答案のおとし所

(元)司法試験受験生の立場から、再現答案のアップしたり、日々の勉強での悩み、勉強法などについて書いていきます。

【再現答案】令和元年(平成31年)司法試験 労働法(個別的労働関係) 60

1 再現答案 2207文字

第1 設問1
 1 請求や主張の仕方
  Xは、Y社に対して、本件解雇の無効確認、解雇以降の賃金支払請求(民法536条2項前段)、解雇予告手当支払請求(労働基準法(以下労基法)20条1項本文、Y社就業規則(以下就規)33条本文)及び不法行為に基づく損害賠償請求(同709条)を求める。
 2 本件解雇の有効性
  ⑴ 労働契約法(以下労契法)16条
   ア まず、Xは就規32条2号、4号及び7号を理由に普通解雇されているところ、同就規は労働契約を継続することができない著しい事由を定める「合理的」なものであり、かつ就業規則いう形で実質的に「周知」されているため、XY間労働契約の契約内容となる。
   イ 次に、「客観的に合理的な事由」(労契法16条)とは、解雇事由該当性をいう。
    ㋐就規32条2号「能力不足又は勤務不良が不良で改善の見込みがない」とは、契約締結時に予定されていた能力について、事後に著しい欠如があるか、改善策が講じられたか、改善の見込みがあるか等を総合して判断する。
    本件では、Xは、Y社の接客係として中途採用された者である。そのため、即戦力としてある程度高度な能力を要求されていたものといえる。そして、Pによれば、成績評価としては要改善状態にあり、能力について事後に著しい欠如があるとされている。しかし、Pは勤務改善の誓い文書にサインを求めることでXの能力欠如改善を図ろうとしているが、一方的要求であり具体的にXP間の軋轢を取り払い適切な改善策を講じたとは言い難い。さらに、前記Xの実績を見ても適切な改善策が講じられれば改善の見込みがあるといえる。
    したがって、「能力不足又は勤務不良が不良で改善の見込みがない」とはいえない。
    ㋑また、XはPとの間で関係性が悪化しているにすぎず、また些細なミスやクレームを受けたにすぎないため、「協調性又は責任感を欠き、従業員として不適格」(就規32条4号)であるとはいえない。
    ㋒さらに、Xの前記実績からして、「その他前各号に準ずるやむを得ない事由がある」ともいえない。
    よって、解雇事由該当性は存在せず、本件解雇に「客観的に合理的な事由」があるとはいえない。
   ウ 仮に「客観的に合理的な事由」があるとして、「社会通念上相当」といえるか。
    本件では、P着任以前は店長や本部のマネージャーになることを期待される勤務実績を有し、Xの認識としても他の同僚と同等以上の仕事をしているのであるから、能力について事後に著しい欠如があったとは言い難い。また、Pによる勤務改善の誓い文書にサインを求めることは、スタッフミーティングの際全員の前で呼び出したものであり、使用者側の処遇とし適正さを欠いている。
    したがって、「社会通念上正当」とはいえない。
   エ よって、労契法16条により、本件解雇は違法といえる。
  ⑵ 労基法20条
   同法本文は、解雇予告手当支払義務を定める。また、同但書は、「労働者の責めに帰すべき事由」という例外を認め、これを就規33条但書は「本人の責めに帰すべき事由」として具体化する。
   同定めは、新たな職を始めるまでの生活保障という労基法20条の趣旨に適うものであり(民法90条)、また自己都合の場合に同保障を受けることができないという「合理的」なものであり、かつ就業規則という形で実質的に「周知」されているため、XY間労働契約の契約内容となる(労契法7条本文)。
   そして、上述の通り、本件解雇は違法であるから、「本人の責めに帰すべき事由」(就規33条但書)があるとはいえない。
   しがたって、Y社は解雇予告手当支払義務がある。
第2 設問2
 1 Y社の対応
  Xが本件解雇無効を主張した場合、同解雇の適法性については労契法15条によって判断される。
  Y社は、Xに対して、本件解雇が有効であることを前提として、不当利得として既に支払われたと考えられる退職金の返還を請求する(民法703条)。
 2 本件解雇の有効性(労契法15条)
  ⑴ 「懲戒することができる場合」
   まず、就規40条1号は、企業秩序を侵害した労働者を懲戒権に基づいて解雇するものであり「合理的」であり、かつ就業規則によって実質的に「周知」されている(労契法7条本文)。
   また、罪刑法定主義の観点から、あらかじめ懲戒の種別及び事由が定められていることが必要となるところ、就規40条は「懲戒解雇」、同1号には「重要な経歴を詐称」とあり、これを充足する。
  ⑵ 「客観的に合理的な理由」は、懲戒事由該当性をいう。
   懲戒解雇は、労働者の賃金収入の途を断つことにつながるため、厳格に解されるべきであるところ、「重要な経歴を詐称」とは、企業秩序を侵害し得る程に重大な経歴を詐称した場合をいうと解される。
   本件では、XはY社接客係として中途採用されている。そうすると、Y社としては、同係に適する資質を有する者である担保として、ホテル専門学校卒業という経歴を重視していたものと考えられる。接客係は、顧客対応がメインだから、同資質を欠く者を配置すれば信頼を欠くことになり、企業秩序を侵害し得るといえる。
   したがって、ホテル専門学校卒業証明書のコピーの詐称は、企業秩序を侵害し得る程に重大な経歴を詐称したものといえ、「重要な経歴を詐称」にあたる。
  ⑶ 「社会通念上相当」
   本件では、Xの勤務実績が良好であるとしても、上記資質を偽った点についてXに落ち度がある。また、これはY社において重要な事項であった。
   したがって、上記事由を理由として解雇を行ったことは「社会通念上相当」であるといえる。
以上

2 分析 ※太文字は試験中の思考

設問1
 Xは「解雇を争いたい」という方向性で相談に来ている。そして、大きな問いは「本件解雇の適法性や効力」である。そのため、解答に当たっては、労契法16条だけを答えればいいわけではないはず!(労基法20条1項、Y社就業規則33条も検討すべき!)と思った。これは、Y社人事部からのメールにわざわざ②解雇予告手当が支払われていない旨が記載されているからである(問題文に①~④の記号が振られており、誘導だろう。「本件解雇の…効力」に当たるかは不明であるが。労基法20条1項については、出題趣旨33頁でしれっと「解雇の手続」としてまとめられていたので、無用な疑念を差し挟ませるような表現はやめてほしいですね。)。
 まず、労契法16条については、ブルームバーグエルピー事件(高判平成25年4月24日、判例百選9版72事件)が想起された。もっとも、「能力不足」というより、むしろ「勤務成績が不良で改善の見込みがない」に当たるような気がして少し迷ったが、この辺はぼかして論じた。とにかくY社就業規則32条2号の文言を解釈してあてはめを行うことが重要であると思った。

 また、Pの発言によると、本件解雇の理由は「業務成績不良と上司への反抗」である。そのため、全面的に本件解雇を争うXとしては、上司への反抗についても反論していくことが必要になるはずであり、これはY社就業規則32条4号又は7号の枠で論じる他ないと思った。
 次に、解雇予告手当については、本件解雇の適法又は違法により結論が左右される論点であるから、本件解雇の適法性の後に論じればよいし、そこまで厚く論じるべき問題ではないと思った。
 再現答案では、請求内容に関して、解雇期間中の賃金の支払は言及できているものの、労働契約上の権利を有する地位の確認には言及できていない。また、損害賠償請求を指摘しているものの、その理由についても時間的に言及できていない。採点実感32頁ではこれらが求められていることから、今後の試験に活かしたいところだと思います。

設問2
 Xが採用時に不正な証明書を提出したことを懲戒解雇の理由とする点(解雇の適法性)について、炭研精工事件最判平成3年9月19日、判例百選9版54事件)が想起された。ここでは、やはり学説の言うように就業規則を限定解釈する方が妥当であるため、この点を意識して論じた。
 問い方として「Y社は…どのような対応を採ることが考えられるか」とあるが、これがよくわからなかった。自分は、Y社人事部からのメールにわざわざ④退職手当を振り込む旨が記載されていること(おそらく既に支払われているだろう)、Y社就業規則20条及び40条後段が記載されていること等から、解雇が適法であることを前提とする支払済み退職手当に関する不当利得返還請求(民法703条)を論じた。もっとも、虚偽の「応募書類の問題について」という留保がついており、不安が残る。

 本問は、上記の解雇の適法性を前提として、Xが提起した解雇無効確認の訴えにおいて、新たな解雇事由を主張できるかという点(主張の可否)についても問題になっていました(採点実感32頁の①)。懲戒解雇の事案であり射程外であると思われますが、山口観光事件(最判平成8年9月26日、判例百選9版52事件)を想起して、論じることができたはずです。再現答案は退職金につき不当利得返還請求をしていることからすれば、(無自覚のうちに)①で構成していたようですので、解雇の適法性→主張の可否という2段階の枠組みで解答するとすれば、再現答案は後者についての検討を欠く点で失点していると思います。多くの受験生が気付き得るだろうし、一定の結論を導くのは困難でないはずですので。問題文最後の1文のXから訴訟提起について聞かされた副店長Rがその旨をPに報告したこと、設問でPからの連絡を受けたY社人事部が再びXの経歴等の精査を行ったという場面設定等の誘導から、かかる問いに気付く必要があったのだと思います。他方で、当初の解雇とは別個に改めて解雇を行う(採点実感32頁の②)として構成したのであれば、「当初の解雇が無効とされて場合に備えた予備的な解雇という行使方法」「その場合の賃金請求権の発生期間」「既に支払った退職金の処理」「懲戒解雇事由があっても普通解雇することの可否」等の問題が控えていたようです。

