答案のおとし所

(元)司法試験受験生の立場から、再現答案のアップしたり、日々の勉強での悩み、勉強法などについて書いていきます。

【再現答案】令和元年(平成31年)司法試験 商法 A評価

1 再現答案 3303文字

第1 設問1
 1 自ら招集する場合(会社法(以下省略)297条1項)
  ⑴ 乙は、平成29年5月から公開会社甲社の株式の取得を開始し、平成30年1月時点で15%の株式を保有しているため、「総株主の議決権の百分の三…以上の議決権を六箇月以上…前から引き続き有する株主」である。
  ⑵ そのため、「取締役」に対して、「株主総会の目的である事項…及び招集の理由」を示せば、株主総会の招集をすることができる。
 2 株主提案権を行使する場合(303条2項)
  ⑴ 乙は、前述と同様に、取締役設置会社(327条1項2号)たる甲社の株式を15%保有しており、「総株主の百分の一…以上の議決権…を六箇月…前から引き続き有する株主」である。
  ⑵ また、平成30年1月時点において、同年6月の臨時株主総会は「八週間」前であるから、「取締役」に対して「一定の事項を株主総会の目的」とすることを請求し得る。
  ⑶ もっとも、甲社定款13条は、「議決権の基準日」を「毎年3月31日」と定めており(124条1項2項)、乙が取得した甲社株式15%はいずれも「基準日後」に取得したものである(同条4項本文)。そのため、乙は基準日株主といえず、株式会社が定めた場合の除き、臨時株主総会において議決権を行使することができない。
 3 私見
  以上より、乙としては、自ら招集するべきである。
第2 設問2
 1 手段
  乙社としては、効力発生日たる平成30年7月25日以前の同年6月26日においては、本件新株予約権無償割当ての差止め(247条類推適用)及び同請求権を被保全債権として仮処分申立てを行う(民事保全法23条2項、13条)。
 2 主張
  ⑴ 247条類推適用
   まず、247条は、差止めの対象を238条としているために、直接適用できない。
   もっとも、247条は事前救済の機会を与える趣旨であるから、これは新株予約権無償割当て(277条)の場合にも妥当する。
   したがって、247条類推適用によって、新株予約権無償割当ての差止めをすることができる。
  ⑵ 247条類推適用の1号事由「法令…違反」
   ア 109条類推適用
    まず、109条は、株主を「株式の内容及び数」に応じて平等に取扱うことを求めるところ、無償割当てである限り株式の内容及び数に応じて新株予約権の割当てが行われるため(概要⑸)、直接適用できない。
    もっとも、新株予約権無償割当てにおいても、当該新株予約権の「内容及び数又はその算定方法」が定められることとなっており(278条1項1号)、差別的行使条件(概要⑻)により不平等が生じないように、109条の趣旨が妥当するといえる。
    したがって、109条類推適用が認められる。
   イ 109条類推適用違反の有無
    平等原則は、合理的な理由なき異別取扱い禁止するものである。
    そこで、異別取扱いに、①必要性があり、かつ②相当な程度のものであれば、違反しないと解される。敵対的買収対策としてなされる新株予約権無償割当ては、株式会社ひいては株主の利益保護を目的としてなされるものであるから、①については株主総会の決定が尊重される。
    本件では、1株につき2個の新株予約権が割り当てられるものの、乙社を非適格者として行使を制限し、1個1円という低廉な価格で買い取り、締め出しを行うものであり、乙社とそれ以外の者との間に異別取扱いがある。
    もっとも、これは乙社が比較的短期間で株式を売買する投資手法を採っていること、過去に敵対的な買収により対象会社の支配権を取得して対象会社の財産を切り売りする投資手法をとったことがあること、甲社の事業に対して理解がないこと等を理由としており、このような乙社から甲社ひいては株主の利益を守る必要性があった(①)。そしてこれについては、取締役会限りでは決定しかねるとして、株主総会での意見を仰ぐという謙抑的な態度が採られている。また、同取締役会において、本件新株予約権無償割当てが、出席者90%、賛成67%という過半数以上の賛成を得ており、決議に瑕疵はないため、かかる決定は尊重される。
    たしかに、乙社は、他の株主と異なり、新株予約権1個1円という低廉な価格での買い取りをしてもらうしかなく、不利益が生じる。しかし、同不利益については、乙社が買い増しを行わない旨を確約した場合には解消する術があり(概要⑽)、過大な不利益とは言えず、相当性もある(②)。
   ウ よって、109条類推適用の「法令…違反」はなく、247条類推適用の1号事由は認められない。
  ⑶ 247条類推適用の2号事由
   ア 「著しく不公正な方法」とは、主要な目的が支配権維持にあることをいう。
     もっとも、正当な目的があれば、例外的に「著しく不公正な方法」には当たらないと解される。
     本件では、過去に乙社が敵対的買収により経営陣を入れ替えたという事実から、甲社取締役からは経営陣を入れ替える可能性が高いとの懸念が示されており、主要な目的として支配権維持が推認される。
     しかし、前述の通り、本件新株予約権無償割当ては、会社ひいては株主の利益のために行われており、これは株主総会の意思を尊重するものである。そのため、同割当てには正当な目的が認められる。
     したがって、例外的に「著しく不公正な方法」に当たらない。
   イ よって、247条類推適用の2号事由は認められない。
 3 当否
  以上より、乙社の差止め及び仮処分申立ては認められない。
第3 設問3
 1 本件決議1の効力
  ⑴ 本件決議1の効力が無効であるとすれば、同決議に従うべきでなく後述する423条1項責任における任務懈怠を肯定する大きな要素となる可能性がある。
  ⑵ では「決議の内容」が「法令に違反」(830条2項)するために、本件決議1が無効といえないか。
   「決議の内容」である本件株主提案にかかる議題1(定款変更の件)が無効(民法90)であるとすれば、「法令に違反」するといえる。
   議題1は、財産の処分について株主総会の決議でこれを行うことができるようにする定款変更である。そのため、同処分が「重要な財産の処分」を含むとすれば、取締役会に権限を留保した362条4項1号に違反する定款であるとも思える。
   しかし、議題1は、あくまでも「株主総会の決議によっても」とあるように、取締役会の権限を奪うものではなく、両権限を併存的に規定するものであるにすぎない。
   したがって、「決議の内容」である議題1は無効とはいえず、本件決議1が「法令に違反」するともいえない。
 2 Aの423条1項責任
  ⑴ Aは「取締役」である。
  ⑵ 「任務を怠った」とは、法令定款違反又は善管注意義務違反をいう。
   もっとも、裁判所による事後的な結果責任の追及は経営者の判断を萎縮させるため、同判断は尊重されるべきである。
   そこで、①経営判断事項について、②その決定の過程及び内容につき著しく不合理な点がない限り、善管注意義務違反を構成しないと解される。
   P倉庫売却は、甲社内での活用可能性があるか又は遊休資産であり売却が望ましいが判断が分かれる事項であり、将来の甲社の資産形成にかかるものであるから、経営判断事項に当たる(①)。
   AはP倉庫売却を決定するに際して、甲社取締役及び社外取締役の意見を聴取している。もっとも、聴取の時間は不明であるし、それ以上に専門的知識を有する者の意見を問う等しておらず、十分な過程を経たとは言い難い。また、P売却見込みが付いた後に、Q倉庫倒壊という事態が発生し、Q倉庫内の貨物を保管するために、P倉庫の活用可能性が高まった。さらに、P倉庫を売却すれば50億円の損害が生じるのに対して、P倉庫の売却交渉を中止しても未だ違約金等の損害賠償義務を負うことはなく、P倉庫売却をやめることが可能であった。加えて、P倉庫を直ちに売却しないと不動産価値が下落するといった事情もなくその必要性は乏しかった。このような状況において、敢えてP倉庫を売却するというのは通常の経営者としても想定し難いものである。そのため、判断の過程及び内容に著しく不合理な点があり、善管注意義務違反を構成する。
   したがって、「任務を怠った」といえる。
  ⑶ これによって、多大な「損害」が甲社に生じており、因果関係もある。
  ⑷ 上記善管注意義務違反の態様からすれば、過失がないとはいえない(428条1項カッコ書)。
  ⑸ 以上より、Aは、甲社に対して423条1項に基づく損害賠償責任を負う。
以上

