答案のおとし所

(元)司法試験受験生の立場から、再現答案のアップしたり、日々の勉強での悩み、勉強法などについて書いていきます。

横領後の横領(平成24年司法試験 刑法)

(2019.07.04)

1 結論

  同論点については、よくある論パ(高裁ベース)で処理する方がほとんどかと思います。
先行行為が抵当権設定、後行行為が売買契約というのが典型例で、先行行為では所有権侵害が(比喩的に)半分であり、後行行為によって全部侵害されるため、別個の法益侵害があるという理論です。

 自分は答案に書く際には以下の理由から最高裁ベースで論じるようにしていました。
 第1に、個人的には条文文言と離れた抽象論を展開したくないと思っています(高裁の理論でも法益侵害について言及することになるので、条文に引きつけて論じることは可能だと思いますが。)。
 第2に、いずれも売買契約であった場合には説明ができますか?という点です。
 第3に、高裁の理論が、最高裁によって変更されていることです。また、高裁の理論も、横領後の横領を肯定するという点で、後行行為時点において、対象物が「自己の占有する」「他人の物」に該当することは前提となっています。そうであれば、最高裁ベースの方がスマートだと思います。

2 分析

 最高裁ベース
 ・・・先行行為に横領罪が成立する。
 先行行為に既に横領罪が成立しており、保護法益が侵害されている以上、対象物は「自己の占有する」「他人の物」(252条1項)とはいえず、不可罰的事後行為として後行行為には横領罪は成立しないのではないか。
 同条の保護法益は、所有権(「他人の物」に対応)及び委託信任関係(「自己の占有する」に対応)である。
 先行行為に横領罪が成立しても、未だ所有権は委託者の下にあり、依然として委託信任関係も継続している。そのため、対象物について先行行為に横領罪が成立しても、「自己の占有する」「他人の物」であるといえる。
 では、後行行為は「横領」といえるか・・・(省略)。

 なお、この場合には、罪数処理を忘れないことが重要です。先行行為に成立した横領罪と後行行為に成立した横領罪は、いずれも犯罪として成立し得る(共罰的事後行為である)ものの、保護法益の共通性に照らして包括一罪の関係にあるからです。

3 おまけ

 刑法に限ったことではありませんが、答案を書くべき適切な順番というものがあります(すごく簡単なところだと、民法の解除の要件(541条、542条1項2項)→解除の意思表示(540条1項))。

 業務上横領罪(253条)について、自分は以下のような順序で答案を書いていました。
 「業務」とは、社会生活上の地位に基づき反復継続して行われる事務であって、委託を受けて物を占有保管する事務をいうところ、甲は~契約によって~の委託を受けて、~の地位に基づき反復継続しているためかかる事務は「業務」にあたる。
 「自己の占有する」とは、法律上の占有を含むところ、上記委託によって、~できる(権利がある)ため、対象物は、「自己の占有する」「他人の物」にあたる。
 「横領」とは・・・(省略)。
 「業務」で地位を指摘し、「自己の占有する」で前述の地位に基づく権限を指摘します。


 文書偽造罪の有印私文書偽造罪(159条1項)及び同行使罪(161条1項)について、自分は以下のような順序で答案を書いていました。
 いかなる「文書」か→「偽造」→「印章」又は「署名」→「行使の目的」→「行使」
 「偽造」の対象となる「文書」がいかなる種類の文書か特定し、「偽造」行為を認定し、有印か否かを指摘し、主観的構成要件たる「行使の目的」を認定します。その後、「行使」も認定します。