答案のおとし所

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【再現答案】令和2年司法試験 労働法(集団的労働関係) 50(こちらの方が良い)

1 再現答案 2204文字

第1 設問1
 1⑴ Eは、労働委員会に対して、AがEの求める団体交渉に応じないことが、労働組合法(以下省略)7条2号に反するとして、団体交渉命令及びポストノーティス命令を求めて救済申立てを行う(同27条以下)(また、Cに対する減給処分が7条1号に反するとして、撤回命令を求める)。
  ⑵ また、Eは、裁判所に対して、Eが団体交渉を求め得る地位にあることの確認並びに仮処分(民事保全法23条2項、13条)を申立て、及び不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を求める。
 2⑴ア Eは地域合同労組であるが、「労働組合」(2条)に当たるか(自主性については後述する)。
社外に設置された地域合同組合であるEは、労働者Cに対してなされた減給処分を争うために、Aと団体交渉を行おうとしており、その主たる目的が労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図る「労働組合」に当たるといえる。
Eとしては、法適合組合であることを立証すれば(5条1項本文)、その代表者に団体交渉の権限が存在するといえる(6条)。
イ Eが示した申立事項は義務的団交事項に当たるか。これにあたれば原則としてAに団交交渉に応じる義務が発生する。
義務的団交事項とは、①労働条件その他の待遇に関する事項又は労使関係の運営に関する事項で、かつ②使用者に処分可能なものをいう。
Cに対する減給処分が撤回されれば満額の賃金を得ることができるため、待遇に関するものといえる(①)。また、減給処分はAの懲戒委員会の決定を受けて行われているものの、Aとしては同委員会の決定に従う義務はなくあくまでも同決定を参考にしているに過ぎないため、減給処分の撤回はAに処分可能なものといえる(②)。
したがって、Eの示した申立事項は義務的団交事項に当たり、原則としてAには団体交渉に応じる義務が発生する。
 ウ AはEの団体交渉を「拒」んだ(7条2号)といえるか。
団体交渉権を実効的に確保するためには不誠実な対応を認めるべきではない。
そこで、使用者には誠実な交渉を通じて合意達成の可能性を模索する誠実交渉義務を負い、これに反せば「拒」むに当たると解される。
まず、AはEに所属するA従業員全ての者の氏名を明らかにすることができないのであれば団体交渉に応じることができないと述べている。もっとも、団体交渉に際してこのような要求をする法的権利は認められておらず、Cの減給処分の撤回を検討するに際して同時期にEに加入したFGは無関係であり考慮する必要がない。そのため、このような要求をして団体交渉に応じないことには理由がなく、誠実交渉義務に反するといえる。
また、Aは既にCが併せて加入しているBとの間で団体交渉を終えており改めてEと団体交渉をすることは二重交渉になるため応じることができないと述べている。たしかに、団体交渉が1度行われていたとすれば、団体交渉権行使の機会が実質的に確保されていたといえ、重ねて団体交渉を行う必要ななくAの主張に理由があるとも思える。しかし、CがBに団体交渉を求めたものの、「既に解決済みである」と述べられるにとどまり全く取り扱ってもらえていない。そのため、このような状況にあっては、AB間の団体交渉が適切に行われたものと評価できない。そうすると、Cには団体交渉権行使の機会が実質的に確保されていたとはいえず、このようなAB間の団体交渉をもって、Eとの団体交渉に応じないことには理由がなく、誠実交渉義務に反するといえる。
したがって、以上に2つの理由によって団体交渉に応じないことは「拒」むに当たる。
  エ Cが営業第二課長であるため「利益を代表する者」(2条本文但書、1号)に当たり、このような者の参加を許すEは「労働組合」といえないのではないか。
    「利益を代表する者」であるかは、管理監督者該当性(労働基準法41条2号)が参考とされるが、管理監督者に当たる場合に直ちに「利益を代表する者」に当たるわけではなく、使用者から独立性を有しているかが重要となる。
    たしかに、Cが位置する営業第二課長は、出勤・退勤時間について拘束がなく(勤務内容及び待遇⑥)、労働時間に対する裁量を有し労働時間規制になじまない立場にあった。また、役職手当として月12万円という高額の手当が支給されることとなっており(同⑤)、他の従業員に比して高待遇であった。しかし、営業方針と計画について原案を作成し経営会議に参加及び説明をすることもあったが、議事に参加する権限や議決権は与えられていなかった(同④)。他にも、人事考課(同①)、人事異動の希望聴取(同②)が認められていたに過ぎない。そのため、経営者との一体性を肯定する程に重要な職務と責任がある立場にあったとまではいえない。
    したがって、営業第二課長は管理監督者とはいえない。このような地位である営業第二課長は、経営者からの独立性を有しているとはいえない。
    よって、営業第二課長たるC「利益を代表する者」に当たらない。
  オ 以上からすれば、救済申立ては認められる。
⑵ア 使用者の具体的債務内容の特定は困難であり団体交渉請求権は認められないが、前述のようにAには団体交渉義務があるから、Eに団体交渉を求め得る地位にあることの確認及び仮処分申し立てが認められる。
  イ 不当労働行為は憲法28条の一環であるから、前述のようなAの支配介入によりCに精神的損害が認められるといえ、損害賠償請求権も認められる。
以上              