2 分析 ※太文字は試験中の思考

設問1
 一番よくわからなかった問題であり、設問2設問3の方が書きやすく感じたので端的な記載にとどめようと思った。他方で、その割配点が30点もあることが気がかりだった。
 いずれの手段についても条文構造の摘示を丁寧に行った。もっとも、両手段の「比較」の視点がわからず苦戦した。
本問は、単純に全ての項まで条文摘示をしていけば結論が出る問題だったようです(特に297条4項)。その意味でショボい問題だと思いました。採点実感8頁によれば「少数株主が臨時株主総会を招集する場合には、少数株主は株主総会の招集等の手続(会社法第298条等)を行うことにより株主総会の運営にその意向を反映し得る」(①議事運営の主導権)そうですが、そんなこと事前にインプットできないです…。最低限③時期の選択を指摘できれば現場判断としては十分だったのではないでしょうか。これで30点か…という感想です。あくまでも「比較」の問題であることから、一方が他を排斥する関係にあるとするような再現答案は筋悪といえるかもしれません。むしろ、両立するという前提で、いずれの手続を採る方が、どのような場面で有利又は不利であるかを「比較」しながら具体的に論じることが問われていたのだと思います。このような「比較」の問題が再度問われた場合には、このような視点から分析することを意識できるとよいと思います。
 あとは、甲社定款13条の基準日制度の存在が気になった。基準日については、予備試験平成30年の株主保有要件の保有時点の問題を想起したこと、あからさまに使ってほしそうな定款が示されていたこと等から言及した。もっとも、平成30年6月の定時株主総会時点においては、いずれの方法によっても、基準日株主たる地位を有することに変わりないため、比較の視点として間違っていたと思います(平成30年3月31日以前に株主総会を開催したという要望があるのであれば、自ら招集した場合、同総会において基準日株主といえず、議決権を行使できないということは考え得るかもしれませんが)。採点実感9頁では、良好に該当する答案の例として「議長の選任方法の差異等にも言及し…」とあるため、このような形で定款を検討することができたのだと思います。
 
