし、採点基準にないような法律構成であってもA評価がついているのも事実です(設問1と2で既にA評価として十分で、設問3は0点だったということも考えられないではないですが)。
 
 なお、改正民法ならどのようになるのか、ついでに検討してみます。
 まず、本件債務引受契約は、免責的債務引受契約であり、改正民法472条2項で有効である。
 次に、本件債務引受契約では、本件売買契約によって乙建物から生じる賃料債権をHが取得し得るという「法律行為の基礎とした事情」が、㋑が正当であるとすると「真実に反する」といえる(改正民法95条1項2号)。また、当該事情は合意①「収益性の勘案」で「表示」され契約内容となっている(同2項)。さらに、このような表示と内心の不一致による「錯誤」に「基づいて」Hは意思表示をしており、かつ本件引受契約による6000万円という高額なHの負担を担保するために前記表示がなされているため一般人においても錯誤は「重要」といえる(同1項柱書)。
 一般人Hにおいて、㋑が正当であるか否かは調査困難であり、少なくとも「重大な過失」はないと考えられるから(同3項柱書)、Hは錯誤無効を主張して本件債務引受契約の取消しをすることができる。仮に、「重大な過失」があったとしても、本件債務引受契約の「相手方」Gも、乙建物を売りに出せば、買主は長期の安定した賃料収入を見込めるだろうと考えていることからすれば、「表意者」Hと「共通の錯誤に陥っていた」といえるため(同3項2号)、結論は異ならない。Hが錯誤により本件債務引受契約を取消せば、遡及的に無効となるため(120条2項、121条)、本件債務引受契約の無効を主張できるといえる。

*1:設問後段の717条を検討するための前提論点であり、最低限の記載にとどめた(設問後段は仮定が付された問いであり、設問前段の結論によって影響を受けない)。

*2:甲建物という「土地の工作物」の「設置」に関するものであり、これによって、損傷した一部が落下してCに治療費支出という「損害」を生じさせた。

*3:不審事由→義務→違反→過失というフローを意識した。

*4:有効性と対抗問題の区別を意識して論じた。 ㋑の有効性については否定される可能性が頭をよぎったが、㋐との比較が問われているため、ぼかして書いた。 問題意識については、こちらのこちらの記事も参考にしてみてください。piropirorin0722.hatenablog.com

*5:有効性と対抗問題の区別を意識して論じた。

*6:私見の理由を端的に示した。

*7:リゾートマンション事件と混同していると誤解されないように意識して書いた。

*8:このあたりの事実を使える法律構成を考えた。

*9:設問が前半後半と連動していて、かつ後半が仮定が付された問題(所有者が誰であるか→仮に〇〇が所有者であるとして…)については、後半の仮定に逆らった結論を採るようにしています。すなわち、本問では、甲建物の所有者はAかBか→仮に所有者がAであるとして、となっているため、後半の仮定に逆らい前半においてはBを所有者にする構成を採用するといった具合です。これは、前半後半が連動しているとはいえ、後半は仮定が設定されており、前半の結論は必ずしも後半に影響しないためです。出題者としても後半の仮定に逆らった結論が出ることを許容しているだろうという推認です。あとは、結論自体には、絶対に採り得ないであろう結論を除き、あまり意味はなく、その結論にたどり着いた思考過程や法律構成に意味(配点)があると考えるからです。