答案のおとし所

(元)司法試験受験生の立場から、再現答案のアップしたり、日々の勉強での悩み、勉強法などについて書いていきます。

ロー生、ついでに行政書士

1 本記事の対象者(読者)

 はじめに、本記事は、行政書士専業受験生を主な対象としておりません。「ついでに」というのも行政書士専業受験生からすると癇に障るかもしれませんがご容赦ください。

 本記事を読んでみようと思った方は、「受験料は7000円だし、短答の練習にもなるから、とりあえず保険として行政書士試験でも受けておこうかな」という程度のスタンスだと思います。本記事は、まさにそのような方に向けて作成しました。特に、ロースクール生(進学予定の大学生も含む。)であり、かつ②予備試験短答式に合格していない方(別の言い方をすれば、一般教養科目であまり得点できないけど(②)、どうにかコスパよく行政書士試験に合格したい方(①))を主な読者として想定しています。

 このような限定をしているのには主に2つの理由があります。
 1つは、ロースクール生の可処分時間の少なさです。現在ロースクールに在学している方であれば実感していると思いますが、意外と課題が多くこれと並行して司法試験過去問を検討するだけでほとんど可処分時間がありません。このような中で、保険として受ける行政書士試験に割ける時間はごくわずかであり、「残された可処分時間でコスパよく」合格する方法を知りたいと思っているでしょう。
 もう1つは、予備試験合格者の一般教養科目における得点力です。予備試験短答式に合格できる方は、一般に国公立大学の在学生や卒業生、それ以外でも大学受験で成功された方、英語力が高い方といったように、一般教養科目における得点力を有している方が多いと思います。他方、そうでない方は一般教養科目での得点力に難を抱えている場合が多いと思います。

 自分もここ(①+②)に属していました。
 実際、十分な勉強こそしていなかったものの、一般教養の足切りで不合格となった経験があります。また、初年度受験時は、まぐれで一般教養の足切りを免れましたが、圧倒的短答弱者であったため総合点で足切りをくらい不合格となりました。最終的に合格したのは平成30年行政書士試験でした(204/300点)。

2 試験対策

 行政書士試験は、「行政書士の業務に関し必要な法令等」(以下「法律科目」という。)(46題(244点))+「行政書士の業務に関連する一般知識等」(以下「一般教養科目」という。)(14題(56点))から構成されています。合計60題(300点)を3時間で解答します。
 冒頭でも述べた通り、行政書士試験には3つの「合格基準点」という足切りが存在し、ⅰ法律科目では122点以上であること(法律科目で正答が50%以上であるであること)、ⅱ一般教養科目では24点以上であること(一般教養科目で正答が6問以上あること(1問4点))、ⅲ総合点では180点以上あることとそれぞれ設定されています。
 
 そこで、目指すべきは、一般教養科目で最低限24点(一般教養科目で6問の正答)を獲得し(ⅱ)、法律科目で156点(法律科目で約64%の正答)を獲得すること(ⅰ・ⅲ)です。
 以下では、科目毎に具体的な勉強方針を考えてみましょう。

⑴ 法律科目

  法律科目(46題(244点)は、5肢択一式(1問4点×40題=160点)、多肢選択式(1問8点×3題=24点)、記述式(1問20点×3題=60点)の形式で出題されます。
  内容は、憲法行政法行政法の一般的な法理論、行政手続法、行政不服審査法行政事件訴訟法国家賠償法地方自治法を中心とする。)、民法、商法(会社法を含む。)、法学基礎です。

  結論の先取りになりますが、法律科目で重点的に勉強しておくべきは、行政法民法です。後述の通り、法律毎に配点が異なり、行政法(112点)と民法(76点)が特筆してその配点が高いことが理由です。この2科目で満点が取れればⅰ・ⅲの足切りをクリアできます。

  ア 5肢択一式(1問4点×40題=160点)
   妥当なもの若しくは妥当でないものを1つ選ぶ又は妥当なもの又は妥当でないものの2つの組み合わせとして正しいものを選ぶ問題です。
   以下の通り、法律毎に配点が異なります。
    基礎法学:8点
    憲法:20点
    行政法:76点
    民法:36点
    商法(会社法を含む。):20点

   司法試験との関係でいえば、憲法民法についてはもちろん短答対策をしていますよね(もっとも、傾向が司法試験とは少し異なると思いますので、過去問に目を通してみるとよいでしょう。例えば、民法では、財産分与の法的性質3つを挙げる問題が出題されたことがありました。)。
   他方、行政法についてはどうでしょうか。司法試験でも行政事件訴訟法だけでなく行政手続法、国家賠償法地方自治法(242条の2、244条辺り)も使うから問題ないと思っていませんでしょうか。多分過去問を解いてみればわかりますが、行政法については、司法試験論文式で問われるよりもはるかに広く細かい知識が要求されています。ここは別途勉強しておかないと得点することは困難です(例えば、行政事件訴訟法の執行停止に対する内閣総理大臣の異議、行政手続法の意見公募手続行政不服審査法の審査請求・再調査請求・審理員、地方自治法の首長に対する解職請求などについて知識があるでしょうか。)。やはり資格試験毎に当該法律で問われる内容は異なりますから、資格試験毎の過去問を検討することがベストな対策です。しかし、それができないのであれば、最低限条文を素読するだけでも効果があると思います(この場合には、全ての条文をベタ読みするのではなく、どの条文が行政書士試験で問われることが多いのかを意識しながらポイントを絞って素読すべきです。例えば、行政書士試験対策用の予備校の条文集(個人的には、載っている法令数も多いため辰巳法律研究所の条文判例本が使いやすかったです。)などを用いて条文に当たりを付けながら素読するのが効率的でしょう。)。