2 分析 ※太文字は試験中の思考

設問1
・例年と同様に機関・根拠・内容が問われた。ここは簡潔に記載して、設問2で具体的に論じた。
 設問2
地域合同労組が団体交渉の主体となるかというのは少し細かいと思った。ただ、大内伸哉ほか『労働法演習ノート』(弘文堂、初版、2011)にこのような問題意識があったと思う。もっとも、同書279-280頁をよく見てみると、「二重加盟している場合には、両組合間で団体交渉権限の調整または統一がなされるまで、使用者は団体交渉を拒否できる」とあった(東京地判平成16年3月4日)。

主に問題となっているのは、団体交渉に応じないことが支配介入に当たるか否かという問題であるが、その前提として行われた減給処分が不利益取扱いに当たるか否かという問題を論じるべきか又は論じるとしたらどの程度論じるべきか悩んだ。結果としては、団交拒否について論じることがかなり多かったため、不利益取扱いについてはほとんど論じないという構成にした。辰巳法律研究所の速報によると、不利益取扱いを論じるべきではないとされていた。たしかに「E組合は」という問いであるから、E組合が主張している団体交渉についてのみ論じれば足りると考えることもできる。しかし、団交応諾命令などの救済命令を求めたとしても、団交拒否の前提となる減給処分について争わないというのは正直意味がわからないです(CがB組合のみに所属していた時点の団交拒否を、E組合に所属した以降に争うことができるならば、減給処分についても争えるんじゃないですかね)。配点を考えるとあまり紙面を割かないという戦略はその通りですが。なお、少し論点はズレますが、組合員が申立て後に退職や脱退して当該組合資格を喪失した場合に、組合は固有の救済利益を有しているので、組合資格を喪失した組合員が積極的に不利益是正を図る意思のないことを表明しない限り、組合は是正を求めることができる(朝日ダイヤモンド工業事件、最判昭和61年6月10日)とされています。
団交拒否該当性を検討するに際して、使用者Aは複数の理由をもって団体交渉に応じないとしているため、これをどのように構成すべきか悩んだ。結果として、誠実交渉義務違反(カールツアイス事件)の枠の中で名簿提示請求と二重交渉を論じ(しかし、本問では形式的に交渉があったがその内容が誠実でなかったというのではなく、団交を申し入れようと書面を送付したところこれを拒否する書面が返送されかつ未だ団交の申し入れに応じていない。そのため、「正当な理由」の枠の中で論じた方が自然だったのだろう。)、利益代表者については別枠で団体交渉の主体という枠で論じることにした。前述した地域合同労組の話も団体交渉の主体として論じたため、同一論点について論述が離れてしまった。
・事例の第1文目は何のための事情なんでしょう。B組合がユシ協定及びチエ協定を含む労働協約を締結しているという事情は、Cがそのような所属しておくことにメリットのあるB組合を脱退せず同組合の組合員としての地位を維持したまま、E組合に加入したという行動の自然さを担保するものという感じでしょうか。なくても良かった気がしますけど。