答案のおとし所

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同種前科による犯人性立証(平成28年予備試験 刑事訴訟法設問2)

(2019.07.08)

1 結論

 前科証拠の証拠能力が肯定されるためには、自然的関連性に加えて、法律的関連性(実証的証拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定がされるおそれがないこと)が必要です(H24.9.7)。
 これは不確かな推認(前科→犯罪傾向→起訴事実についても当該犯罪傾向に基づく)を回避するためです。
 そのため、不確かな推認を経なければ、法律的関連性が認められます。
 具体的には、①犯罪傾向の推認を経ない別の推認をするパターン(「特殊な犯行方法・態様等の共通性に着目し、そこから被告人が被告事件の犯人であることを推認させようとする推認過程」)、②犯罪傾向の推認は経るものの当該推認過程に実質的根拠があるパターン(「被告人に前科があるという事実から、被告人が犯罪を犯すような悪性格をもっていることを立証し、こうした悪性格の立証を介して、被告人が被告事件の犯人であることを推認させようとする推認過程」)です(平成19年司法試験刑事訴訟法の出題趣旨)。もっとも、②は現在の科学水準では想定し難く、①パターン(前科にかかる犯罪事実に顕著な特徴+起訴事実と相当程度の類似性)がメインです。
 ①パターンは、❶犯行に用いられた物・手口・態様等の特殊性、❷日時・場所等の特殊性、❸前科の犯罪事実やそれに密接する事実の特殊性の事情を使って、特に顕著な事実の有無のあてはめを行うことになります。
被告人以外の犯行可能性を否定できるかという観点から、❶では物(道具・材料)の希少性・入手困難性や手口・態様(手段)の専門性が重要となると思います。

 なお、③類似事実の犯人が起訴事実の被告人であることを前提としない間接事実の推認をするパターン(岩崎邦夫「判解」平成24年度337頁)にも、法理的関連性が認められる。
また、H24.9.7の射程外として、④被告人と犯人の同一性以外の証明に用いるパターン(S41.11.22、主観的要素の推認等)にも、法律的関連性が認められる。

 ①パターンと③パターンは、事前に推認過程を確認しておくと本番で出題されても混乱しなくなると思いました。

2 検討

 平成28年予備試験 刑事訴訟法設問2 ①パターン
 甲は本件被疑事実(住居侵入、窃盗、放火)で起訴されており、これについてすべて否認している。そのため、各犯罪との関係で犯人性が争点となっている。
 「証拠」(317条)→証拠能力→法律的関連性→
 規範:「前科にかかる犯罪事実に顕著な特徴」+「起訴事実と相当程度の類似性」
 あてはめ:本件前科(放火)で用いられたウイスキー瓶及びガソリンは、誰もが量販店で購入することができ入手が容易である。また、ガソリンの使用については、その揮発性の高さは一般人をして周知のとおりであり放火に用いることは想定しやすく、手製で火炎瓶を作成することも、インターネットを駆使して情報を集めれば誰においても容易である(❶)。さらに、両犯行には約7年間の隔たりがあり、日時場所との規則性や犯行後の行動等に特異な点は認められない(❷❸)。
 (本件前科(住居侵入、窃盗)で用いられた道具等は不明であるが、特異な道具等が用いられていないものと考えられれる。また、住居内の美術品の彫刻1点を盗むという態様は社会的事象としてままあり得ることである。)
 結論:したがって、被告人以外の者が犯行を行ったことを否定する程に「前科にかかる犯罪事実に顕著な特徴」を有するとはいえない。  
 ※仮に「前科にかかる犯罪事実に顕著な特徴」があるとすると、本件前科を有する甲(H県K市に単身住居)→同様の(住居侵入、窃盗及び)放火を行う犯罪傾向を有する→隣のJ市V方で起きた本件被疑事実にかかる(住居侵入、窃盗及び)放火についても同犯罪傾向に基づく甲が行ったはずだという不確かな推認過程を経るになってしまいます。②パターン。