   法学基礎や商法(会社法を含む。)については、誤解を恐れずにいえば、行政書士試験対策として勉強なんてしなくても問題はないんです。とはいうものの、会社法については、株式や機関設計など論文知識で対応できてしまうこともあります。
   
  イ 多肢選択式(1問8点×3題=24点)
   1つの長文に対して4か所の空白が存在し、20個の選択肢の中から任意に穴埋めをする問題です(1か所2点)。
   配点は、憲法:8点、行政法16点です。

   文章の前後関係や肢の比較によって、相当程度絞り込めるはずです。個人的な印象として、憲法行政法ともに、判例については、司法試験の知識で十分対応可能ですが、司法試験短答式での出題部分とは異なる部分の判事が問われることもあり、その意味では面を食らうこともありました。とはいうものの、あえて多肢選択式の対策をしなければ対応できないというものではないと思います。

  ウ 記述式(1問20点×3題=60点)
   1問で2~3個について問われます。これを40文字という制限の中で解答します。
   配点は、行政法40点、民法20点です。
   各問の細かい配点は不明ですが、問われていることが2個なら15点ずつとか10点20点、3個なら7点7点6点とか8点8点4点など当該問における重要性に応じて配点がなされているものと推測されます。各予備校の速報などでも配点については割れることが多いです。

   正直に言って、記述式の各科目の難易度はそれほど高くないと思います。イメージとしては、ロースクール入試、ロースクールの期末試験等において問われる小問と同程度という感じです。
   行政書士試験専業受験生であれば、60/300点の記述式の対策に時間を割くのはマストです。しかし、そこまで記述式の対策をしなければ対応できないというものではないと思います。もっとも、行政法では、だれが(原告)、だれに対して(被告)、どのような請求をするのか(訴訟物)という形式の問いが出ることが多く、このような頻出部分については確実に解答できるように事前準備が必要となります。また、民法では、総則・物権・債権・不法行為などのように司法試験の短答式で出題されたなら(他の肢と比較することができたなら)正誤がわかるような条文について、記述を求められることがありますし、親族・相続について条文知識だけでなく判例知識が問われることもあります。そのため、時間があるのであれば、どのような問題が出題されるのか、40字でまとめることができるのかについてイメージを持っておくために過去問に目を通してみるとよいでしょう。

   記述式で注意すべきなのは、六法を参照できないことです。判例知識だけでなく、条文知識を問われることもあります。六法を参照できない中で記述式を解答するというのは結構苦痛です。
 

⑵ 一般教養科目

  一般教養科目は、択一式のみです。
  内容は、政治・経済・社会、情報通信・個人情報保護、文章理解から出題されます。

  結論の先取りになりますが、一般教養科目で重点的に勉強しておくべきは、情報通信・個人情報保護です。

  ア 政治・経済・社会
   ニュースを見たり新聞を読んだり云々といわれることがありますが、そんなことやっている暇はないと思います。ここでお勧めしておきたいのは、伊藤塾の直前対策講座(正式名称は忘れてしまいました。登録は必要だったかもしれませんが、無料です。)です。試験実施日直前に法律科目だけでなく、一般教養科目についても経済白書を基にして短時間で解説をしてくれました。自分が受験したと年度では、外国人労働者の受け入れなどがまさに的中していました。
   これ以外に仮に勉強するならば、政治・経済に関して、例えば、選挙制度社会保障制度など基本的なものを、一般教養科目のテキストを用いて少し確認しておくくらいにとどめましょう。自分はLECの完択をパラパラ見る程度に使用しました。

  イ 情報通信・個人情報保護
   勉強を始めるのに少し抵抗があるかもしれません。しかし、これは一般教養科目とは名ばかりで、実は法律科目でもあるのです(私見個人情報保護法個人情報の保護に関する法律)、行政機関個人情報保護法行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律)、情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)、甲文書管理法(公文書等の管理に関する法律)、不正アクセス禁止法不正アクセスの行為の禁止等に関する法律)、迷惑メール防止法(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律)などがまさに法律知識に当たるところです。それぞれの法律の構造を把握することはそんなに難しいことではないでしょう。
   とはいうものの、上記の法律知識を除いては、プロバイダ、セキュリティ、暗号なども含まれるため一般教養科目の側面が強いことは否定できません。
   勉強するなら、情報公開や個人情報については行政法の勉強の過程で多少なりとも知識を得ている可能性がありますので、これを機に是非条文を素読してみてください(もちろんポイント絞って)。
  
  ウ 文章理解
   いわゆる一般教養科目において問われる文章理解の問題です。例えば、本文と趣旨が合致する肢を選ぶ、文章の順序を選ぶ、文章の空欄を補充する肢を選ぶなどです。

   結論の先取りになりますが、文章理解は貴重な得点源であり、かつ事前の勉強が不要な分野です。

   文章理解が得意だという方もいると思います。そういう方はセンスで解いているのでしょうか。
   個人的には、ここは時間をかけて地道に考えて選択肢を絞るというオーソドックスな解き方をしているにすぎないが、その処理スピード早いだけのではないかと思っています。
   本文と趣旨が合致する肢を選ぶ問題では、選択肢にある単語が本文と合致しないものを削除する。文章の順序を選ぶ問題では、接続詞を見ておよそあり得ないものを削除したり、指示語は被指示語の後に出てくることを確認して選択肢を絞る。文章の空欄を補充する肢を選ぶ問題では、全部確認してみる。
   とにかく地道に確率を上げていきましょう。20%から40%、60%に上げただけでも十分戦えています。