答案のおとし所

(元)司法試験受験生の立場から、再現答案のアップしたり、日々の勉強での悩み、勉強法などについて書いていきます。

仮処分(平成21年・25年司法試験 商法)

(2019.08.01)

1 Twitterアンケート(2019.08.01)

2 結論

1つ目の書き方
 訴訟の流れや論理を重視するものです。
 差止めをしたいと思ったら、まず実効性を確保するために仮処分申立てをし、仮処分申立ての枠の中で被保全権利を主張する。

2つ目の書き方
 会社法の試験において実体法を重視するものです。
 保全については、過去問に配慮して、なお書き程度には記載する。
 ちなみに、(【再現答案】令和元年司法試験 商法では明確に現れていませんが)自分は不正確ながらも会社法の答案としては2つ目の書き方で足りるだろうと考えていました。

3つ目
 下記の分析からすると、書くことは少なくとも期待されており、書かないという選択肢はないと思います。合否を左右する知識でないことは確かですが、コスパがいいです(少なくとも、予備校模試等では配点があることが多いです)。

【追記】
 民事保全には、仮差押え、係争物に関する仮処分、仮の地位を定める仮処分の3種類があります。
 仮差押えは、本案の権利である金銭債権の実現(強制執行)を保全するため、債権者の財産につきその処分を制限する措置を講ずる処分です。
 係争物に関する仮処分は、本案の権利である(係争)物の引渡・明渡請求権等の実現(強制執行)を保全するため、その(係争)物の現状を維持する措置を講ずる処分です。
仮の地位を定める仮処分は、強制執行保全とは関係なく、本案の権利関係につき判決の確定まで仮の状態を定める措置を講ずる処分です。

 会社法で出てくる民事保全は、仮の地位に関する仮処分です。
 講学上、民事保全が認められるための要件は、被保全権利と保全の必要性の存在です。
 仮の地位に関する仮処分について、適切に条文摘示すると、「保全すべき…権利関係」(民事保全法13条1項)と「保全の必要性」(同条同項)です。
 「権利関係」(同条同項)とは、「争いがある権利関係」(23条2項)のことです。
 (アンケート段階で、自分も間違っていますね…)

 なお、仮差押え及び係争物に関する仮処分について、適切に条文摘示すると、「保全すべき権利」(民事保全13条1項)と「保全の必要性」(同条同項)です。
 「保全すべき権利」(同条同項)とは、被保全権利をいいます(20条1項、23条1項)。

 以上からすると、出題出題及び採点実感で指摘されている被保全権利とは、「保全すべき…権利関係」(民事保全13条1項)を含む講学上の表現であると考えられます。
そのため、司法試験委員会としては、民事保全法の条文摘示まで厳密に求めていないといえるかもしれません。
 というよりも、裁判例もこの辺を特に意識しておらず、区別する実益が乏しいので、ここにこだわるのは答案政策上得策でないと考えます。つまり、敢えて「」(条文文言)は引かず、条文(23条2項、13条1項)摘示にとどめ、講学上の被保全権利と保全の必要性を検討するのがベターであると考えます。

福永有利『民事執行法民事保全法』258~266頁(有斐閣、2版)

司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全 (補正版)』2~5、78頁(日本弁護士会連合会)

3 分析

 司法試験の商法で仮処分についての言及がなされたのは、平成21年と平成25年です。

 平成21年設問4では、合併契約の締結やその承認を目的とする株主総会の招集の差止め(360条1項)についての仮処分(❶)です。

 平成21年設問6では、合併契約の承認決議の取消訴訟(831条1項1号及び3号)若しくは合併契約の承認決議の無効確認訴訟(830条2項)(平成26年改正前)についての仮処分又は合併の差止め(784条の2第1号)(平成26年改正後)ついての仮処分(全て合わせて❷)です。

 平成H25年設問3では、募集株式の発行の差止め(210条2号)についての仮処分(❸)です。

 ❷は「会社法に基づき、どのような手段を採ることができるか…。」という問題文です。
 同年出題趣旨5頁において、初めて「仮処分」命令の申立てについての言及がなされます。
 同年採点実感14頁において、「仮処分」命令の申立ての検討を論じることが「期待された」とあります。続けて、「しかし、…このような期待される論点に入らない答案が多かった。」とあります。
 つまり、平成21年時点では、保全についての知識不足や問題文に会社法という限定があったこと等が相俟って、書けなかった人が多かったのだと思います。

 ❸は「会社法に基づき採ることができる手段…について、論じなさい。」という問題文です。
 同出題趣旨6頁において、「仮処分」についての言及がなされます。そして、ここでは「言及すべきである。」という少し強い表現に変わっています。
 同年採点実感17頁において、「仮処分…について言及した答案も少なかった。」とあります。こちらの表現からは、平成25年時点において、どの程度言及する人が増えたのかは不明です。

 他方で、仮処分についての言及がなされていないのが、❶です。
 ❶は「どのような会社法上の手段を採ることができるか。理由を付して説明しなさい。」という問題文です。
 ❷❸と比較すると、こちらでも仮処分への言及が期待されたとしていてもおかしくないのですが、出題趣旨及び採点実感のいずれにも言及がありません。この意味も不明です(なお、「新司法試験の問題と解説2009」別冊法学セミナー200号[弥永真生]81頁には、仮処分についての言及があります)。

 そして、令和元年設問2において、新株予約権無償割当ての差止めが問われました。
 「乙社は、…本件新株予約権無償割当ての差止めを請求することを検討している。乙社が採ることのできる会社法上で、論じなさい。」という問題文です。
 現時点では、出題趣旨及び採点実感が発表されていないのでわかりませんが、❷❸に照らせば、仮処分への言及がなされるのではないかと考えます。
 【追記】なお、同年出題趣旨及び採点実感には仮処分の言及がありませんでした…。これまた意味が不明です。