答案のおとし所

(元)司法試験受験生の立場から、再現答案のアップしたり、日々の勉強での悩み、勉強法などについて書いていきます。

【再現答案】令和元年(平成31年)司法試験 労働法(集団的労働関係) 60

1 再現答案 2587文字

第1 設問1
1 機関
 ⑴ 労働委員会に対して、ビラ撤去が労働組合法(以下省略)7条1号及び3号に当たることを理由に、救済を「申立て」(27条1項)、ポストノーティス命令の発令を求める。
 ⑵ 裁判所に対して、ビラ撤去の無効確認及びこれを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)をする。
2 救済
 ⑴ 7条1号
  ア 撤去を行ったのは「使用者」(柱書)たるY社である。
  イ 「正当な行為」とは、主体・目的・態様の正当であることをいう。
    本件では、同ビラはⅩ組合員に状況報告をするためになされたものであり、同組員が行ったものと考えられ、主体は正当である。
    目的は、先立つ団体交渉にYが応じなかったことに対する状況報告としてなされたものである。同団体交渉は、X組合員Aの賞与査定という労働条件その他の待遇について、かつ使用者が処分可能である義務的団交事項であるから、Yはこれに応じる必要がある。そうすると、これに理由なく応じなかったことを、組合員に状況報告する必要があり、目的も正当である。
    態様について、使用者は施設管理権を有するため、利用拒否につき権利の濫用がない限り、正当性は否定される。たしかに、ビラの内容は「隠蔽」という強い文言を用いている。しかし、正当な理由なく団体交渉を拒否した事実を主たる内容としている。また掲示場所は本件労働協約に従っている。そのため、本件労働協約28条が禁止する「会社の信用を傷つけ」「職場規律を乱す」とはいえない。したがって、Yとしてはビラ掲示を認めるべきであり、利用拒否は不当な団体交渉を理由とする権利濫用に当たるため、態様の正当性はある。
    よって、「正当な行為」である。
  ウ これに対して、ビラ撤去という「不利益な取扱い」がなされた。
  エ 「故をもって」とは、反組合的意図をいう。
    本件では、先立つ団体交渉拒否の理由を述べることなく、前述の通り正当な活動に対してビラ撤去がなされており、反組合的意図が推認される。
  オ よって、7条1号に当たる。
 ⑵ 7条3号
  ア 「支配…介入」とは、組合弱体化措置をいう。
    本件では、上記正当な活動に対してビラ撤去が行われている。このような撤去行為はX組合の組織運営を害するものであるから、組合弱体化措置といえ、「支配…介入」に当たる。
  イ 1号と異なり、「故をもって」の文言がないが、帰責の根拠として必要であり、反組合的意思で足りる。
    本件では、ビラの内容やビラ撤去が特段の理由もなく行われたものであることからすると、反組合的意思が推認される。
  ウ よって、7条3号に当たる。
 ⑶ 不法行為
   X組合の団体権が「侵害」され無形的「損害」が生じているため、Y社は損害賠償責任を負う。
3 以上より、X組合の申立て及び請求は認められる。
第2 設問2
1 機関
 ⑴ 労働委員会に対して、チェックオフ中止が7条1号及び3号に当たることを理由に、救済を「申立て」、ポストノーティス命令及びチェックオフ継続命令の発令を求める。
 ⑵ 裁判所に対して、チェックオフ中止の違法確認及びこれを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求をする。
2 救済
 ⑴ 7条1号
  ア チェックオフ中止を行うのは「使用者」(柱書)たるY社である。
  イ 「正当な行為」とは、主体・目的・態様の正当であることをいう。
    本件では、既に団体交渉において合意に至らなかったものであるが、これは前述の通りY社が義務的団交事項について交渉に応じないという姿勢をとったためである。また、前述と同様に、先立つビラ掲示行為は主体・目的・態様において正当な行為である。
    したがって、「正当な行為」といえる。
  ウ これに対して、チェックオフ中止という「不利益な取扱い」がなされる。
  エ 「故をもって」とは、反組合的意図をいう。
    本件では、団体交渉拒否の理由を述べることなく、前述の通り正当な活動に対してチェックオフ中止がなされており、反組合的意図が推認される。
  オ よって、7条1号に当たる。
 ⑵ 7条3号
  ア 「支配…介入」とは、組合弱体化措置をいう。
    本件では、上記正当な活動に対してチェックオフ中止が行われる。たしかにチェックオフ中止は「期間の定めのない労働協約」の「解約」であり、15条3項に基づくものであり、適法とも思える。しかし、チェックオフ中止は組合員の便宜の中止を意味し、X組合の組織運営を害するものであるから、組合弱体化措置といえ、「支配…介入」に当たる。
  イ 1号と異なり、「故をもって」の文言がないが、帰責の根拠として必要であり、反組合的意思で足りる。
    本件では、チェックオフ中止が特段の理由もなく行われたものであることからすると、反組合的意思が推認される。
  ウ よって、7条3号に当たる。
 ⑶ チェックオフ継続命令についての救済命令の限界
  ア 救済命令は労働委員会の裁量に基づき発令されるものである。また、救済命令の趣旨は違法状態の除去、適正な労使関係の回復である。
    そのため、趣旨に反する救済命令は、裁量の逸脱濫用として違法であると解される。
  イ ここで、チェックオフ協定とは、組合員が所属組合との間に負う組合費納入義務を前提に、使用者と組合等との間に締結される取立委任契約である。使用者が労働者の賃金を一部控除するため労働基準法24条1項本文の適用を受け、同但書の「協定」として免罰的効力を有するものである。
    チェックオフ中止は、使用者と労働者との間の支払委任契約(民法643条)にかかわらず、チェックオフ協定を解約することにより、チェックオフによる労働者の便宜を中止することを意味する。そのため、違法状態の是正として、ポストノーティス命令の発令が適している。他方で、チェックオフ継続命令を発令した場合、一応適法に解約されたチェックオフ協定が存在であるにもかかわらず、本来使用者と組合等との間で締結されるはずの同協定が存在する状態を作出することになる。また、同協定が不存在の状況において、チェックオフをすることは免罰的効力に反するという労働基準法24条1項に反する状態といえる。
   したがって、チェックオフ継続命令の発令ついては、救済命令の趣旨に反し、裁量権の逸脱濫用として違法であるといえる。
 ⑶ 不法行為
   X組合の団体権が「侵害」され無形的「損害」が生じているため、Y社は損害賠償責任を負う。また、28条違反の行為として無効である。
3 以上より、X組合の申立て(ポストノーティス命令の限度)及び請求は認められる。
以上