【再現答案】令和元年(平成31年)司法試験 商法 A評価

1 再現答案 3303文字

第1 設問1
 1 自ら招集する場合(会社法(以下省略)297条1項)
  ⑴ 乙は、平成29年5月から公開会社甲社の株式の取得を開始し、平成30年1月時点で15%の株式を保有しているため、「総株主の議決権の百分の三…以上の議決権を六箇月以上…前から引き続き有する株主」である。
  ⑵ そのため、「取締役」に対して、「株主総会の目的である事項…及び招集の理由」を示せば、株主総会の招集をすることができる。
 2 株主提案権を行使する場合(303条2項)
  ⑴ 乙は、前述と同様に、取締役設置会社(327条1項2号)たる甲社の株式を15%保有しており、「総株主の百分の一…以上の議決権…を六箇月…前から引き続き有する株主」である。
  ⑵ また、平成30年1月時点において、同年6月の臨時株主総会は「八週間」前であるから、「取締役」に対して「一定の事項を株主総会の目的」とすることを請求し得る。
  ⑶ もっとも、甲社定款13条は、「議決権の基準日」を「毎年3月31日」と定めており(124条1項2項)、乙が取得した甲社株式15%はいずれも「基準日後」に取得したものである(同条4項本文)。そのため、乙は基準日株主といえず、株式会社が定めた場合の除き、臨時株主総会において議決権を行使することができない。
 3 私見
  以上より、乙としては、自ら招集するべきである。
第2 設問2
 1 手段
  乙社としては、効力発生日たる平成30年7月25日以前の同年6月26日においては、本件新株予約権無償割当ての差止め(247条類推適用)及び同請求権を被保全債権として仮処分申立てを行う(民事保全法23条2項、13条)。
 2 主張
  ⑴ 247条類推適用
   まず、247条は、差止めの対象を238条としているために、直接適用できない。
   もっとも、247条は事前救済の機会を与える趣旨であるから、これは新株予約権無償割当て(277条)の場合にも妥当する。
   したがって、247条類推適用によって、新株予約権無償割当ての差止めをすることができる。
  ⑵ 247条類推適用の1号事由「法令…違反」
   ア 109条類推適用
    まず、109条は、株主を「株式の内容及び数」に応じて平等に取扱うことを求めるところ、無償割当てである限り株式の内容及び数に応じて新株予約権の割当てが行われるため(概要⑸)、直接適用できない。
    もっとも、新株予約権無償割当てにおいても、当該新株予約権の「内容及び数又はその算定方法」が定められることとなっており(278条1項1号)、差別的行使条件(概要⑻)により不平等が生じないように、109条の趣旨が妥当するといえる。
    したがって、109条類推適用が認められる。
   イ 109条類推適用違反の有無
    平等原則は、合理的な理由なき異別取扱い禁止するものである。
    そこで、異別取扱いに、①必要性があり、かつ②相当な程度のものであれば、違反しないと解される。敵対的買収対策としてなされる新株予約権無償割当ては、株式会社ひいては株主の利益保護を目的としてなされるものであるから、①については株主総会の決定が尊重される。
    本件では、1株につき2個の新株予約権が割り当てられるものの、乙社を非適格者として行使を制限し、1個1円という低廉な価格で買い取り、締め出しを行うものであり、乙社とそれ以外の者との間に異別取扱いがある。
    もっとも、これは乙社が比較的短期間で株式を売買する投資手法を採っていること、過去に敵対的な買収により対象会社の支配権を取得して対象会社の財産を切り売りする投資手法をとったことがあること、甲社の事業に対して理解がないこと等を理由としており、このような乙社から甲社ひいては株主の利益を守る必要性があった(①)。そしてこれについては、取締役会限りでは決定しかねるとして、株主総会での意見を仰ぐという謙抑的な態度が採られている。また、同取締役会において、本件新株予約権無償割当てが、出席者90%、賛成67%という過半数以上の賛成を得ており、決議に瑕疵はないため、かかる決定は尊重される。
    たしかに、乙社は、他の株主と異なり、新株予約権1個1円という低廉な価格での買い取りをしてもらうしかなく、不利益が生じる。しかし、同不利益については、乙社が買い増しを行わない旨を確約した場合には解消する術があり(概要⑽)、過大な不利益とは言えず、相当性もある(②)。
   ウ よって、109条類推適用の「法令…違反」はなく、247条類推適用の1号事由は認められない。
  ⑶ 247条類推適用の2号事由
   ア 「著しく不公正な方法」とは、主要な目的が支配権維持にあることをいう。
     もっとも、正当な目的があれば、例外的に「著しく不公正な方法」には当たらないと解される。
     本件では、過去に乙社が敵対的買収により経営陣を入れ替えたという事実から、甲社取締役からは経営陣を入れ替える可能性が高いとの懸念が示されており、主要な目的として支配権維持が推認される。
     しかし、前述の通り、本件新株予約権無償割当ては、会社ひいては株主の利益のために行われており、これは株主総会の意思を尊重するものである。そのため、同割当てには正当な目的が認められる。
     したがって、例外的に「著しく不公正な方法」に当たらない。
   イ よって、247条類推適用の2号事由は認められない。
 3 当否
  以上より、乙社の差止め及び仮処分申立ては認められない。
第3 設問3
 1 本件決議1の効力
  ⑴ 本件決議1の効力が無効であるとすれば、同決議に従うべきでなく後述する423条1項責任における任務懈怠を肯定する大きな要素となる可能性がある。
  ⑵ では「決議の内容」が「法令に違反」(830条2項)するために、本件決議1が無効といえないか。
   「決議の内容」である本件株主提案にかかる議題1(定款変更の件)が無効(民法90)であるとすれば、「法令に違反」するといえる。
   議題1は、財産の処分について株主総会の決議でこれを行うことができるようにする定款変更である。そのため、同処分が「重要な財産の処分」を含むとすれば、取締役会に権限を留保した362条4項1号に違反する定款であるとも思える。
   しかし、議題1は、あくまでも「株主総会の決議によっても」とあるように、取締役会の権限を奪うものではなく、両権限を併存的に規定するものであるにすぎない。
   したがって、「決議の内容」である議題1は無効とはいえず、本件決議1が「法令に違反」するともいえない。
 2 Aの423条1項責任
  ⑴ Aは「取締役」である。
  ⑵ 「任務を怠った」とは、法令定款違反又は善管注意義務違反をいう。
   もっとも、裁判所による事後的な結果責任の追及は経営者の判断を萎縮させるため、同判断は尊重されるべきである。
   そこで、①経営判断事項について、②その決定の過程及び内容につき著しく不合理な点がない限り、善管注意義務違反を構成しないと解される。
   P倉庫売却は、甲社内での活用可能性があるか又は遊休資産であり売却が望ましいが判断が分かれる事項であり、将来の甲社の資産形成にかかるものであるから、経営判断事項に当たる(①)。
   AはP倉庫売却を決定するに際して、甲社取締役及び社外取締役の意見を聴取している。もっとも、聴取の時間は不明であるし、それ以上に専門的知識を有する者の意見を問う等しておらず、十分な過程を経たとは言い難い。また、P売却見込みが付いた後に、Q倉庫倒壊という事態が発生し、Q倉庫内の貨物を保管するために、P倉庫の活用可能性が高まった。さらに、P倉庫を売却すれば50億円の損害が生じるのに対して、P倉庫の売却交渉を中止しても未だ違約金等の損害賠償義務を負うことはなく、P倉庫売却をやめることが可能であった。加えて、P倉庫を直ちに売却しないと不動産価値が下落するといった事情もなくその必要性は乏しかった。このような状況において、敢えてP倉庫を売却するというのは通常の経営者としても想定し難いものである。そのため、判断の過程及び内容に著しく不合理な点があり、善管注意義務違反を構成する。
   したがって、「任務を怠った」といえる。
  ⑶ これによって、多大な「損害」が甲社に生じており、因果関係もある。
  ⑷ 上記善管注意義務違反の態様からすれば、過失がないとはいえない(428条1項カッコ書)。
  ⑸ 以上より、Aは、甲社に対して423条1項に基づく損害賠償責任を負う。
以上

2 分析 ※太文字は試験中の思考

設問1
 一番よくわからなかった問題であり、設問2設問3の方が書きやすく感じたので端的な記載にとどめようと思った。他方で、その割配点が30点もあることが気がかりだった。
 いずれの手段についても条文構造の摘示を丁寧に行った。もっとも、両手段の「比較」の視点がわからず苦戦した。
本問は、単純に全ての項まで条文摘示をしていけば結論が出る問題だったようです(特に297条4項)。その意味でショボい問題だと思いました。採点実感8頁によれば「少数株主が臨時株主総会を招集する場合には、少数株主は株主総会の招集等の手続(会社法第298条等)を行うことにより株主総会の運営にその意向を反映し得る」(①議事運営の主導権)そうですが、そんなこと事前にインプットできないです…。最低限③時期の選択を指摘できれば現場判断としては十分だったのではないでしょうか。これで30点か…という感想です。あくまでも「比較」の問題であることから、一方が他を排斥する関係にあるとするような再現答案は筋悪といえるかもしれません。むしろ、両立するという前提で、いずれの手続を採る方が、どのような場面で有利又は不利であるかを「比較」しながら具体的に論じることが問われていたのだと思います。このような「比較」の問題が再度問われた場合には、このような視点から分析することを意識できるとよいと思います。
 あとは、甲社定款13条の基準日制度の存在が気になった。基準日については、予備試験平成30年の株主保有要件の保有時点の問題を想起したこと、あからさまに使ってほしそうな定款が示されていたこと等から言及した。もっとも、平成30年6月の定時株主総会時点においては、いずれの方法によっても、基準日株主たる地位を有することに変わりないため、比較の視点として間違っていたと思います(平成30年3月31日以前に株主総会を開催したという要望があるのであれば、自ら招集した場合、同総会において基準日株主といえず、議決権を行使できないということは考え得るかもしれませんが)。採点実感9頁では、良好に該当する答案の例として「議長の選任方法の差異等にも言及し…」とあるため、このような形で定款を検討することができたのだと思います。
 
設問2
 多くの受験生がブルドックソース事件の規範を書くことができると思う。もっとも、その論証の過程で精度の差が出るから、規範レベルで少しは差がつくと思う。
 論点レベルでは、各類推の丁寧さ、差止事由を複数挙げたか等で差がつくと思う。不公正発行についてはあからさまに事実があるので、言及が必要だろう
(もっとも、防衛策の導入、発動の是非が株主総会の決議(ただし、勧告的決議)に委ねられているため、直ちには、主要目的ルールによって結論を導き出せないことには注意が必要です。なお、勧告的決議については、伊藤靖史ほか『Legal Quest会社法』139~140頁(有斐閣、第4版、2018年)を参照のこと。

 また、本日2021年3月24日に第5版が発売されました。司法試験との関係ではあまり関連性が弱いですが、令和元年改正がフォローされています。)。 あてはめレベルで一番差がつくと思う。規範との関係で、事実を適切に摘示及び評価できていれば、結構跳ねるのではないかと思う。
 50点配点で、みんながどの程度書いたかにも関わり、相対的には結果が読めない。他方、設問3にも時間を残すことがとても大切だと思った。

