答案のおとし所

(元)司法試験受験生の立場から、再現答案のアップしたり、日々の勉強での悩み、勉強法などについて書いていきます。

物権法の処理手順+結論の妥当性(平成23年予備試験 民法)

(2020.04.13)

1 はじめに

 同問については、解説が乱立しているという印象を抱いていたので、自分なりに検討を加えてみようと思いました。

2 分析(物権法の処理手順)

解説①
受験新報編集部『司法試験予備試験論文3か年問題と解説平成23〜25年度1(憲法行政法民法・商法・民事訴訟法)』西口竜司「民法」(法学書院、2019)

 解説①は、以下のような流れで論じています。
 甲土地の所有権移転過程がABDをたどるとすると(B元所有、売買契約によりD取得を前提とする請求原因だと)、甲土地につきB所有を認めることになり、同土地上に建築された乙建物を取得しその登記を具備しているため、BC間賃貸借契約が対抗されてしまうとも思える(借地借家法10条1項)。
  ↓
 しかし、BがAを相続することによって、 BはCとの関係で賃貸借契約を追認拒絶できなくなる(116条本文類推適用)。もっとも、これによってDを害することはできない(116条但書類推適用)。
  ↓
 したがって、Dが優先する。


解説②
受験新報編集部『予備試験論文式問題と解説平成23年度』中村晃基?「民法」(法学書院、2011)

 解説②は、以下のような流れで論じています。
甲土地の所有権移転過程はADをたどるため(法定承継取得説)、無権利者BとCの間は他人物賃貸契約ということになり、CはDに対して対抗することができない。
  ↓
 したがって、Dが優先する。


 解説①(116条但書類推適用部分を除く)のように所有権移転過程がABDをたどる(順次取得説)と考えてしまうと、甲土地につきB所有を認めることになり、DはBC間賃貸借契約が対抗されてしまいます。
 そこで、解説②では、訴訟戦略的に法定承継取得説を採るべきというニュアンスであるように感じます。


 では、解説①②のいずれが適切なのでしょうか?
 結論から言うと、(少なくとも記載自体からすると)いずれも物権法の原則的な処理手順に従っておらず、適切ではないと思うのです。
 平成29年司法試験の採点実感6頁⑷によれば、物権法の原則的な処理手順は【物権変動】→【対抗】の順とされています。
 そうすると、以下のような説明が可能になるのではないかと考えます。

 まず、AB間甲土地売買契約(555条)は税金の滞納による差押えを免れるために仮装されたものでありABが「通じて」行った「虚偽」の意思表示であるから無効である(94条1項)。そのため、Bは甲土地所有権を取得せず(176条)、BD間甲土地売買契約は他人物売買(560条)といえる。もっとも、Dは前記仮装を知らず、それを知らないことについても過失もなかったため、「第三者」として保護される(94条2項)(BD間甲土地売買契約という【物権変動】としての所有権移転過程はADをたどる(法定承継取得説、判例))。これによって、Dが甲土地所有権を取得する(176条)。
  ↓
 次に、他方で甲土地につき無権利者であるBとCとの間の甲土地他人物賃貸借契約(559条、601条、560条)であるものの、A死亡B相続による【物権変動】(882条、887条1項、896条本文)の結果としてBは本人の地位と併存する他人物賃貸人の地位により追認拒絶(116条本文類推適用)をすることは信義則上(1条2項)許されず、遡及的に他人物賃貸借契約ではなくなる(=Dの甲土地所有権取得に先立ち借地借家法10条1項の【対抗】要件を具備したCが優先する)。
  ↓
 もっとも、116条但書類推適用で妥当性を図るべき(=Bの追認拒絶は「第三者」Dを害するため、Dに対してはその効果を主張できず、結果としてDが優先する)。

3 分析(結論の妥当性)

解説③
辰巳法律研究所『Newえんしゅう本(3)民法』(辰巳法律研究所、2019)

 解説③は、法定承継取得説、116条本文類推適用の順で論じていますが、同但書までは検討していません。

 結論の妥当性については、平成24年・28年司法試験の出題趣旨及び採点実感に書かれています。
 しかも、同年の設問2小問⑶は、結論の妥当性から、一定の結論になることを前提として、当該結論を導く法律論の組立てを問うています。

 以上からすると、相続という偶然の事情により、Cが利益を得る(116条本文類推適用)反面、Dに不利益が生じる(先に甲土地所有権を取得したDが負ける)ことは不当であるという方向性で評価することが可能だと思います。


解説④
菅野邑斗『読み解く合格思考 民法 予備試験・司法試験短期合格者本』(辰巳法律研究所、2015)

 他方で、解説④は、更に緻密な分析を加えています。

 解説④では、94条2項の【物権変動】による所有権移転過程につき法定承継取得説を採用することを前提とすると、BがAを相続した時点においてAは甲土地所有権を有しておらず、Bも甲土地所有権を相続し得ないのではないかとの疑問が呈されています。すなわち、相続が生じたとしてもBにBC間甲土地他人物賃貸借契約の追認権がない(=追認拒絶の論点が出てこない)のではないかということです。
 また、仮にBがBC間他人物賃貸借契約を追認拒絶し得ないとしても、他人物売買契約において他人物売主が目的物の所有権を取得したときに他人物買主に所有権が移転すること(176条)とパラレルに考えると、相続時(平成21年12月16日)に初めてCが対抗要件を具備したといえます(=甲土地他人物賃貸人Bが平成21年12月16日に相続により甲土地の所有権及び追認権を取得し、Bの追認拒絶が信義則上許されないとしても、Cが甲土地賃借権を取得したのは同日であり、借地借家法による対抗要件を具備したのも同日である)。これはDがBとの間で甲土地売買契約により所有権を取得した時点(平成21年10月9日)に遅れます。そのため、Cは同賃借権をもって占有権原を主張することができないといえます。

 ここでも、やはりDに不利益が生じる(先に甲土地所有権を取得したDが負ける)ことは不当であるという方向性が示されており、結論の妥当性が意識されていると考えられます。