2 分析 ※太文字は試験中の思考

設問1
 本件労働協約29条に基づくビラ撤去の適法性について、オリエンタルモーター事件最判平成7年9月8日)が想起された。同29条は、同28条を前提としているため、同28条の解釈の枠で論じることが必要だと思った。もっとも、かかる観点を、想起した前記判例と上手く関連付けて論じることができなかった(出題趣旨32頁によれば、同27条に基づき掲示板を利用し、同28条及び29条に基づいて撤去したというものであり、やはり労働協約の解釈・適用の問題でした。)。
 なお、ビラ掲示の正当性を検討するか、ビラ撤去の適法性を検討するかについては、内容的に重なるところが多いため、どちらでも良いと思った(前述のとおり、労働協約の撤去要件の検討をすることが求められていたのであり、組合活動の正当性として論じたり、施設管理権の問題として論じたりすることは求められていませんでした。この辺は論じ方が結構悩ましいですね。)
 労組法7条1号と3号は同時に問題となることが多く、併記するように努めた。たしかに、1号と3号が同時に問題となり得るという視点自体は誤りではありませんが、ビラ撤去が問題となっている本問のような事例では1号は問題となりません。1号を検討するのは典型的には懲戒処分や人事権の行使が行われた場合であるといえるでしょう。出題趣旨32頁では、本問では、3号のみが問題となることが明確にされています。
 本件労働協約28条及び29条の解釈に当たって、本件労働協約51条を考慮することが必要となります。これは、同条が委員会自体を「非公開」とし、「委員会の委員及び関係者…は、苦情処理に関して知り得た秘密を漏らしてはならない」としていること、問題文においてX組合が「苦情処理委員会におけるY社の主張を紹介した上で」自己の主張を記載していること(なお、Aの主張は記載していないよう)等の誘導からすれば、このように考えるのが自然であると思います。かかる観点を検討できていない再現答案は、事案の特殊性を論じることができずに失点していると思われます。上司のセクハラ行為やY社の隠匿行為についての記載は、本件労働協約51条に違反するものですし、事実確認が不十分の中で行う表現としては真実性についても明確な根拠に基づくものとは言い難いでしょう。他方で、賞与の変動部分をゼロと査定した行為についての記載は、上司のヒアリングのみしか行われていない状況においては、不当と表現することにも一応の理由があるといえるでしょう。さらに言えば、後者については、義務的団交事項に当たるわけですから、当事者間で合意した苦情処理委員会で団交を行うことになっているわけですから、同委員会で誠実な交渉を行わなければならないとこと、上司のヒアリングのみを行い、十分な説明を来なっていないなど団交拒否と評価し得る態様です。そうすると、比較の視点からしても、前者と後者で結論を分けるという評価もありでしょう。ただし、この場合には、結局のところビラ撤去が全体として撤去要件を充たしているといえるのか否かを判断し、また全体として支配介入に当たるといえるのか否かを結論付ける必要があるでしょう。