 本問は、相当性の当てはめ事情がブルドックソース事件と大きく異なっていたようです(⑻で乙社を非適格者とすること、⑽第1段落で非適格者の取得対価を1円とすることという不利益があります。他方、後者を緩和する手段として、甲社は⑽第2段落で乙社が買い増しを行わないことの確約をすれば解消できる仕組みがあるとします。もっとも、同仕組みの妥当性には問題があります。ここを厚く論じるべきでした。)。自分の答案は、ブルドックソース事件との相違を意識することができず、規範を書いただけで満足し事案の真相に迫れない典型的な良くない答案かもしれません。判例学習において、あてはめどのような事情が考慮されているのか、その事情をどのように評価しているのか等は事前に把握・ストックしておくことが必要だと思いました。

設問3
 423条1項は受験生ならば、時間的余裕がない場合を除き、みんな書けるところ。だからこそ途中答案をしたらかなり差がついてしまうと思う。
 また、経営判断原則
(これ自体不適切ですが、採点実感14頁の③)についても、多くの受験生が事前準備しているはずだから、ここで多くの事実を摘示及び評価できれば、跳ねると思う。同問の特殊性は、「本件決議1の効力を検討した上で」という留保(採点実感14頁の①)が付いていること。つまり、同決議の効力が423条1項の成否に影響する要素であるということだと思った。もっとも、決議の効力と423条1項の関連性を検討できていない方が多いと思うので、論述できただけでかなり跳ねると思う。取締役会権限留保事項を株主総会に移譲するような内容の定款は無効となる場合がある。定款が無効ならば、それを可決した決議が同取締役会権限留保事項を定めた法令に違反することになるため、決議無効確認(830条2項)(重判掲載判例最判H29.2.21(H29重判6事件)、同判例は、非公開会社についての事案でしたが、公開会社にも射程が及ぶ旨の解説がなされていたと思います。295条2項が取締役会設置会社における株主総会の権限を限定した趣旨に遡った検討ができればより良かったのかなと思います。)を想起した。本件では、株主総会に権限が併存する内容にとどまるという点も重要だと思う。ここは採点実感15頁のなお書きではありますが、「一定の評価を与えた」とされていました。特に商法に関しては、重判を潰すことはかなりのアドバンテージになると思っています。司法試験直前には、予備校各社が、重判の中でも特に司法試験に出題可能性があるものをピックアップしたものを提示してくれています。少なくともこれくらいは目を通した方がいいのではないかと思います。
 採点実感14頁の①については、おおむね上記のような考え方でよかったようです。ただ、295条2項(「定款に定めた事項に限り」)の趣旨に言及しながら、決議自体が有効であることを示す方がよかったです。条文摘示の大切さを感じさせられました。また、再現答案では、採点実感14頁の②に関して、任務懈怠を善管注意義務違反(330条、民法643条)で構成してしまっていますが、正しくは忠実義務違反(355条「株主総会の決議を遵守」)です。ここでも条文摘示の大切さを感じさせられました。なお、採点実感14頁の③に関して、忠実義務違反の有無が問題となっているため、経営判断原則の適用が問題となる典型的な場面ではないことになりますが、これを峻別して現場で書けた方なんているのでしょうか。経営判断原則で検討したことは、おそらく相対的に沈む原因とはならず、逆に峻別して検討できていれば跳ねるという感じなのではないかと思います。

ロー生、ついでに国家公務員総合職

1 本記事の対象者(読者)

 はじめに、本記事は、国家公務員総合職専業受験生を主な対象としておりません。「ついでに」というのも国家公務員総合職専業受験生からすると癇に障るかもしれませんがご容赦ください。

 本記事を読んでいる方は、「受験料はタダだし、とりあえず保険として公務員試験でも受けておこうかな」というスタンスかもしれません。
 
 本記事は、まさにそのような方に向けて作成しました。特に、①ロースクール生(修了見込みを含む)であり、かつ②予備試験短答式に合格していない方を主な読者として想定しています。
 このような限定をしているのには主に2つの理由があります。1つは、ロースクール生の可処分時間の少なさです。現在ロースクールに在学している方であれば実感していると思いますが、意外と課題が多くこれと並行して司法試験過去問を検討するだけでほとんど可処分時間がありません。このような中で、保険として受ける公務員試験に割ける時間はごくわずかであり、「残された可処分時間でコスパよく」合格する方法を知りたいと思っているでしょう。もう1つは、予備試験合格者の一般教養科目における得点力です。予備試験短答式に合格できる方は、一般に国公立大学の在学生や卒業生、それ以外でも大学受験で成功された方、英語力が高い方といったように、一般教養科目における得点力を有している方が多いと思います。他方で、そうでない方はこの得点力がないことが弱点になってしまうため、これを補う方法を考える必要があります。
 つまり、本記事の想定する読者は、①+②=「一般教養科目であまり得点できないけど、どうにかコスパよく公務員試験に合格したい方」ということです。自分もここに位置しています。
 実際、勉強こそしていないものの何度か1次試験で不合格となっています。令和2年公務員試験では初めて2次試験に進み、無事最終合格(行政区分127名(最終合格者)中30位代)することができました。なお、同年に実施されないこととなった政策課題討議、自分が同年には行わないと決めた官庁訪問については具体的には言及しません。
 
 以下では、どの試験区分で受験するのか(2)や合格した場合どうなるのか(3)ということを一通り説明してから、実際の試験科目の対策(4以降)について書いていこうと思います。公務員試験についてよく知らないとい方は2から、前置きはいらないという方は4から読むことをお勧めします。

2 どの試験区分で受験するの?

 例年であれば4月頃、人事院のホームページ(採用情報NAVI)で事前登録が始まります。事前登録後、ホームページ上で出願という流れになります。
 基本的に試験実施年度の4月1日現在における年齢が21歳以上30歳未満の者が受験をすることができます。

 冒頭から公務員試験と言っていますが、本記事の読者が受けるべき試験は「国家公務員採用総合職試験(院卒者試験)(法務区分を除く)」です。また、試験区分は「行政」がベターです。
 ロースクール生で修了見込みでない方、つまりは最終学年でない方は院卒者試験を受験できません。その場合は、大卒程度試験を受験することになり、試験区分は「法律」がベターです。大卒程度試験と院卒者試験のどちらも受験することができる場合であれば、院卒者試験を受ける方が、試験内容や待遇との関係で有利になるといえます。具体的には、1次試験(短答式)の基礎能力試験の科目すなわち一般教養科目の問題数の比重が下がります。また、2次試験(記述式)において選択できる法律科目が増加します。さらに、2次試験(政策課題討議)の時間も減少します。なお、法務区分というのは司法試験に合格している者が対象となりますので、ここでは関係ありません。

3 合格したらどうなるの?

 試験を受けるにあたって、合格=何?というのは重要なのではないでしょうか。それが、自分の求めるものに適うのであれば、受験のモチベーションアップにつながると思います。他方で、想定以上に時間を割かなければならないことになるのであれば、公務員試験の受験をやめて司法試験に集中しようと考えると思います。

 まず、公務員試験の1次試験及び2次試験を突破して最終合格=採用というわけではありません。最終合格者は、希望する各省庁へ官庁訪問を行い、各省庁との間で採用内定を獲得する必要があります。これは、即独を除けば、司法試験合格者も、各法律事務所の面接を受けることになるので、大きな差はありませんね。各省庁とは、会計検査院人事院内閣府等挙げればきりがありません。年度によって募集人数に差があるので確認が必要です。また、試験区分に関わらず応募できる省庁もありますが、基本的に院卒者試験の行政区分の最終合格者は事務系で応募することになります(技術系というのは理系の区分です)。
 次に、採用候補者名簿の登録について説明します。冒頭に書いた通り、自分は令和2年公務員試験に最終合格することができましたが、同年には官庁訪問を行わないことを決めました(コロナの影響で実施日程が変更され、本来は司法試験の後に実施されるはずであった官庁訪問が、司法試験(8月12日~16日)の前(7月20日~)に実施されることとなったことが理由です)。このような場合、もう官庁訪問はできないのか、つまり採用内定を獲得することができないのかということが心配になると思います。しかし、同名簿の有効期間は最終合格発表の日から3年間とあります(有効期間を経過した後は当該名簿から採用されることはありません)。そのため、とりあえずは名簿登録だけ目指そうという方もいます。つまり、司法試験の保険として受けるにはもってこいの試験と言えますね。なお、引き続き採用を希望する場合等には、インターネットを通じて3か月ごとに意向届の提出が必要となります。
 最後に、待遇について、院卒者試験で合格すると月255,600円~、大卒者程度試験で合格すると月224,040円~です。この金額を高いと感じるか安いと感じるかは人それぞれかと思います。あとは実際に働いている方の月間労働時間との比較で検討するのが良いかと思います。いつも霞が関は明かりが灯ってる件について実際に働いている友人に聞いてみたら、残業代は満額支払ってもらえるわけじゃな…云々という話を聞きました。河野太郎氏は適正な支給を、そうなっていない場合には内閣人事局に通報をという旨のツイートをしたことが話題となりましたね。今後に期待です。

