答案のおとし所

(元)司法試験受験生の立場から、再現答案のアップしたり、日々の勉強での悩み、勉強法などについて書いていきます。

【再現答案】令和2年司法試験 憲法 A評価

1 再現答案 3238文字

第1 規制①
 持続可能な地域交通システム法(以下単に法とする)3条1項が、生活路線バスを運行する乗合バス事業者のみが高速路線バスを運行する事業者になることができるとすることによって、高速路線バスのみを運行する乗合バス事業を営む自由を害するため、憲法(以下省略)22条1項に反し違憲のおそれがある。
 1 同条は職業「選択」の自由を保障する。また、選択した職業はそれを行って初めて意味があるから、同条は職業遂行の自由をも保障している。
   高速路線バスのみを運行する乗合バス事業者は、生活路線バスに比して収益率の高い高速路線バスのみを運行することを選択しているのであり、上記自由は職業「選択」の自由として保障される。
 2 かかる自由が、法3条1項によって妨げられており、制約があるといえる。
 3 職業とは自己の生計を維持するための継続的活動であるとともに、社会的機能分担たる性質を有し、個人の人格的価値とも不可分の関係を有する重要な権利である。
   また、職業「選択」の自由それ自体を制約しており、強度な制約といえる。
   さらに、法1条を参照すると、法3条1項の主たる規制目的は地域における住民の移動手段の確保にある。これは国民経済の発展を志向するものであり、積極目的規制といえる。
   そうすると、重要な公共の利益のため、必要かつ合理的な措置である場合に限り、22条1項に反せず合憲と解される(薬事法判決)。
   ここでは、生活路線バスを運行すること又は貸切バス事業者に転業して委託を受けることにより事業を継続できるため、職業遂行の自由に対する制約に過ぎない主観的規制といえ、緩やかな基準が適用される(司法書士法判決)との異なる立場が想定される。
   しかし、薬事法判決は距離制限規制の文脈において、特定場所での活動に社会的意義が認められれば職業「選択」それ自体に対する制約を観念できるとしている。*1
   本問おいては、場所というレベルではないものの、高速路線バスのみを運行する事業者というレベルで特定の職業に特定している。そしてこれは生活路線バスに比して高速路線バスの方が収益率が高いという重要な意義を有している。そのため、このような自由への制約は、職業「選択」それ自体に対する制約を観念できる。
   したがって、上記見解は採用できない。
 4 本問において、規制①の主たる規制目的は地域における住民の移動手段の確保にある。地方で、生活路線バスの経営赤字により路線の廃止や減便が続いており、これを防止することは地域住民の不可欠な移動手段を守るという重要な公共の利益の確保を目的とするものいえる。
  手段については、法3条1項が、生活路線バスを運行する乗合バス事業者のみが高速路線バスを運行する事業者になることができるとすることによって、生活路線バス事業への新規参入を促し、また高速路線バス事業による収入と補助金により生活路線バスの事業の赤字を補うことができる。そのため、かかる手段は目的を促進するものといえる。
  他方で、同条は生活路線バス事業への新規参入について既存の業者の経営の安定を害さないことという参入要件を定めている。かかる手段は、既に収益率の高い高速路線バスのみを運行する事業者を選択した者が、収益率の高い生活路線バス事業への新規参入することを妨げるため、目的達成を阻害するものといえる(なお、このような手段は、隠された既存事業者保護という目的の関係でのみその目的を促進させる手段といえるに過ぎない*2) 。
 5 したがって、法3条1項が、生活路線バスを運行する乗合バス事業者のみが高速路線バスを運行する事業者になることができるとすることは、参入要件は撤廃して価格競争させるなどの措置を採った場合に限り、22条1項に反さず合憲であるという意見を述べる。
第2 規制②
 1 法5条1項が、特定区域の住民以外の者が乗車する自家用乗用自動車の通行を禁止することによって、特定地域の住民以外の者が自家用乗用自動車で移動する自由を妨げているため、13条後段に反し違憲のおそれがある。
 ⑴ 13条後段は基底的権利である。他方で、引見のインフレ化を防ぐ必要がある。
   そこで、人格的利益に不可欠なものに限り「幸福追求」権として同条により保障されると解される。
   上記自由は生活のために特定区域を通行する特定区域以外の者がいることを想定すると、人格的利益にとって不可欠といえるため、同条により保障される。
   ここでは、22条1項の「移動」の自由として保障を受けるという異なる立場が想定される。
   しかし、国内旅行について同条による保障を認める判例はあるものの、自家用乗用自動車を用いるものについて直接の判例は存在しない。また、自家用車を用いない移動それ自体は可能である。さらに、仮に22条1項による保障を認めたとしても、上記自由は精神的側面や人身的側面を有するものではないから、13条後段に比して権利の重要性が高いとも言えない。そのため、かかる立場は採用しない。
 ⑵ かかる自由が、法5条1項により妨げられているため、制約がある。
 ⑶ 以上のように、人格的利益に関する重要な権利が、事前かつ直接的に制約を受けているため強度な制約といえる。
   そこで、重要な目的のため、実質的関連性を有する手段である場合に限り、13条後段に反さず合憲であると解される。
 ⑷ 本問において、規制②の規制目的は、交通渋滞の除去にある。これは緊急車両の通行を円滑にする等重要な目的であるといえる。なお、交通渋滞によって害され得る住民の安全や安心な生活という利益は、主観的な利益に過ぎず、重要な目的とまではいえない。
   手段については、自家用乗用自動車の通行が交通渋滞の一因となっている以上、これを禁止することは目的を促進するものといえる。また、場所によっては道路の拡幅をすることができないのであり、より緩やかな他に適当な方法も存在しない。さらに、禁止は日時及び場所を限定して行われるものであり、過度な規制ともいえない。そのため、目的との関係で実質的関連性を有する手段といえる。
   したがって、法5条1項が、特定区域の住民以外の者が乗車する自家用乗用自動車の通行を禁止することは、13条後段に反さず合憲である。
 2 法5条2項が「過料に処する」要件として、同条1項を掲げているため、31条によって明確性が要求される。
   通常の判断能力を有する一般人を基準として、法令の適用の有無を判断できる程度の明確性があれば、31条に反しない。
   法5条1項は、特定区域の住民以外の者が乗車する自家用乗用自動車の通行を禁止する。また、同項カッコ書きにおいて、除外されている通り、特定区域の住民以外の者が乗車する場合であっても、特定区域の住民が乗せて送ってもらうときは、通行が禁止さない。
   もっとも、その他の除外事由として掲げられる「その他やむを得ない事由」というのが、通常の判断能力を有する一般人を基準として、具体的にわからない。そのため、過料を処されるか否かを判断できる程度の明確性がないといえる。
   したがって、法5条は31条に反し違憲のおそれがあるため、除外事由を明確にすべきであるという意見を述べる。
第3 規制①の補足
 1 法3条1項によって生じる生活路線バスの購入費用等に損失補償を規定しないことが、29条3項に反しないか。
   損失補償規定を設けなくとも、同条を直接の根拠として請求可能であるから、規定しないことは29条3項に反しない。
 2 補償を要するか。
  補償の趣旨は、財産権保障及び公平平等の観点である。
  そこで、財産権の内在的制約としての受忍限度を超えた特別の犠牲が生じた場合に限り、補償を要すると解される。
  本問では、高速路線バスのみを運行する事業者のみに損失が生じている。また、積極目的によって損失が生じている。さらに、事業者に生じる損失は新規参入に当たり必要となる費用でありその費用は高額になると予想される。
  したがって、財産権の内在的制約としての受忍限度を超えた特別の犠牲が生じたといえ、補償を要する。
以上