設問2
 問題文で「Y社が、…実際にチェックオフを中止した場合」についての救済が問われているから、X労働組合としては、チェックオフによって労働者が得る便宜が減縮されたとして、これを争っているものと思われる。そのため、チェックオフ中止の適法性(90日前予告解約(労組法15条3項4項)→支配介入該当性(肯定)という流れについては、採点実感33頁では前者の有効性と後者の該当性を直結させて理解する誤りが指摘されており、これを峻別できただけで「高く評価」されたようです。ラッキー。支配介入は適法な行為についても成立し得るということを頭に入れておきましょう!ただし、再現答案では、解約について労組法15条3項は指摘している一方で、90日の予告に関する同条4項の指摘をできていないので、条文は引用漏れがないように注意しましょう。)→救済命令の限界(違法であることを前提として再びチェックオフ協定を締結している状態に回復させる内容の救済を求めることができるか)の順で論じようと思った。後者については、ネスレ日本事件(平成7年2月23日)が想起された(ここは採点実感34頁によれば「加点」されたようです。)。設問1と同様不当労働行為該当性が問題となることは間違いないが、メインは救済命令の濫用の有無だと思った(救済命令の濫用の有無がメインだったというのは少し疑問です。設問2の支配介入該当性について、設問1のビラ撤去までの経緯等とリンクする部分があるので、そういう意味では設問1がメインだったという言い方もできるのかもしれません。)
 まず、設問1に引き続き、設問2においても、1号該当性を検討してしまっている点で印象が良くありません。3号該当性の検討だけで足りました。こういう所で余計なこと記述してしまうと、印象が悪いというだけでなく、(仮に無益的記載事項として不利に捉えられないとしても)時間と紙面の無駄遣いとなり論じるべき点が相対的に薄くなってしまいますので注意しましょう。
 本問は、支配介入該当性の枠の中で労働者の情状や使用者落ち度を考慮する問題であったようです。Y社のチェックオフ中止行為を行った理由、経緯や手続、結果の不利益性等を考慮して論じることが重要だったといえるでしょう。確かにこのように考えないと、問題文中の事情を使いきれないかもしれません。
 最後に、司法試験では採点実感で誤りと指摘されたことが翌年~数年後に再度問われるということがざらにあります。特にそれが基本的な事項であればよりその傾向は顕著であると思われます。採点実感33頁では「余後効」について同様の指摘がされています。同論点については、答練でもよく出るところではありますが、これを機にしっかり復習しておいた方が良いと思います。なお、平成24年司法試験採点実感で誤って「ロックアウト」と書いた答案があったと苦言が呈されていたのですが、翌平成25年司法試験で出題されているんですよね。