4 1次試験(短答式)に向けて

 1次試験(短答式)は、基礎能力試験(多肢選択式)+専門試験(多肢選択式)から構成されています。令和2年公務員試験では、428名(申込者)中202名が1次試験を通過しています。
 実施されるのはおおむね司法試験の1か月前なので、あまり負担にはならないと思います。
 基礎能力試験(多肢選択式)は、いわゆる一般教養科目であり、知能分野24題、知識分野6題を2時間20分で解答します。一般教養科目で得点力が期待できないという読者の方々はここが鬼門になると思います。逆を言えば、ここさえクリアしてしまえばこっちのものといった感じです。足切りの30%以上の得点を獲得しなければなりません。つまり9題の確実な正解を目指しましょう。
 特に、知能分野のうちの文章理解8題と数的処理16題が狙い目だと思います。文章理解は、文章の並び替えや文章の要約等が問われるため、ほとんど日本語力の問題といえます。とにかく接続詞をしっかり見たり、明らかに誤りと思われるものを排除していく等愚直に問題と向き合えば、ある程度選択肢を絞ることができます。また、数的処理は、試合、操作手順、立体図形、軌道、推論等多岐に渡ります。そのため、数的処理の問題集を解いて数周まわすのが王道の勉強方法かと思います。しかし、時間がないロースクール生としては、ネットに転がっている数的処理の基本問題の処理パターンを一通り確認するという作業で挑みましょう。1次試験は午前が専門試験(多肢選択式)、午後が基礎能力試験(多肢選択式)という順番になっているので、自分はお昼の時間を使ってネットサーフィンをして処理パターンを記憶しました。最近では各種予備校がYouTubeに解法テクニックをアップしていることもあるので、これを視聴するのも有効だと思います。さらに、推論も狙い目だと思います。推論は、ロースクール生でも馴染みがあると思いますし、図を書いてこれまた愚直に検討すれば答えが出ますので、時間をかけてでも解答したいです。加えて、英語力に自信があればそこでも得点したいところです。
 他方で、知識分野というのは、知能分野と異なり、まさに知識がなければ解答できないという問題です。そのため、ここで得点するのは、知識分野と比べると難しいように思います。ここに時間を割くよりも、是非とも頭をフル稼働させて知識分野での得点を目指してほしいと思います。

 専門試験(多肢選択式)は、試験区分によって解答すべき問題が異なります。行政区分の場合、選択群Ⅰ~Ⅲから「選択Ⅱ 法律系」を選択するのがベターです。
 「選択Ⅱ 法律系」は、必須問題31題(憲法7題、行政法12題、民法12題)+選択問題9題から構成されます。試験時間は3時間30分です。
 予備試験合格を目指した勉強をしていない方や行政書士試験の勉強をしたことがない方にとって、必須科目のうち鬼門は行政法だと思います。司法試験で馴染みのある行政事件訴訟法や行政手続法に限らず、行政不服審査法等も当然に出題されます。最低限勉強をしておかないと、ここでの失点は大きなダメージになると思います。補強するための教材は、六法であったり何でもいいですが、LECの完択なんかは行政手続法・行政不服審査法行政訴訟法だけでなく、情報公開法や行政組織法なども記載があるので便利かもしれません。

 他方で、必須科目のうち憲法民法は司法試験の短答式と被るため、準備は不要だと思うかもしれません。しかし、やはり異なる試験であって、出題形式が違ったり、司法試験過去問にないような判例が問われたりするので、不安がある方は事前に問題にさっと目を通しておくことをお勧めします。
 選択問題は、任意で9題を選択して解答するものですが、商法3題、刑法3題はマストで解答して、労働法3題又は国際法3題のいずれかを選択して解答するのがベターだと思います。自分は司法試験の選択科目で労働法を選択しているので、労働法の問題はわかりますし、解答できます。司法試験の選択科目で労働法又は国際法(国際私法と国際公法のいずれに当たるかまでは判断する能力は自分にはありません)を選択している方は有利になると思います。刑法は上記の憲法民法についての分析が、商法は上記の行政法についての分析がおおむね妥当すると思います。

 1次試験に合格すると、2次試験までに、住民票記載事項証明書、修了証明書、面接カード等を準備することが必要になりますので、余裕をもって資料の準備をしましょう。
また、1次試験当日に配布される受験心得は、捨てないで保管しておきましょう。住民票記載事項証明書を発行する際に使用することになります。

5 2次試験(記述式)に向けて

 2次試験(記述式)は、14科目のうちから任意に3科目を選択して4時間で解答することになります。
 ここでは、憲法行政法民法、商法、刑法、民事訴訟法、国際法のうちから3科目を選択するのがベターだと思います。自分が得意な科目を選択したり、時間に余裕があるので全てにさっと目を通した上で高得点を望める科目を選択して解答すればよいと思います。
 
 2次試験(記述式)で注意すべきなのは、六法を参照できないこと、解答用紙が司法試験と異なることです。
 正直に言って、2次試験(記述式)の各科目の難易度はそれほど高くないと思います。イメージとしては、ロースクール入試、ロースクールの期末試験等と同程度という感じです。もっとも、六法を参照できない中で答案を作成するというのはとても苦痛です。普段当たり前のように検討できていた要件を漏らすおそれがあります。そのため、六法を参照できないということを前提に、六法への依存度が少ない憲法行政法民事訴訟法等を選択する又は司法試験短答式対策で条文素読をしたことがある憲法民法、刑法を選択するという作戦もあると思います。他方で、令和2年公務員試験の憲法では行政組織法の論点(おそらく)が問われており、行政法でも司法試験では問われないような論点(具体的なことは忘れてしましました)が問われており、苦戦する場合があるかもしれません。自分は民法、商法、刑法を選択しましたが、条文を何度も読んだことのある刑法においても放火罪の適用条文について多少不安になりました(刑法108条は現住又は現在、同109条は非現住かつ非現在、自己所有は2項で公共の危険が要件となる、115条等)。
 解答用紙はマス目が付いた原稿用紙(横32文字×縦28行の裏表×2-7文字で、おそらく1785文字)です。つまり、文字数に制限があるということです。また、筆記用具については特に指定がなく、マス目の付いた原稿用紙への訂正と挿入の仕方がわからなかったため、自分はシャープペンシルで解答しました。ロースクール入試でもこのような解答用紙が使われることがあるようですね。イメージとしては横書きの読書感想文の原稿用紙といった感じです。

 なお、2次試験当日は、2次試験(記述式)に先立ち、性格適性スケールというものが実施されます。YesNoの2択で答える質問100題を15~20分程度(正確な時間は忘れました)で解答します。運転免許証を取得したことがある方ならわかると思いますが、常識的にこれは選ばないだとうという地雷質問みたいなものも混じった質問です。もっとも、ここでの解答結果は合否判定に一切関係ないので、気負う必要は全くなく準備も不要です。時間内にマークシートを塗り潰すだけの作業だと思っていてください。そのため、鉛筆は準備しておいて方が良いです。

6 2次試験(記述式以外)に向けて

 2次試験(記述式以外)は、人事試験(面接)+政策課題討議試験から構成されます。
 もっとも、令和2年公務員試験は、コロナの影響で、日程が延期されただけでなく、政策課題討議が実施されないこととなりました。冒頭から読まれている方ならわかると思いますが、自分は令和2年公務員試験に出願した時点から司法試験>公務員試験というスタンスでした。また、司法試験の前に実施される公務員試験でコロナに罹患してしまったら、司法試験を受験できなくなるおそれがありました。そのため、公務員試験の受験を控えることを検討していました。しかし、同年の受験を決めたのは、やりたくなかった政策課題討議が実施されないこととなったことと初見の改正民法の短答式を解いてみたい(新設条文で何が出題されるのかを知りたかった)と思ったことが大きかったです。

 面接は、実施日程が6月4日~12日から8月3~11日に変更され、実施されました。
 自分を含めたロースクール生の多くは、民間就職の面接もほとんど経験がないと思います。以下では自分の面接に向けた事前準備と実施内容について書いていこうと思います。

 まず、クールビズ問題を片付けておきましょう。
 例年もさることながら、令和2年では8月実施ということもあり余裕で30度を超える暑さでした。いくら世間的にはクールビズだとは言っても、面接はしっかり上着を着て、男性であればネクタイを締めてというフォーマルスタイルがいいのではないかと心配になりますよね。結論から言って、クールビズで大丈夫です。クールビズとは地球温暖化対策の一環として平成17年度から政府が提唱する過度な冷房に頼らず様々な工夫をして夏を快適に過ごすライフスタイルをいい、その一環として室温の適正な管理とその温度に適した軽装等の取り組みが行われます。クールビズ期間は5月1日~9月30日ですので、ばっちり期間内ですよね。令和2年では、面接に先立ち官庁訪問(令和2年はオンライン)が実施されましたが、各省庁はノーネクタイ、ノージャケット等無理のない服装でお越しくださいとのアナウンスをしていました。実際、フォーマルスタイルが1割、一応ジャケットのみ持って来たというのが2割、クールビズが7割といった感じでした(8月3日)。また、面接会場では、普段の実力が発揮できますようクールビズで構いませんという旨のアナウンスがされました(当日言われても…という感じですし、あらかじめ人事院もアナウンスすればいいのに…)。

 次に、順番が前後しますが、面接の実施内容について見ていきます。
 当日は、待合室に受験者全員が集められ、自分の順番になったら面接室に向かうという方式が採られていました。待合室で面接カードを提出します。面接は、事前に記載し当日提出するこの面接カードに沿って進められます。つまり、面接カードに記載する事項によって面接で聞かれることが決まることになります。
 面接カードには、これまでに取り組んだ活動や体験において達成感を感じたことや力を入れてきたりした経験(以下「経験等」という)を、①学業や職務、②社会活動や学生生活、③日常生活その他(資格、特技、趣味、社会情勢等で関心があること)の3つのフィールドに分けて記載することになります。また、④志望動機を記載する欄もあります。
 面接は、3名の面接官が、面接カードに記載された事項3つ(上記①~③)に対して、各約5分の質疑を行い、面接全体は約20分で終了します。
 経験等については、ロースクール生は案外悩むではないでしょうか。なにせ可処分時間が少ないので、勉強以外に時間を割いてエンジョイしているロースクール生というのはあまり見たことがありません。自分も記載すべき内容があまり浮かばず苦労しましたが、①アルバイトでの失敗経験、②ロースクールでの勉強(自主ゼミ)内容やその運営、③趣味について記載しました。行政区分を担当する面接官は、面接期間中を通じてロースクール生と対峙することが必然的に多くはなりますが、彼ら彼女らは各省庁所属の公務員でありロースクールの実態について詳しいわけではありません。なので、ロースクールの話をするのもアリだと思います。
 ①について、真ん中の女性面接官から、どんな内容のバイトなの?どんな問題が起きたの?どのように改善したの?(改善策を伝えたと言ったことに対して)納得してくれた?という質問を受けました。一番和みました。緊張を和らげてくれる感じでした。
 ②について、向かって左の中堅男性面接官から、司法試験を目指した理由は?なぜ司法試験ではなく公務員試験を受験したの?司法試験での学びは公務員にどう活かせると思う?(自主ゼミで答案作成について失敗の共有をしたと言ったことに対して)どんな失敗をし、どのように共有したの?ロースクール在学中に勉強以外に何か活動していた?(法整備とか立法政策に興味があると言ったことに対して)どういう分野に興味があり、具体的にはどんな政策を想定しているの?という質問を受けました。やはりなぜ司法試験ではなく公務員試験を受けたのかは問われるようです。あと、官庁訪問でもないのに具体的な政策とかまで突っ込まれたのは免を食らいました。
 ③について、向かって左の若手男性面接官から、(趣味の)魅力は?(趣味をするとき)何を考える?(趣味から)学んだことはなに?(趣味は)公務員にどう活かせる?という質問を受けました。一番ふわふわした記載だったのに結構話を広げて質問してくれました。
 志望動機については、面接では触れられませんでした。正直ここが重要なんじゃないかと思っていたので拍子抜けでした。
 8月3日は、面接室が11室設けられ、各面接室に約7名の受験者が振り分けれていました。面接の1番目が開始された13時からだったので、7番目の方は約2時間後から面接が開始されることになりますね。お昼ご飯は済ませておいた方が無難でしょう。自分は、1番目ではありませんでしたが、前の方が欠席だったため繰り上げで1番目になりました。
 面接では、所属大学や所属大学院がわかるような発言をしてはいけないということに注意しましょう。これも面接前にアナウンスがあります。そして、面接後にロースクールの修了証明書を提出して終了です。