設問2
 多くの受験生がブルドックソース事件の規範を書くことができると思う。もっとも、その論証の過程で精度の差が出るから、規範レベルで少しは差がつくと思う。
 論点レベルでは、各類推の丁寧さ、差止事由を複数挙げたか等で差がつくと思う。不公正発行についてはあからさまに事実があるので、言及が必要だろう
(もっとも、防衛策の導入、発動の是非が株主総会の決議(ただし、勧告的決議)に委ねられているため、直ちには、主要目的ルールによって結論を導き出せないことには注意が必要です。なお、勧告的決議については、伊藤靖史ほか『Legal Quest会社法』139~140頁(有斐閣、第4版、2018年)を参照のこと。

 また、本日2021年3月24日に第5版が発売されました。司法試験との関係ではあまり関連性が弱いですが、令和元年改正がフォローされています。)。 あてはめレベルで一番差がつくと思う。規範との関係で、事実を適切に摘示及び評価できていれば、結構跳ねるのではないかと思う。
 50点配点で、みんながどの程度書いたかにも関わり、相対的には結果が読めない。他方、設問3にも時間を残すことがとても大切だと思った。

 本問は、相当性の当てはめ事情がブルドックソース事件と大きく異なっていたようです(⑻で乙社を非適格者とすること、⑽第1段落で非適格者の取得対価を1円とすることという不利益があります。他方、後者を緩和する手段として、甲社は⑽第2段落で乙社が買い増しを行わないことの確約をすれば解消できる仕組みがあるとします。もっとも、同仕組みの妥当性には問題があります。ここを厚く論じるべきでした。)。自分の答案は、ブルドックソース事件との相違を意識することができず、規範を書いただけで満足し事案の真相に迫れない典型的な良くない答案かもしれません。判例学習において、あてはめどのような事情が考慮されているのか、その事情をどのように評価しているのか等は事前に把握・ストックしておくことが必要だと思いました。

設問3
 423条1項は受験生ならば、時間的余裕がない場合を除き、みんな書けるところ。だからこそ途中答案をしたらかなり差がついてしまうと思う。
 また、経営判断原則
(これ自体不適切ですが、採点実感14頁の③)についても、多くの受験生が事前準備しているはずだから、ここで多くの事実を摘示及び評価できれば、跳ねると思う。同問の特殊性は、「本件決議1の効力を検討した上で」という留保(採点実感14頁の①)が付いていること。つまり、同決議の効力が423条1項の成否に影響する要素であるということだと思った。もっとも、決議の効力と423条1項の関連性を検討できていない方が多いと思うので、論述できただけでかなり跳ねると思う。取締役会権限留保事項を株主総会に移譲するような内容の定款は無効となる場合がある。定款が無効ならば、それを可決した決議が同取締役会権限留保事項を定めた法令に違反することになるため、決議無効確認(830条2項)(重判掲載判例最判H29.2.21(H29重判6事件)、同判例は、非公開会社についての事案でしたが、公開会社にも射程が及ぶ旨の解説がなされていたと思います。295条2項が取締役会設置会社における株主総会の権限を限定した趣旨に遡った検討ができればより良かったのかなと思います。)を想起した。本件では、株主総会に権限が併存する内容にとどまるという点も重要だと思う。ここは採点実感15頁のなお書きではありますが、「一定の評価を与えた」とされていました。特に商法に関しては、重判を潰すことはかなりのアドバンテージになると思っています。司法試験直前には、予備校各社が、重判の中でも特に司法試験に出題可能性があるものをピックアップしたものを提示してくれています。少なくともこれくらいは目を通した方がいいのではないかと思います。
 採点実感14頁の①については、おおむね上記のような考え方でよかったようです。ただ、295条2項(「定款に定めた事項に限り」)の趣旨に言及しながら、決議自体が有効であることを示す方がよかったです。条文摘示の大切さを感じさせられました。また、再現答案では、採点実感14頁の②に関して、任務懈怠を善管注意義務違反(330条、民法643条)で構成してしまっていますが、正しくは忠実義務違反(355条「株主総会の決議を遵守」)です。ここでも条文摘示の大切さを感じさせられました。なお、採点実感14頁の③に関して、忠実義務違反の有無が問題となっているため、経営判断原則の適用が問題となる典型的な場面ではないことになりますが、これを峻別して現場で書けた方なんているのでしょうか。経営判断原則で検討したことは、おそらく相対的に沈む原因とはならず、逆に峻別して検討できていれば跳ねるという感じなのではないかと思います。