答案のおとし所

(元)司法試験受験生の立場から、再現答案のアップしたり、日々の勉強での悩み、勉強法などについて書いていきます。

間接正犯(平成25年司法試験 刑法)

(2019.07.04)

1 Twitterアンケート(2019.4.25)

 間接正犯の法律構成としては、①実行行為性アプローチ、②正犯性アプローチが存在し、多くの方が①実行行為アプローチを採用していると思います。



2 結論

 もっとも、結論として、自分は両アプローチは使い分けができると考えています。そして、下記の考え方1だけでなく、考え方2(②正犯性アプローチを含む)をもストックすると良いのではないでしょうか。

3 分析

 ①実行行為性アプローチ
 正犯処罰根拠を、結果発生の現実的危険性が同等であることと捉える。
 上記危険性があるといえるためには、❶一方的利用支配関係が必要となる。
 故意の内容として、❷利用意思も必要となる。
なお、直接正犯と同等の実行行為性をメルクマールとする危険性説は、正犯(間接正犯)と共犯(教唆犯)との区別が困難になるため採用しません。

 ②正犯性アプローチ
 正犯処罰根拠を、正犯性を有することと捉える。
 正犯性があるといえるためには、❶客観的要件として、他人の行為を一方的に利用して結果の実現過程を支配したこと(重要な寄与=利用者と被利用者の関係・利用行為の態様・被利用者の状況)、❷主観的要件として、他人の行為を一方的に利用して自己の犯罪を実現しようとする意思(正犯意思)が必要となる。
 
 なお、❶のあてはめは、両アプローチでほとんど同じになり、下線部が重要な考慮要素となります。
 ❶被利用者の関係:親子関係等被利用者が利用者の指示・命令を拒否し難い事実上の関係
 ❶利用行為の態:働きかけの程度、被利用者を畏怖・困惑させその意思を抑圧するような強制や暴力等の有無・程度、犯行時に利用者が監視していたか否か
 ❶被利用者の状況:年齢や心神の発達状況、規範的意識の有無・程度、畏怖・困惑・意思抑圧の有無・程度、被利用者の行為についての自律的決定の有無、機械的な動作か複雑な行動か等被利用者が行った犯罪行為の内容や重大性


 以上を踏まえ、答案戦略的に考えて、どのように両アプローチを使い分ければいいのかを考えていきます。

 考え方1:(割り切って)全て②実行行為性アプローチ
❶一方的利用支配関係については、考慮要素が両アプローチでほとんど同じなので、特に問題ありません。
 もっとも、故意の内容として❷利用意思が必要であることを認定しただけでは、❷自己の犯罪として利用したという正犯類型の考慮要素を拾って認定・表現すること(教唆犯との峻別)が難しいように思います(❷のあてはめは、両アプローチで異なるためです。)。事実を拾えないという点で悩ましいです。

 考え方2:原則①正犯性アプローチ(例外②実行行為性アプローチ)
 間接正犯の事例は、途中知情事例とそれ以外の事例に大きく分かれます。
 答案(特に共犯)は実行行為者から検討していくことがセオリーですので、途中知情事例では被利用者の直接正犯の検討から始めます。
 他方、それ以外の事例は、利用者の犯罪を検討します。こちらの事例では、被利用者の行為に犯罪が成立する場合と、被利用者の行為に犯罪が成立し得ない場合とがあり、適するアプローチが異なると考えます。前者では、まさに原則正犯性アプローチが適しています。しかし、後者では、共犯として関与すべき被利用者の行為に犯罪が成立し得ない以上、利用者の関与に犯罪を成立させることが困難です。そこで、例外的に実行行為性アプローチを採用して、利用者の利用行為が特定犯罪の実行行為性を有するかを検討します。

4 検討

 以上を踏まえ、原則①正犯性アプローチ(例外②実行行為性アプローチ)の適用を見ていきます。

 途中知情事例において、原則正犯性アプローチ(例外実行行為性アプローチ)を採用したとき、正犯性アプローチに従うと、道具性を欠くため❶が不充足になります(ここで注意したいのは、間接正犯が成立しないことから直ちに間接正犯と教唆犯の抽象的事実の錯誤の検討に入らないということです。)。
 次に、利用者の関与について「実行の着手」(43条本文)があれば、間接正犯の未遂罪が成立します。間接正犯の「実行の着手」については、利用者標準説と被利用者標準説の対立があり、前者では未遂罪の間接正犯が、後者では被利用者が途中知情した以上未遂罪の間接正犯は成立し得ず、予備罪(単独犯)が成立し得るにとどまります。
 最後に、教唆犯が成立することを認定した後、間接正犯と教唆犯の抽象的事実の錯誤を検討することになります。通常、保護法益と行為態様に照らして、教唆犯の限度で故意が認められることになるかと思います。なお、厳密には、教唆犯の検討の前に、共謀共同正犯をすることになります。しかし、片面的共同正犯を認めない限り、共謀共同正犯は成立し得ません。

 既遂罪の間接正犯:不成立
 未遂罪の間接正犯:不成立
 予備罪:成立
 共謀共同正犯:不成立
 教唆犯:成立

 そして、予備罪は、教唆犯に吸収される結果、教唆犯の罪責を負うことになります。
 以上の通り、論点は多岐に渡るため、はあくまでもメインである既遂罪の間接正犯及び教唆犯を厚く論じ、それ以外はコンパクトに処理する必要があります。


 法学セミナー 大塚裕史 第22講 間接正犯と共同正犯・教唆犯 2017.07 750号 86-95頁