 最後に、面接の事前準備について見ていきましょう。
 前述の通り、面接での質問は面接カードによって決まります。そのため、面接対策の肝は、面接カードの作成にあります。
 面接カードに記載した事項3つ(上記①~③)について、面接官は、主に何を?どのように?なぜ?と言った質問をしてきます。受験者としては、自分が記載した経験等について記憶しておくことももちろん必要ですが、何より質問される事項をあらかじめ想定し、それに対しての回答を準備しておくべきです。大それたことを言っていますが、前日に1時間くらい使えば十二分に準備ができると思います。なんとも基本的な質問がされてあたふたすることがないように、社会人の友人とかと一緒にこの記載だと何を質問したくなるだろうということをお喋りするだけでも効果があると思います。実際、おおむね自分が想定していた事項が質問され、即答していました。他の受験者のブログと比較すると、即答しすぎていたせいか、質問される事項が多かったように思います。たしかに疲れますが、これもキャッチボールの回数が増えて自分をアピールできる機会が増えたと前向きに捉えていました。
 記載した事項以外の質問としては、記載した経験等をどう公務員に活かせると思う?なぜ司法試験ではなく公務員試験を受けたの?等です。この辺も質問されたら回答できるようにしておきましょう。
 志望動機については、質問を受けないことが多いようです。あらかじめ面接経験者のブログにも同じような内容が書かれているのを見ていました。これを前提とすると、志望理由には力を入れなくても良いと思うかもしれませんが、そうではないと思います。志望理由欄を活かすには、志望動機を、経験等①~③の質問に対する回答の中で喋ることができるように組み立てることが有効だと思います。なぜ公務員試験を受けたのか?という質問に対する回答で使ってもいいですし、自分の根本にあるパーソナルな部分(総論部分)は、内容に一貫性がある限り、①~③(各論部分)で引用できるはずです。

7 官庁訪問に向けて

 冒頭に書いた通り、自分は令和2年公務員試験に最終合格することができましたが、同年には官庁訪問を行わないことを決めました。官庁訪問に対する知識がほとんどなく、公務員試験の中で一番未知の領域でした。これも司法試験前の貴重な時間を、官庁訪問(令和2年はオンライン)に割けないと思った理由の一つでした。なお、例年であれば、司法試験受験後に官庁訪問を行うことができます。

【無料】添削 令和2年司法試験再現答案

1 はじめに

 昨日、令和2年司法試験の合否発表がありましたね。自分はなんとか合格することができました。
 残念ながら不合格となり、こちらをご覧になった方、まずはイレギュラーが多かった本年度の試験お疲れ様でした。早くも次の試験を見据えられておられ、尊敬致します。
 リスタートは早いに越したことはないです。特に令和3年司法試験まではこれまたイレギュラーに期間か短いので。
 自分は、発表前に「仮に合格していたら、共に苦境を経験した受験生はライバルではなくなるので、目の届く範囲で微力ながらもサポートしたいと考えます」というツイートをしておりました。意訳の方がメインだったかもしれませんが笑


 そのためこれを実行させていただきます。対象は令和2年司法試験に不合格になり、令和3年司法試験の受験を検討されている方で、かつ再現答案を作成している方ということになります。

 とはいえ自分も単に合格しただけであり、現時点では順位も科目毎の評価もわかりません。法務省のホームページで何度も何度も受験番号を確認し、弊ローからのお祝いメール、中国新聞の掲載を見て、やっと合格したのだということを実感し始めたところです。
 昨年度はツイッター経由で多くの方に添削をしていただき、リスタートのきっかけを掴むことができました。
 これをご覧になった方にも、リスタートのきっかけとして利用していただければと考えています。

2 価格(無料)

 なぜ無料なのか。先ほど述べたように、自分も単に合格しただけであり、現時点では順位も科目毎の評価もわかりません(きっとそんなに上位で合格しているわけではないと思います)。また、(自主ゼミの添削やセルフ添削自体の経験はありますが)特に実績もありません。このような中で、ご依頼いただくわけですからお金は要求できないですね。
 さらにいえば、添削を通してお金以外に得られるものがあると考えていますので、どうか遠慮せずに連絡してみてください。
 ※ただし、添削コメントの一部をブログ等において公開させていただく場合があることをご了承ください(氏名・属性だけでなく、見せていただいた再現答案は公開しません。また希望があれば公開しません。)。

3 具体的な添削方針・内容

 では、具体的には自分にどんなことができるのか。
 直ぐにできるものとしては、令和2年司法試験再現答案の添削があります。成績表が届き次第自分の科目毎の評価を基準にそれと比較しつつコメントできると思います。この添削を基に敗因分析をしていただき、今後の勉強方針・内容を考え、効率的に令和3年司法試験に備えていただきたいです。出題趣旨及び採点実感の読み込みに時間を要することが予想されるため、少々お時間いただくことになるかと思います。

 添削方針としては、受験生的な視点(書く順序、濃淡、書きやすさからの自説決定など)から指摘をさせていただきます(近年の出題趣旨及び採点実感はかなり丁寧な解説がなされる一方で、過度の要求があることもあるので)。基本的知識の誤りや誤解が認められる部分は赤字(原則指摘を受け入れ修正してもらいたい)、それ以外でさらにブラッシュアップできそうな部分は黒字(納得できたら採用してくれればよい)でコメントしようと思っています。

 添削内容としては、お送りいただいた再現答案(Wordデータ)を読ませていただき、再現答案自体に又は別紙に添削コメントを記載しようと思っています(これも何か希望があれば柔軟に対応したいと思います)。加えて、簡単ではありますが、勉強方針の相談やアドバイスもできる範囲で話し合えたらと思っています。

4 さいごに

 時間的にかなりタイトな令和3年司法試験です。最後まで全力でやり抜いてください。
 金銭面・環境面について、全く同じ境遇の人はおらず、機会も平等ではないと思います。しかし、結局は自分の気持ち次第だと思います。努力すると決めたのなら、こちらもできる限り協力できたらと考えています。
 ただし、息抜きも忘れずに。健康面・メンタル面を良好に保つことは何より重要だと思いますので。

