【再現答案】令和2年司法試験 行政法 C評価
1 再現答案 2600文字
第1 設問1 小問⑴
1 前提として計画自体の処分性
⑴ 「処分」(行政事件訴訟法(以下行訴法という)3条2項)とは、公権力の主体たる国又は公共団体の行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を画定することが法律上認められている場合をいう。すなわち、①公権力性と②具体的法効果性が必要となる。
⑵ まず、昭和57年4月22日判決は、後続する権利関係が具体的に変動する段階において初めて具体的法効果性が認められるに過ぎず、計画段階においては法令の制定と同様に一般的抽象的効果が生じるに過ぎず、具体的法効果性を欠き(②不充足)、処分性が否定されるとする。
次に、本件計画は、農振法8条1項によって行われ、農用地区域(同条2項1号)とされている。農地を転用するには、許可を受けることが必要となるところ(農地法4条1項)、農用地区域内にある農地には、許可をすることができないとされる(同4条6項1号イ)。このような規制は自由に使用処分できるという所有権に対する重大な制約であり、規制の程度は強度といえる。そのため、農用地区域をする計画は、後続する法の執行を待たず、それ自体によって、農地転用許可を受けることができないという具体的法効果を生じさせる(②)。また、このような効果は、農振法8条によって一方的に生じるため、公権力性もある(①)。
⑶ したがって、本件計画は「処分」に当たる。
2 計画変更の処分性
⑴ 以上の本件計画の処分性を前提に、計画変更に①及び②が認められ、「処分」といえるか。
⑵ 本件農地は農用地区域内にある農地であり、農地転用許可を受けることができないところ、農用地区域から除外する計画変更(農振法13条1項)がなされれば、本件農地も農地転用許可を受けることが可能となる。そのため、かかる計画変更は、農地転用許可を受けることができないという具体的法効果を解除するという具体的法効果を生じさせるものといえる(②)。また、このような効果は、農振法13条1項によって一方的に生じるため、公権力性もある(①)。
⑶ したがって、本件計画は「処分」に当たる。
3 計画変更申出に対する拒絶の処分性
⑴ 上記拒絶に①及び②が認められ、「処分」といえるか。
⑵ たしかに、計画変更は職権で行うものとされている。そのため、計画変更の申出は職権発動を促すものに過ぎず、これを拒絶しても具体的法効果が生じるとはいえないとも思える。
しかし、計画変更については、実務上、農地所有者等からの申出が不可欠なものとされている。また、B市においては、本件運用指針4条1項によって申出ができることが定められかつ公表されている。そのため、平等公平な取扱いを実現するために、B市においては、計画変更についての申請権を農地所有者等に保障したものと評価できる。拒絶は、かかる申請権を侵害するという具体的法効果を生じさせる(②)。また、このような効果は、計画変更を行わないこと(農振法13条1項)によって一方的に生じるため、公権力性もある(①)。
したがって、計画変更申出に対する拒絶は「処分」に当たる。
第2 設問1 小問⑵
1 訴訟選択
計画変更に対する拒絶の処分がなされていないため、不作為の違法確認の訴え(行訴法3条5項)を提起する。
2 訴訟要件
⑴ Xは後述の通り本件申出書によって申請を行っているため、「処分…についての申請をした者」(同法37条)に当たるため、原告適格を有する。
⑵ 被告はB市である(同法38条1項、11条1項1号)。
⑶ 上記訴えは、処分がなされない間は提起することができるため、出訴期間も問題ない。
3 本案
⑴ 前述の通り、B市では計画変更の申出について本件運用指針4条1項によって申請権を保障しており、「法令に基づき、…自己に対して何らかの利益を付与する処分を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているもの」に当たるため、「申請」に当たる(行政手続法(以下単に行手法という)2条3号)。
⑵ B市が公表している農用地区域からの除外に8年程度を要する旨(同5条3項)を参考とすると(同6条)、同時期に申し出た他の農地所有者等には諾否の応答がなされているため、「相当の期間内に何らかの処分…をすべきであるにもかかわらず、これをしない」(行訴法3条5項)といえる。
第3 設問2
1 農振法13条2項5号
⑴ B市は、事業の工事(農振法10条3項2号、農業振興地域の整備に関する法律施行規則4条の3第1号)の完了から8年を経過していないため(農振法施行令9条)、農用地区域から除外する計画変更を行うことはできないと主張する。
⑵ たしかに、本件事業は大雨時の周辺農地の冠水等を防止するため「主として農地の災害を防止することを目的とするもの」である。しかし、特に本件農地は高台にあるため冠水による被害を受けることはおよそなく、事業の工事にあたらない。
⑶ したがって、8年を経過していなくとも、行政庁は農業地区域から除外する計画変更を行うことができるといえ、この点に違法がある。
2 農振法施行令9条の機械的適用
⑴ まず、計画変更(農振法13条1項)には、抽象的要件が定められるのみであり(同2項5号)、農地の変更を認めるかについては政策的判断が必要となる。そのため、計画変更には要件裁量が認められる。
