答案のおとし所

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共謀の射程(平成20年司法試験 刑法)

(2019.07.24)

1 前提

 60条が一部実行全部責任の原則を定める趣旨を、結果に対する因果性を生じさせたことと捉えます。
 また、共謀共同正犯の成立要件を、①共謀(単なる意思連絡)、②共謀に基づく一部の者の実行、③正犯性と捉えます。③は、客観的要件としての重要な寄与(指示・関与、重要な役割等)と主観的要件としての正犯意思(主体性・積極性、地位・関係、利益の帰属等)から判断します。

2 分析

 共謀の射程とは、共謀内容と実現内容に齟齬がある場合に、両者の間に関連性があるかという問題(客観的帰責性)をいい、故意の存否(抽象的事実の錯誤)とは区別されます。
 すなわち、事前共謀とは全く無関係の行為を、共謀の射程外として、共同正犯の成立を否定する余地はないかという問題意識です(なお、形式的に少しでも変更があれば射程外という即断は×です)。

 60条の趣旨からすると、自己の関与と因果性を有する限度においてのみ、結果に対する責任を負うことになります。
 因果性を①②③要件との関係で考えると、以下のように②で検討することになります。
 60条が一部実行全部責任の原則を定める趣旨は、共謀(①)によって、犯罪実行を心理的に促進し、結果に対する因果性を及ぼしたことである。そこで、共謀内容と実現内容に齟齬があっても、因果性があれば、共謀に基づく(②)といえる。①によって形成された動機が継続する状況下で行われていれば、因果性があるといえる。

 具体的に、因果性があるか(共謀の射程内)、因果性があるか(共謀の射程外)は、原則、客観的要素としてa日時、b場所、c被害者、d行為態様、e保護法益、主観的要素としてf故意、g動機・目的という要素を比較して共通性をの有無を検討することになります。
 特に太文字部分が重要な要素です。例えば、dについては、窃盗と強盗は意思に反する占有移転という点では共通する(+)、正当防衛と量的過剰防衛は急迫不正の侵害の有無で異なる(-)、昏睡強盗と強盗は反抗抑圧状態を利用して財物を奪取する点で共通(+)等です。また、gについては、正当防衛と量的過剰防衛は防衛の意思の有無で異なる(-)等です。
 もっとも、例外的に、因果性がある(共謀の射程外)場合が存在します。例えば、共謀段階での制約がある場合、共謀段階での影響力の小さい場合です。

3 検討

平成20年司法試験 刑法
甲乙は住居侵入罪と窃盗を共謀したが、甲が強盗した場合の、乙の罪責
甲乙は、Aが外出すれば家政婦が来るまでの間A宅には人がいない(Bの不存在)という認識をしていた事案

 甲の行為に強盗罪が成立する。
   ↓
 乙は、甲がカッターナイフを用意したことを知らなかった。他方、甲は、乙に対し「先に帰れ」と述べており、乙による暴行脅迫を想定していなかった。したがって、住居侵入罪と窃盗罪の共謀が成する(犯罪共同説、判例実務)(①)。
 たしかに、e身体への暴行脅迫の点で異なる。しかし、abcは同一で、d意思に反する占有移転という点では共通し、g金品を奪うという目的も共通する。したがって、①によって形成された動機が継続する状況下で行われており、因果性があるといえる(②)。
 (+③充足→強盗罪の共同正犯)
   ↓
 実現事実と認識事実に齟齬があるため、抽象的事実の錯誤が問題となります。
 そのため、軽い犯罪については重なり合う構成要件の限度で故意を認めることになります。

 注意することは2点あります。
 1つは、共謀の射程は、抽象的事実の錯誤の論点を論ずる前提として、共謀に基づくか(②)の段階でコンパクトに言及するにとどめる。
 もう1つは、①によって形成された動機が継続する状況下で行われているといえず、因果性がない場合、すなわち共謀の射程外である場合には、因果性がないため、狭義の共犯の可能性も全て否定される。


大塚裕史「共同正犯の処罰根拠と共謀共同正犯」法学セミナー743号92-100頁(2016)
大塚裕史「共謀の射程と共同正犯の錯誤」法学セミナー746号99-108頁(2017)