【再現答案】令和元年(平成31年)司法試験 刑法 A評価

1 再現答案 3250文字

第1 設問1 甲のAに対する罪責
 1 詐欺罪(刑法(以下省略)246条1項)
  甲がAに対して「キャッシュカードを確認させてください」等の行為*1に、詐欺罪が成立しないか。
  ⑴ 「人を欺」くとは、①財物交付に向けて、②交付判断の基礎となる重要事項に錯誤を生じさせることをいう。
   甲がAに対して述べたのは「キャッシュカードを確認させてください」であり、これ自体は本件キャッシュカード等を交付させるものではない。また、甲は「後日、お預かりする可能性がある」としつつ、あくまでも「証拠品として保管しておいてもらう必要があります」と述べている。そのため、それ自体本件キャッシュカード等を交付させるものではない。甲が「印鑑を持ってきてください」と述べ、ダミー封筒を使用してすり替えを行ったのも、前記発言は終局的に本件キャッシュカード等を交付させるために行われたものでない*2ことを裏付けている。そのため、甲の行為は、財物交付に向けてなされたものとはいえない(①不充足)。
   したがって、「人を欺」くとはいえない。
  ⑵ よって、甲の行為には詐欺罪は成立しない。
 2 窃盗罪(235条)
  甲がAに対して本件キャッシュカード等が入った封筒とダミー封筒をすり替え、ショルダーバックに隠し入れた行為について、窃盗罪が成立しないか。
  ⑴ キャッシュカードは単なるプラスチックカードではあるものの、暗証番号が記載されたメモ紙を併せ持つことによって、預金を引き出すことのできる地位を構成するといえ、このような本件キャッシュカード等は「他人の財物」*3に当たる。
  ⑵ 「窃取」とは、①相手方の意思に反して、②占有を侵害し、自己又は第三者の下に占有を移転することをいう。②の占有とは、財物に対する事実上の支配をいい、占有の事実及び占有の意思から社会通念に従って判断する。
   本件では、前記甲の「証拠品として保管」「印鑑を持ってきてください」等の発言からすると、本件キャッシュカード等はあくまでも印鑑を持ってくるまで一時的に甲に手渡されたに過ぎない(占有の事実)。また、Aとしても、甲に終局的に預ける認識ではない(占有の意思)。そうすると、甲が領得した隠し入れ時点において、未だ本件キャッシュカード等に対してAの事実上の支配が及んでいたといえる。したがって、甲の行為はAの占有を侵害し、自己の下に占有を移転したものといえる(②)。
   また、前記Aの認識を前提とすると、相手方Aの意思に反するものといえる(①)。
   よって、「窃取」したといえる。
  ⑶ 甲は、本件キャッシュカード等を持ち去って勝手に預金を引き出すつもりであったのだから権利者を排除して所有者として振る舞う意思があり、かつこれは経済的利用に従う意思であるから、不法領得の意思*4がある。
  ⑷ また、甲はAの占有を侵害することについて認識認容*5していた(38条1項本文)。
  ⑸ 以上より、甲の行為には窃盗罪が成立する。
第2 設問2*6
 1 ②の立場からの説明
  共犯処罰根拠(60条)は、結果に対する因果性にあるところ、共謀加担前の行為によって発生した結果について、途中で加担した者は因果関係を持ち得ないため、責任を負わないという考え方である。
 2 ①の立場からの説明
  もっとも、ⅰ先行者の行為が生じさせた結果が残存し、ⅱ後行者が先行者とともに違法な結果を実現したといえ、ⅲ因果関係がある場合、結果に対する因果性を肯定でき、全体について承継的共同正犯として責任を負うと解される。
 3 私見
  私見としては、共犯処罰根拠が結果に対する因果性であることに照らして、①の立場が適当であると考える。
  ⑴ まず、承継的共同正犯を検討する前提として、犯罪がⅰ・ⅱ・ⅲを充たすような結合犯であることが必要となる*7
   たしかに、事後強盗罪(238条)は「窃盗が」としており、「窃盗」を身分とする身分犯であるとも考えられる。
   しかし、窃盗未遂罪であっても、事後強盗罪が成立することからすると、「窃盗」は単なる身分と考えるべきではない。他方、「窃盗」行為は、事後強盗罪の既遂を決する点で同罪の財産犯性を基礎付ける実行行為の一部であるといえる。そうすると、「窃盗」と「暴行又は脅迫」を実行行為とする結合犯であると考えられる。
  ⑵ では、ⅰ・ⅱ・ⅲを充たすか。
   本件では、既に甲の行為に窃盗未遂罪(243、235条)が成立している。そのため、財産侵害の危険性が生じたという違法な結果が残存している(ⅰ)。
   甲は、乙の勘違いに気付きながらも、Cの反抗抑圧を期待して「こいつを何とかしてくれ」と述べ、これに対して乙はCに対してナイフを示す等しており、ここに事後強盗罪の共謀が形成されたといえる。かかる共謀に基づき、乙はナイフを示し「ぶっ殺すぞ」と述べており、同ナイフ刃体が10cmであることからしても一般人において身体の枢要部たる臓器等が侵害されると考え反抗抑圧に至るのが通常である。そのためかかる発言は「脅迫」にあたるといえ、乙は甲とともに事後強盗という違法な結果を実現したといえる(ⅱ)。
   また、乙の行為によって、Cは甲のショルダーバックから手を離しており、結果との間に因果関係もある(ⅲ)。
   したがって、ⅰ・ⅱ・ⅲを充たし、乙は承継的共同正犯として事後強盗全体について責任を負う。
  ⑶ なお、上記ⅱ内の「脅迫」について、238条の趣旨が、窃盗に伴い所定の目的でなされる脅迫が刑事学上顕著であるから、脅迫を手段とする強盗と同様にこれを処罰するものであることに照らし、窃盗の機会になされたものであることが必要となる。
   本件では、乙の脅迫行為は、甲が店内で行った窃盗未遂に引き続き接着した時間内に行われているし、場所も同店内と同一であるから、未だ支配権内から脱していないといえ、窃盗の機会になされたものといえる。
第3 設問3
 1 丙がDの傷害結果に関する刑事責任を負わない説明
  ⑴ まず、丙はワインボトルを甲に向かって投げ付けており、これによってDの頭部に傷害を負わせている。かかる行為は人の身体に向けられた、生理的機能に障害を生じさせるものとしての「傷害」(204条)に当たるため、傷害罪の構成要件に該当する。
  ⑵ 次に、刑事責任を否定するものとして、「他人の権利」についての正当防衛(36条1項)によって違法性が阻却されないか *8
   ア 「急迫不正の侵害」とは、法益侵害の危険が現存又は間近に押し迫っていることをいう。ここで、「他人の権利」の正当防衛においては、防衛者が急迫性を認識したとしても、その他人が急迫性を感じていない場合に、急迫性が否定されるのではないかという難点がある*9。しかし、その他人の認識の有無によって防衛者の違法性阻却の有無が左右されると考えるべきではない。そのため、急迫性については一般人を基準として判断する。
    本件では、たしかに、甲がナイフを示し、「本当に刺すぞ」と述べているが、Dは甲の要求に応じる素振りを見せておらず、法益侵害の危険性を感じていないと考えられる。しかし、レジカウンター内に一人いたDに対して刃体10cmという比較的長いナイフが向けられれば、一般人をして身体の枢要部たる臓器等を侵害されると感じるのが通常である。
    したがって、法益侵害の危険が現存しているといえ、「急迫不正の侵害」がある。
   イ 「防衛するため」とは、急迫不正の侵害を認識しつつこれを避けようとする単純な心理状態をいうところ、丙においてこのように認識しつつこれを避けようとする心理状態にあったといえ、「防衛するため」といえる。
   ウ 「やむを得ず」とは、手段の必要最小限度性をいう。
    本件では、ナイフを持った25歳の男性甲に対して、30歳である女性丙が素手でこれに立ち向かうことは困難である。既にDに対してナイフを向けているのであり生命への危険があるのに対して、これを排斥するためには、間近に陳列されていたワインボトルを投げ身体への危険を生じさせることも必要最小限度の手段といえる。
    したがって、「やむを得ず」といえる。
  ⑶ よって、違法性が阻却されるため、丙の行為について、Dの傷害結果に関する刑事責任を負わないといえる。
以上

2 分析 ※太文字は試験中の思考

設問1
 詐欺の実行の着手についての重判の事案(平成30年重判、3事件、最判H29.12.11のだまされたふり作戦)がかなり頭をよぎった。もっとも、事実的には同判例と違う手法が用いられている。平成30年司法試験刑法設問1では名誉毀損罪の成否という刑法答案としては典型的なパターンの問題で答案の評価に差が出ていたことに思いを馳せ、改めて問題文を読み直し、メインは詐欺罪と窃盗罪の区別であると考え論述した。これについては、刑法事例演習教材(第2版)の問題(事例36(一石三鳥)、事例37(某野球ファンの暴走・その2))を想起した。なお、2020年12月21日発売された第3版の事例49(お金持ちのお年寄り)の解説4でズバリ設問1の「すり替え作戦」についての問いが追加されています。

 詐欺と窃盗の区別は、意思に基づく移転であるか、その物の占有を終局的に移転させているか等がポイントとなるため、構成としては詐欺否定→窃盗肯定の方が得点効率が良いと思った(また、両罪は法条競合の関係にあるため、(「五十万円以下の罰金」を選択刑とする窃盗罪に比して)重い詐欺罪から検討するのが筋だと思った。)。他方、事実認定次第で誤りではないが、仮に詐欺罪のみ成立とすると、両罪の対比の側面を出せず得点効率が悪いと思った。前者の構成を採る場合、詐欺を否定するには、①「人を欺」く行為レベル・②「交付」行為レベル・③因果関係レベルが考えられる。もっとも、②③のレベルで否定しようとすると、①で実行の着手自体を肯定していることになるため詐欺未遂罪が成立し、加えて窃盗罪を成立させるならば、混合包括一罪としての罪数処理が必要になると思った。かかる処理がめんどくさいこと、自分が「人を欺」く行為において実質的損害を検討する説を採用していること等から、①を採用して論述している。
 分量的には書きすぎないことを意識した。

 本問では、ATMからの預金引き出しについて、論じるべきかについて結構議論されていますね。自分は以下の理由から論述が求められていないと考え、書かなかった。①設問1は、「Aに対する罪責」を問うているため、銀行に対する窃盗未遂罪は検討する必要がないこと(預金者に預金債権や所有権だけでなく、占有を認める説もあるようですが、ここまで論述するのは得点効率が悪いと思いました。)、②平成30年司法試験刑法設問3において、不能犯と未遂犯の区別が問われており、同じ論点を聞かないだろうと考えたこと、③事案の自然さを出すためのストーリーに過ぎないと感じたこと(もっとも、誘導により完全に同論点を排除するならば、設問1の最後の2段落の文章を、設問2の頭に持ってくるのがベターのはず。そのため、敢えて設問1に挿入されていることからすると、同論点の論述を求めているという考え方も否定はできない。)等です。結果として、令和元年司法試験の出題趣旨15頁において、たった3行のなお書きで「ATMを管理する金融機関の占有を侵害するものであり、Aに対する罪責とはならないことから、この点は論ずるべきではない」としています。まあ、そうなんだけど、ここで悩んだ人かわいそう。もう言ったもん勝ちですよ。後出しジャンケン

設問2
 昨年に引き続き複数の法律構成を行わせる問い方であった(このような出題は答案化する際の構成がとても難しいと感じた。)。
 最近強盗系の犯罪が問われていなかったので、出題されるとしたら、事後強盗の共同正犯か強盗の機会あたりだろうと思い、勉強しておいてよかった。
 本問が、仮に事後強盗罪が身分犯であるか結合犯であるかという抽象論レベルの対立軸を示すことを求めているのであるとすれば、それによって(あてはめの必要なく)一定の結論が導かれてしまい、変な問題だと思った。他方で、自分は、身分犯又は結合犯いずれかの構成を前提として、65条1項又は承継的共同正犯のあてはめレベルで対立軸を示すことができるのであれば、そのような対立軸の示し方を問うのが自然な出題だと思い、そのように論述した。

 令和元年司法試験の出題趣旨15~16頁によると、本問の対立軸は、事後強盗罪の構造が身分犯か結合犯という点のようです…。また、令和元年司法試験の採点実感(刑事系科目第1問)3頁によると、「事後強盗罪の構造については、身分犯説と結合犯説の対立があるが、そうした対立点を示せている答案は少数であった。ほとんどの答案が身分犯説か結合犯説の一方のみに触れているものであり、さらに、それらの説には一切触れることなく…など、出題意図の把握が全くできていない答案が少なからずあった。」とされており、事後強盗罪についての身分犯説と結合犯説についての理解がそれぞれ問われていたといえます。その意味では、事後強盗罪の実行行為がどのように捉えられているのかについて(の両説)の理解が深く問われたものといえ、いずれかの説しか知らないというのでは理解が足りないようです(しかし、結果としては、そこが合否を分けるポイントにはなっていないんです。後述の通り、自分は結合犯説を自説とすることに決めていました。)。
 この対立点を、本問に適合する形で整理すると、以下のようになります。