⑵ 農振法施行令9条は行政規則であるものの、上記裁量権行使に際して依るべき基準としての裁量基準である。
そのため、公平平等の取扱いが要請される。
そこで、基準が合理的であることを前提に、特段の事情がない限り、異なる取扱いをすることは、裁量権の逸脱濫用に当たると解される(行訴法30条)。
⑶ 本問では、農振法施行令9条は合理性があるものとされている。
たしかに、同9条に従えば、本件事業が完了した平成30年12月から8年を経過していないため、計画変更を行うことができないのが原則である。
しかし、本件事業のうち、本件農地を直接の受益地とする上流部分については平成20年末頃には完了している。かかる時点を基準とすれば既に8年を経過しているといえる。8年の経過を要求する趣旨は公共投資の元を取る点にあり、かかる趣旨からすると平成20年末頃を基準とすることで足りる。
したがって、子のような特段の事情を考慮することなく、機械的に適用したことは考慮不尽に当たり、裁量権の逸脱濫用に当たるため、違法である。
以上
2 分析 ※太文字は試験中の思考
設問1小問⑴
・封緘シールを破って問題冊子を開いた瞬間に関係法令の農振法が目に留まった。農振法といえば重判で処分性を否定した判例(平成30年重判行政法8事件、名古屋高判平成29年8月9日)が出ていたなと思い出した。しかし、今年は試験実施日程が変更されたこともあって、直前期に重判に目を通すことができていなかった。まあ目を通していたとしても行政法の高裁判例なんて記憶になかったようにも思いますが。
・①計画(設定)の処分性については最判昭和57年判例を参照し(同判例は平成24年司法試験行政法で扱われていたと記憶しています)、②計画変更の処分性については平成29年の司法試験の考え方(法的効果を解除する法的効果)を参考にする等できるだけ誘導に従って論じるように努めた。しかし、①計画の処分性について、昭和57年の射程を論じる際、再現答案では、本件農地が農用地区域に指定されているため転用ができないことしか言及できていない。ここでは、勧告(農振法14条)、調停(同15条)、開発行為の許可(同15条の2第1項)、農地等の転用の制限(同17条)なんかも引けたのかもしれません。いずれにしろ少し薄いですね。他方、③申出拒絶の処分性については、申請権とか小早川説的なことを書いてしまっていて大丈夫かなと不安です。名古屋高判平成29年では、最判昭和57年に引き付けて計画の処分性を否定→申請は職権発動を求めるものに過ぎない→申出拒否の処分性否定というフローでした。そのため、最判昭和57年の射程外として計画の処分性を肯定→申出が単に職権発動を促すものに過ぎないのではなくて計画変更にとって必要不可欠なものこれに対する応答を義務付けていると観念できる→申出拒否の処分性肯定というフローで論じることになるんでしょうかね。
・「本件計画の変更段階での抗告訴訟による救済の必要性も、検討してください」という誘導の意味が分からず、これに従うことができなかった。これは農地転用許可の申請に対する不許可処分(農振法4条1項)の取消訴訟を提起することでは「何らかの不利益があり」救済されないから、本件計画変更又はその申出の拒絶の段階で処分性を肯定するべきだという救済の必要性からの立論を求められているのですかね。ただ、大田区ごみ処理場の2要件説で書いていると、救済の必要性の位置付けがフワフワしてきて規範のない当てはめみたいな事態に陥りがちなので、受験生的には書きにくいんですよね。きっとみんな書けてないはず。
設問1小問⑵
・未だ申出への拒否処分がされていないこと及び義務付けの訴えが排除されていることを前提に、不作為の違法確認の訴えを選択した。令和元年の司法試験では無効確認の訴えが出題されており、未だ司法試験では出題のない不作為の違法確認の訴えの出題可能性も高いと考えていた。
・訴訟要件は丁寧に論じた。諸説あり得るが、法令に基づいて申請をしたことも訴訟要件として検討した。
・本案上の主張は行政手続法上の問題があることが誘導されておりこれに従ったが、同法7条は不受理を認めていないということについて言及できていないように記憶している。また、同法の瑕疵が違法事由に当たるかについて検討を欠いている。この辺はみんな書けると思うので、検討を忘れてしまったことは評価が沈む原因になると思う。
・行政指導とかも書けたんですかね、わかりませんが。
設問2
・申出拒否の取消訴訟についての本案上の主張は、時間との関係で、十分な法律構成が整わないままに書き始めることとなってしまった。誘導を読んだが、実体法上の違法事由が1つなのか2つなのかすらいまいちわからなかった。弁護士Dの「さらに」前後で2つに分けて2つの違法事由を論じた。もっとも、設問2については、その場で考えたことを適当に書いた感じになってしまったので、再現率が低いと思う。
・前者については、農振法13条2項5号、農振法施行令9条、農振法10条3項2号、農業振興地域の整備に関する法律施行規則4条の3第1号「事業」該当性を否定するというもの。後者と異なり、こちらでは裁量統制として論じていない。そのため、後者との関係で一貫性を欠くようにも思う。
・後者については、計画変更の要件裁量を前提に、農振法施行令9条の8年規制を機械的に適用すべきでない特段の事情を検討し、考慮不尽を導いた。