2 分析 ※太文字は試験中の思考

規制①
22条1項の問題であることは明らかであり、平成26年の司法試験憲法との対比で検討しようと考えた。職業「選択」の自由そのものの制約であるのか、それとも職業遂行の自由の制約であるのかを手厚く論じるべきだと思った。ただ、いまさらながら権利と制約の認定順序が悩ましかった。つまり、権利→制約→正当化という順で検討するのが人権パターンであるが、特定の規制との関係で制約を観念するわけだから、制約を念頭に置きつつ権利を確定するのではないかということ(頭の中では制約→権利→正当化)。
直感的に規制①は違憲だろうと思った。
両規制にかかる事実は、規制①:規制②=6:4くらいに見えたので、論述もそれくらいの配分になるように調節した。
参照とすべき判例や異なる立場については明示的に言及するように努めた。令和元年の司法試験でも多くの再現答案が判例を参考にしていたが、採点実感では特定の判例の参考の仕方(射程)が間違いであると述べるにとどまり、想定されているであろう判例名が明示的に言及されていなかった。そのため、受験生としては間違いを過度におそれる必要はなく、とにかく判例を参考にして書く必要があると考えた。
答案を書いている際に、問題文最後の方に記載されている3つの疑問(a「これまで高速専業だった乗合バス事業者からは、生活路線バスに参入しないと…」、b「また、生活路線バス用の車両の購入や…」、c「そもそも、…経営を脅かさずに参入できる地域があるのか」)の一部についての検討を失念していることに気付いた。そのため、規制②を検討した後、規制①の補足として、bを損失補償に構成して論じた。正直これも必須なのかわからないが一応記載した。この辺の事情(特にb)は、手段審査の中で考慮した方が良かったのかもしれない。また、手段審査の中では、既存の業者の経営の安定を害さないことという参入要件が、およそ利益追求を目指す企業にとって選択し難い赤字路線への新規参入を強制していることを指摘しておきたかった。
規制②
権利設定の段階から悩んだ。22条1項で行くのか、13条後段で行くのか、はたまたそれ以外の検討の仕方があるのか。このような悩みもあったので、規制①に重点を当てた答案にした。結果として、13条後段を選択したため、22条1項を採用しない理由を比較的丁寧に論じ、権利選択で大外しという認定を受けた場合の最悪のケースに対してのリスクヘッジをしておいたつもり(もっとも多くの受験生が22条1項で行くのだろうから素直に多数派に乗っておけばよかったと後悔)。13条後段を選択したのは、移動自体が制限されているのではなく、あくまでも域外から自家用車で乗り入れることが禁止されていたから(また、22条1項で保障されるとした上で制約がない又は制約の程度が低いと論じるよりもベターだと感じたから。)。ただ、22条1項を否定した理由として、精神的自由の側面・経済的自由の側面・人身の自由の側面がないことを挙げているにもかかわらず、13条後段を検討する際に人格的利益であることを肯定することには少し違和感があった。この辺りは平成28年司法試験憲法で問われていたから、復習不足を痛感した(大島義則『憲法ガールⅡ』122-124頁(法律文化社、初版、2018年)が参考になる。)

直感的に規制②は合憲だろうと思った。
法5条2項は「過料」を定めていたため、憲法31条の明確性について論じた。しかし、罪刑法定主義との関係で問題となるのは「科料」であるので、書くとしたら行政罰にも憲法31条の趣旨が及ぶのかという検討の仕方が正しかったのかもしれない。そもそも制約の強度で使う事情だったのかもしれない。

*1:大島義則『憲法ガールⅡ』48-49頁(法律文化社、初版、2018年)あたりを念頭に置いていました。

*2:大島義則『憲法ガールⅡ』52-56頁(法律文化社、初版、2018年)あたりを念頭に置いていました。