①の説明は、
a.事後強盗罪が真正身分犯であることを前提に、65条1項を真正身分犯についての身分の連帯的作用を規定するもの・同2項を不真正身分についての身分の個別的作用を規定するものと捉え、1項を適用するという考え方
b.事後強盗罪が不真正身分犯であることを前提に、65条1項を真正身分犯及び不真正身分犯を通じて共犯の成立を規定したもの・同2項を不真正身分犯の科刑の個別作用を規定するものと捉え、1項を適用するという考え方(2項により科刑は脅迫罪)

c.事後強盗罪が結合犯であることを前提に、承継的共(同正)犯を全面肯定する考え方

②の説明は、
d.事後強盗罪が不真正身分犯であることを前提に、65条1項を真正身分犯についての身分の連帯的作用を規定するもの・同2項を不真正身分についての身分の個別的作用を規定するものと捉え、2項を適用するという考え方
(e.事後強盗罪が違法身分であることを前提に、65条1項を違法身分についての身分の連帯的作用を規定するもの・同2項を責任身分の個別作用を規定するものと捉え、窃盗が未遂であることから1項ではなく2項を適用するという考え方)

f.事後強盗罪が結合犯であることを前提に、承継的共(同正)犯を全面否定する考え方
g.事後強盗罪が結合犯であることを前提に、承継的共(同正)犯について、後行者が先行者の行為を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用した場合においてその範囲で後行者も先行者が行ったことを承継するなどと捉え、窃盗が未遂であることから承継を否定する考え方

 以上からすると、対立軸の作り方が見えてきます。
 1つは、まず事後強盗罪の実行行為がどのように捉えられているのかを検討し、身分犯説と結合犯説から①⇔②で対立軸を作り(a、b、c⇔d、(e)、f、g)、私見で身分犯説と結合犯説のいずれかを自説に確定する理由又は他説への批判を論じる。
 もう1つは、まず事後強盗罪の実行行為がどのように捉えられているのかを確定し、身分犯説を採用し、①⇔②で対立軸を作り(a、b⇔d)、私見(65条論(a⇔b))を論じる、または、 結合犯説を採用し、①⇔②で対立軸を作り(c⇔f、g)、私見(承継的共(同正)犯論(f⇔g))を論じる。
 おそらく前者が求められていたのでしょう。

 説の対立については、刑法事例演習教材第2版108頁に問題意識が、本田稔「判批」別冊ジュリスト220号百選Ⅰ(第7版)93事件にわかりやすい解説があるので、ご確認ください。

なお、第8版が出ています。 自分の周りでは、身分犯説を採る人が多いように感じました(これは2019.4.25に行ったTwitterアンケート調べでも同様です)。
 身分犯説を採ると、65条1項2項の考え方や窃盗という身分が構成的か加減的か(又は違法身分か責任身分か)によって結論が異なることを説明できるでしょう。
 他方、自分の答案では、結合犯説を採っています。この場合、①の説明には、基本刑法第3版Ⅰ総論393頁の中間説②を採用し、②の説明には、同書392頁中間説①を採用しています。このように、承継的共(同正)犯の要件レベルで対立軸を作ったつもりです。しかし、答案における①の説明及び私見で採用した理論(ⅰ先行者の行為が生じさせた結果が残存し、ⅱ後行者が先行者とともに違法な結果を実現したといえ、ⅲ因果関係がある場合、結果に対する因果性を肯定でき、全体について承継的共同正犯として責任を負うと解される)によれば、甲の犯罪が窃盗未遂罪にとどまっているため、要件を充足できず、事後強盗罪の共同正犯が成立するという結論を導くことができません。つまり、誤っているということです。もっとも、同じ理論によれば、②の説明において脅迫罪の限度で共同正犯が成立するとの結論を導くことができます(これは令和元年司法試験の出題趣旨でいうところのgです。)。この場合、②の説明を私見とし、他方、①の説明には、承継的共犯を全面的に肯定する理論(これは令和元年司法試験の出題趣旨でいうところのcです。)を採用することになるのでしょう。まあ、つまるところ、このような誤りをしていてもA評価が付くということが重要な結果だと思います。
 やはり刑法における司法試験過去問の網羅性の低さをカバーするために、ある程度著名な演習書を潰しておくことが重要だと思います。自分はやっていませんが、同じような目的で刑法においても旧司をやっている人も多いと思いますが。

設問3
 構成要件的故意、正当防衛、誤想防衛(→過失犯)、緊急避難等考えられるはずである(構成要件的故意については「狙いが外れ」、正当防衛については「Dを助けるため」、緊急避難については「丙が採り得る唯一の手段であった」等から気付くはすである。)が、自分は時間的にも厳しく正当防衛と緊急避難くらいしか想起できず、正当防衛だけを選択しあてはめも記載した。もっとも、「各々の説明の難点」という誘導があるから複数の法律構成を示すべきであり、その場合はあてはめメインというよりはむしろ、抽象論レベルでの指摘で足りたのではないかと思いました。複数の構成は比較的想起しやすいものであるため、これができなかったことは相対的に沈む原因となりそう。
 令和元年司法試験の出題趣旨によると、複数の法律論だけでなく、そのあてはめまで求めていたようです。
 なお、正当防衛についていえば、ワインボトルを投げた丙とこれが頭部に直撃したDとは、正対正の関係にあり、「不正の侵害に対して」という要件の充足が否定され違法性阻却されない可能性があるという難点がある。自分の答案では、難点について解釈を加えた上で要件の充足を肯定している。また、それ以後の要件を検討している。しかし、「難点はどこか」と問われているに過ぎず、これを解消する法律論を問われているわけではないため、書きすぎという感じもする。他方で、「刑事責任を負わない…理論上の説明」とは、単に抽象論を示だけではなく、そのあてはめも求められているようであることからすれば、少なくとも難点以外の要件の充足は必須のはずであり、網羅的に検討する必要があるように思う(もっとも、難点がメインの問題となっているということは、難点以外の要件は充足されていることが前提とされており、厚く論じる必要はないのかもしれないが。)。

*1:(仮に設問に行為の相手方が示されていなくとも、)財産罪だから相手方を明示した。また、行為を明示した(なお、本件では、後述の窃盗罪で明示した行為と同じ行為を明示すべきだった。)。

*2:黙示的にでも占有の弛緩に過ぎないという問題の核心を示したつもり(もっとも、やはりキーワードを明示すべきだった。甲の発言は「注意をそらすためのものに過ぎない」とか「占有を弛緩させるものに過ぎない」とか。)。

*3:判例がある要件は漏らさない(短答知識の応用)。

*4:後述する故意と併記することで、不法領得の意思が故意とは別に要求される主観的構成要件であることを明示的に示した。

*5:対象を明示した(なお、時間的に余裕があれば、認容については別途あてはめをしたかった。)。

*6:設問はあくまでも「自らの見解…を根拠とともに示すこと」を求めており、「①及び②の双方」には「言及」することとされているに過ぎない。そのため、①及び②は簡潔に法律構成を示すにとどめ、私見を論じることを意識した。

*7:理論的には、事後強盗罪の構造についての結合犯説を採用した結果、承継的(共同)正犯を論じることになるが、自分は後者がメイン論点だと考えて答案順序で書いた。

*8:「刑事責任を負わないとするには、どのような理論上の説明が考えられるか」と問われているから、法律構成として正当防衛を、効果として違法性阻却を示した。

*9:「説明の難点」を示した(が、内容的には誤りである。)。

起案時の手控え(法制執務用語)

1 特に起案時や文章作成時に気にするところは以下の通りです。

⑴ 「及び」「並びに」

  ア 「及び」
   A、B及びC
   (体言ではなく、用言をつなぐときはA、B、及びC)

  イ レベルが異なる場合
   A並びにb1及びb2
   (「及び」は一番小さいレベルに1回だけ、「並びに」はそれより大きいレベル全てに

⑵ 「又は」「若しくは」

  ア 「又は」
   A、B又はC
   (体言ではなく、用言をつなぐときはA、B、又はC)

  イ レベルが異なる場合
   A又はb1若しくはb2
  (「又は」は一番大きいレベルに1回だけ、「若しくは」はそれより小さいレベル全てに
  (例えば、「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがある者をいう。)

⑶ 「その他」「その他の」

  ア 「その他」は、前後が並列

  イ 「その他の」は、前に置かれた語句は、後ろに続く語句の例示
   (例外として、日本国憲法21条1項「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」は、「その他」の前に置かれた語句は、一切の表現の自由の例示ですから、本来は「その他の」が正しいはずです。語呂・語感との関係で「その他」とされていると説明されます。)

⑷ 「場合」「とき」「時」

  ア 仮定的条件を示す「場合」「とき」は、語呂・語感が優先
   (例外として、2つの仮定的条件を重ねる場合には、例えば、Aの「場合」において…と認める「とき」の順となります。)

  イ 漢字の「時」は、ある時点を瞬間的に捉えて押さえる場合


⑸ 「以前」「前」「以後」「後」

  ア 含む
   「前」・「後」は、基準となる時点を含んで、それより前・後への時間的広がりがあることを示す

  イ 含まない
   「前」・「後」は、基準となる時点を含まないで、それより前・後への時間的広がりがあることを示す

⑹ 「以上」「超」「超える」「以下」「未満」「満たない」

  ア 含む
   「上」・「下」は、基準となる数量や期間を含んで、それより多い又は長い場合並びに少ない又は短い場合を示す
   
  イ 含まない
   「超」「超える」・「未満」「満たない」は、基準となる数量や期間を含まないで、それより多い又は長い場合並びに少ない又は短い場合を示す



2 参考文献
 法制執務用語研究会『条文の読み方』(有斐閣、第2版、2021年)には、上記以外にも法令や文章を読む際にためになることが書かれています。コンパクトだしかなりお安い。

条文の読み方〔第2版〕

条文の読み方〔第2版〕

 また、実は大島義則『憲法ガールⅡ』25-26頁(法律文化社、初版、2018年)でロキ先生が一部を解説してくれています。ありがたいしお得です。

憲法ガールII

憲法ガールII

ロー生、ついでに行政書士

1 本記事の対象者(読者)

 はじめに、本記事は、行政書士専業受験生を主な対象としておりません。「ついでに」というのも行政書士専業受験生からすると癇に障るかもしれませんがご容赦ください。

 本記事を読んでみようと思った方は、「受験料は7000円だし、短答の練習にもなるから、とりあえず保険として行政書士試験でも受けておこうかな」という程度のスタンスだと思います。本記事は、まさにそのような方に向けて作成しました。特に、ロースクール生(進学予定の大学生も含む。)であり、かつ②予備試験短答式に合格していない方(別の言い方をすれば、一般教養科目であまり得点できないけど(②)、どうにかコスパよく行政書士試験に合格したい方(①))を主な読者として想定しています。

