答案のおとし所

(元)司法試験受験生の立場から、再現答案のアップしたり、日々の勉強での悩み、勉強法などについて書いていきます。

令和元年(平成31年)公認会計士試験論文式 企業法

(2019.08.28)

1 経緯

 縁あって公認会計士試験(企業法)を解く機会をいただきました。
 司法試験の知識を前提にして解くとどのようになるのか検討していきます。
 なお、司法試験合格資格があると、短答式及び論文式の一部(企業法、民法)が免除されます。また、どの程度被るかわかりませんが、司法試験で租税法を選択していると、公認会計士試験論文式租税法を有利に進めることができるかもしれません。

2 検討

 まず、形式面では、答案用紙を見る限り、第1問設問1:同設問2=第2問設問2:同設問1=2:1の配点であると伺えますので、分量に注意します。あとは、設問の問いにしっかり答えることを心がけます。

 次に、内容面についてです。
第1問
設問1

・本件「契約の効力」が問われていますが、第三者の主観面まで問題文に記載されているので、一応主張の可否まで論じる必要があるかもしれません。
・効力としては、⑴純資産額の5%とあるので「重要な財産の処分」該当性(会社法362条4項1号)、⑵Aが乙社の全株式を保有しているので利益相反取引該当性(365条、356条1項2号又は3号)が問題となり得ます。これらが肯定されれば取締役会決議を経なかった点に法令違反があります。
・⑴は、最判H6.1.20に照らして、肯定できます。
・⑵は、名義説を前提とすると、「株式会社」甲と、(「取締役」Aではなく)「取締役」でないBと本件契約という「取引」をしたにすぎないので、直接取引(2号)にあたりません。そして、Aが乙社の全株式を保有しているため、間接取引(3号)にあたります。
・相対的無効説について、⑴なら原則有効(最判S40.9.22)、⑵なら原則無効(S46.10.13)です。もっとも、甲社の主張の可否についてまで書くとすれば、本問では乙社の取引相手方第三者は、取締役会の承認を欠くことにつき善意なので、主張は認められません。


・423条1項を検討します。
・①⑴⑵に該当すれば、取締役会決議を経なかった点に法令違反があります。
・①⑵で利益相反行為に該当すれば、423条3項の任務懈怠推定規定が適用できます。
・損害は時価と売却価格の差額です。
・因果関係、過失は問題ないです。
・結論として、Aは責任を負います。

設問2
・報酬請求(差額の270万円)は役員としての委任契約(会社法330条、民法644条)に基づきます。
株主総会決議で最高限度額の定め、具体的報酬額を取締役会へ委任することは認められます(最判S60.3.26)。
・具体的報酬額が定められたら、会社と役員の契約内容となり、役員が同意しない限り会社が一方的に減額できません(最判H4.12.18)。
・もっとも、黙示の同意があるなら減額できます。問題文なお書き「各取締役の役職に応じて支給額を定めることが慣行」という事情があるので、慣行を了知して就任したのであれば黙示の同意があったと評価できると思います。
・黙示の同意があれば、結論として、Aの請求は認められません。なお、30万円が請求できることに争いはありません。

第2問
設問1
・前提として、丁社は本件株式交換契約について株主総会特別決議を必要なのが原則です(795条1項、309条2項12号)。
・例外は、796条1項及び2項です。
・もっとも、いずれの例外要件についてもあてはめる事情がありません(特別支配会社(468条1項参照)であると認定するための株式保有の事情や純資産額の事情)。そのため、条文摘示で終え、次に進むのが無難だと思います。

設問2
・会計帳簿閲覧請求(433条1項)に基づきます。株式保有、営業時間内、理由明示は問題ありません。
・拒絶事由(同2項各号)のメインは3号です。請求者戊社と丙社ではなく、戊社の完全親会社と丙社に「実質的」「競業関係」があることが前提とされています。問題は、「請求者」戊社が実質的競業関係にある「事業を営」んでいるか否かです。問題文では、「戊社の完全親会社は…戊社と一体的に事業を営んでいる」とあるので、「請求者」戊社に丙社との実質的競業関係を肯定できます。
・戊社は、「本件株式交換契約に関する株主総会決議での賛否の判断材料とするため」に請求しているので、「権利の…行使に関する調査以外の目的で請求を行った」(1号)といえません。なお、理由明示でここの事情を使えば、検討しなくてよいかもしれません。
・2号、3号、5号については、該当する事情がないため、検討しなくてよいと思います。

3 備考

・記載時点は、出題趣旨が発表される前です。
・第1問設問1①⑴は平成20年司法試験商法第2問設問1が、同⑵は平成24年司法試験商法設問2小問⑵が参考になります。
・第1問設問2は平成28年司法試験商法設問1⑵が参考になります。
・第2問設問2は平成30年司法試験商法設問1が参考になります。