 このような限定をしているのには主に2つの理由があります。
 1つは、ロースクール生の可処分時間の少なさです。現在ロースクールに在学している方であれば実感していると思いますが、意外と課題が多くこれと並行して司法試験過去問を検討するだけでほとんど可処分時間がありません。このような中で、保険として受ける行政書士試験に割ける時間はごくわずかであり、「残された可処分時間でコスパよく」合格する方法を知りたいと思っているでしょう。
 もう1つは、予備試験合格者の一般教養科目における得点力です。予備試験短答式に合格できる方は、一般に国公立大学の在学生や卒業生、それ以外でも大学受験で成功された方、英語力が高い方といったように、一般教養科目における得点力を有している方が多いと思います。他方、そうでない方は一般教養科目での得点力に難を抱えている場合が多いと思います。

 自分もここ(①+②)に属していました。
 実際、十分な勉強こそしていなかったものの、一般教養の足切りで不合格となった経験があります。また、初年度受験時は、まぐれで一般教養の足切りを免れましたが、圧倒的短答弱者であったため総合点で足切りをくらい不合格となりました。最終的に合格したのは平成30年行政書士試験でした(204/300点)。

2 試験対策

 行政書士試験は、「行政書士の業務に関し必要な法令等」(以下「法律科目」という。)(46題(244点))+「行政書士の業務に関連する一般知識等」(以下「一般教養科目」という。)(14題(56点))から構成されています。合計60題(300点)を3時間で解答します。
 冒頭でも述べた通り、行政書士試験には3つの「合格基準点」という足切りが存在し、ⅰ法律科目では122点以上であること(法律科目で正答が50%以上であるであること)、ⅱ一般教養科目では24点以上であること(一般教養科目で正答が6問以上あること(1問4点))、ⅲ総合点では180点以上あることとそれぞれ設定されています。
 
 そこで、目指すべきは、一般教養科目で最低限24点(一般教養科目で6問の正答)を獲得し(ⅱ)、法律科目で156点(法律科目で約64%の正答)を獲得すること(ⅰ・ⅲ)です。
 以下では、科目毎に具体的な勉強方針を考えてみましょう。

⑴ 法律科目

  法律科目(46題(244点)は、5肢択一式(1問4点×40題=160点)、多肢選択式(1問8点×3題=24点)、記述式(1問20点×3題=60点)の形式で出題されます。
  内容は、憲法行政法行政法の一般的な法理論、行政手続法、行政不服審査法行政事件訴訟法国家賠償法地方自治法を中心とする。)、民法、商法(会社法を含む。)、法学基礎です。

  結論の先取りになりますが、法律科目で重点的に勉強しておくべきは、行政法民法です。後述の通り、法律毎に配点が異なり、行政法(112点)と民法(76点)が特筆してその配点が高いことが理由です。この2科目で満点が取れればⅰ・ⅲの足切りをクリアできます。

  ア 5肢択一式(1問4点×40題=160点)
   妥当なもの若しくは妥当でないものを1つ選ぶ又は妥当なもの又は妥当でないものの2つの組み合わせとして正しいものを選ぶ問題です。
   以下の通り、法律毎に配点が異なります。
    基礎法学:8点
    憲法:20点
    行政法:76点
    民法:36点
    商法(会社法を含む。):20点

   司法試験との関係でいえば、憲法民法についてはもちろん短答対策をしていますよね(もっとも、傾向が司法試験とは少し異なると思いますので、過去問に目を通してみるとよいでしょう。例えば、民法では、財産分与の法的性質3つを挙げる問題が出題されたことがありました。)。
   他方、行政法についてはどうでしょうか。司法試験でも行政事件訴訟法だけでなく行政手続法、国家賠償法地方自治法(242条の2、244条辺り)も使うから問題ないと思っていませんでしょうか。多分過去問を解いてみればわかりますが、行政法については、司法試験論文式で問われるよりもはるかに広く細かい知識が要求されています。ここは別途勉強しておかないと得点することは困難です(例えば、行政事件訴訟法の執行停止に対する内閣総理大臣の異議、行政手続法の意見公募手続行政不服審査法の審査請求・再調査請求・審理員、地方自治法の首長に対する解職請求などについて知識があるでしょうか。)。やはり資格試験毎に当該法律で問われる内容は異なりますから、資格試験毎の過去問を検討することがベストな対策です。しかし、それができないのであれば、最低限条文を素読するだけでも効果があると思います(この場合には、全ての条文をベタ読みするのではなく、どの条文が行政書士試験で問われることが多いのかを意識しながらポイントを絞って素読すべきです。例えば、行政書士試験対策用の予備校の条文集(個人的には、載っている法令数も多いため辰巳法律研究所の条文判例本が使いやすかったです。)などを用いて条文に当たりを付けながら素読するのが効率的でしょう。)。

   法学基礎や商法(会社法を含む。)については、誤解を恐れずにいえば、行政書士試験対策として勉強なんてしなくても問題はないんです。とはいうものの、会社法については、株式や機関設計など論文知識で対応できてしまうこともあります。
   
  イ 多肢選択式(1問8点×3題=24点)
   1つの長文に対して4か所の空白が存在し、20個の選択肢の中から任意に穴埋めをする問題です(1か所2点)。
   配点は、憲法:8点、行政法16点です。

   文章の前後関係や肢の比較によって、相当程度絞り込めるはずです。個人的な印象として、憲法行政法ともに、判例については、司法試験の知識で十分対応可能ですが、司法試験短答式での出題部分とは異なる部分の判事が問われることもあり、その意味では面を食らうこともありました。とはいうものの、あえて多肢選択式の対策をしなければ対応できないというものではないと思います。

  ウ 記述式(1問20点×3題=60点)
   1問で2~3個について問われます。これを40文字という制限の中で解答します。
   配点は、行政法40点、民法20点です。
   各問の細かい配点は不明ですが、問われていることが2個なら15点ずつとか10点20点、3個なら7点7点6点とか8点8点4点など当該問における重要性に応じて配点がなされているものと推測されます。各予備校の速報などでも配点については割れることが多いです。

   正直に言って、記述式の各科目の難易度はそれほど高くないと思います。イメージとしては、ロースクール入試、ロースクールの期末試験等において問われる小問と同程度という感じです。
   行政書士試験専業受験生であれば、60/300点の記述式の対策に時間を割くのはマストです。しかし、そこまで記述式の対策をしなければ対応できないというものではないと思います。もっとも、行政法では、だれが(原告)、だれに対して(被告)、どのような請求をするのか(訴訟物)という形式の問いが出ることが多く、このような頻出部分については確実に解答できるように事前準備が必要となります。また、民法では、総則・物権・債権・不法行為などのように司法試験の短答式で出題されたなら(他の肢と比較することができたなら)正誤がわかるような条文について、記述を求められることがありますし、親族・相続について条文知識だけでなく判例知識が問われることもあります。そのため、時間があるのであれば、どのような問題が出題されるのか、40字でまとめることができるのかについてイメージを持っておくために過去問に目を通してみるとよいでしょう。

   記述式で注意すべきなのは、六法を参照できないことです。判例知識だけでなく、条文知識を問われることもあります。六法を参照できない中で記述式を解答するというのは結構苦痛です。
 

⑵ 一般教養科目

  一般教養科目は、択一式のみです。
  内容は、政治・経済・社会、情報通信・個人情報保護、文章理解から出題されます。

  結論の先取りになりますが、一般教養科目で重点的に勉強しておくべきは、情報通信・個人情報保護です。

  ア 政治・経済・社会
   ニュースを見たり新聞を読んだり云々といわれることがありますが、そんなことやっている暇はないと思います。ここでお勧めしておきたいのは、伊藤塾の直前対策講座(正式名称は忘れてしまいました。登録は必要だったかもしれませんが、無料です。)です。試験実施日直前に法律科目だけでなく、一般教養科目についても経済白書を基にして短時間で解説をしてくれました。自分が受験したと年度では、外国人労働者の受け入れなどがまさに的中していました。
   これ以外に仮に勉強するならば、政治・経済に関して、例えば、選挙制度社会保障制度など基本的なものを、一般教養科目のテキストを用いて少し確認しておくくらいにとどめましょう。自分はLECの完択をパラパラ見る程度に使用しました。

  イ 情報通信・個人情報保護
   勉強を始めるのに少し抵抗があるかもしれません。しかし、これは一般教養科目とは名ばかりで、実は法律科目でもあるのです(私見個人情報保護法個人情報の保護に関する法律)、行政機関個人情報保護法行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律)、情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)、甲文書管理法(公文書等の管理に関する法律)、不正アクセス禁止法不正アクセスの行為の禁止等に関する法律)、迷惑メール防止法(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律)などがまさに法律知識に当たるところです。それぞれの法律の構造を把握することはそんなに難しいことではないでしょう。
   とはいうものの、上記の法律知識を除いては、プロバイダ、セキュリティ、暗号なども含まれるため一般教養科目の側面が強いことは否定できません。
   勉強するなら、情報公開や個人情報については行政法の勉強の過程で多少なりとも知識を得ている可能性がありますので、これを機に是非条文を素読してみてください(もちろんポイント絞って)。
  
  ウ 文章理解
   いわゆる一般教養科目において問われる文章理解の問題です。例えば、本文と趣旨が合致する肢を選ぶ、文章の順序を選ぶ、文章の空欄を補充する肢を選ぶなどです。

   結論の先取りになりますが、文章理解は貴重な得点源であり、かつ事前の勉強が不要な分野です。

   文章理解が得意だという方もいると思います。そういう方はセンスで解いているのでしょうか。
   個人的には、ここは時間をかけて地道に考えて選択肢を絞るというオーソドックスな解き方をしているにすぎないが、その処理スピード早いだけのではないかと思っています。
   本文と趣旨が合致する肢を選ぶ問題では、選択肢にある単語が本文と合致しないものを削除する。文章の順序を選ぶ問題では、接続詞を見ておよそあり得ないものを削除したり、指示語は被指示語の後に出てくることを確認して選択肢を絞る。文章の空欄を補充する肢を選ぶ問題では、全部確認してみる。
   とにかく地道に確率を上げていきましょう。20%から40%、60%に上げただけでも十分戦えています。