答案のおとし所

(元)司法試験受験生の立場から、再現答案のアップしたり、日々の勉強での悩み、勉強法などについて書いていきます。

敗因分析の仕方

1 敗因分析って何をすればいいの?

 そもそも敗因分析によって何を得ようとしているのでしょうか。
 自分は客観と主観のズレを認識することを目的としていました。

⑴ 再現答案の早期作成のすすめ

  覚えている方がいるかわかりませんが、令和3年司法試験が終了した令和3年(2021年)5月16日に、再現答案の早期作成をおすすめするツイートをしておりました。


  これはどういう趣旨だったかというと、客観と主観のズレを認識するという目的に対して、再現答案の分析こそが敗因分析1つの手段であり、その手段を採るための材料を確保しておいて欲しいということでした。

  再現答案には、不理解・理解不足、検討順序等の流れの悪さ、問いに答えていない等といった問題点が露になっています。
  そして、再現答案の早期作成をおすすめしていたのは、良くも悪くも記憶が鮮明なうちに問題点を書面化して欲しいからでした。書面化してしまえば、例えば、作成時に不理解・理解不足があった部分について試験中には正しく書いていたはずだと記憶を改ざんすることはできませんし、問いに答えていなかったという部分について試験中にはちゃんと答えていたはずだと言い訳することもできません。
  不合格直後に再現答案を見てみると、問題点の多さにテンションは下がることは必至ですが、自分の客観的実力を目の当たりにすることができるでしょう。まさに再現答案は鮮度が命です。自分の場合は、試験終了翌日から作成していました2~3日かけて作成していました。お金にもなりますし。


  試験終了後に予備校の速報を聞いた後や不合格後に事案を想起して作成するのではなく、早期作成です。

⑵ 合格者に再現答案を見てもらおう

  再現答案を自分で見ることもあると思います。

  他方で、自分の客観的実力を明らかにするためには、自分の視点からだけではなく、より客観的な第三者の視点が有用です。
  就活とかでも使うことがあるジョハリの窓の4つの区分に従えば、合格者に再現答案を見てもらうことで、自分は気づいていないが他人は知っていること(盲点)、すなわち問題点が明らかになります。
  合格者のコメントにより、自分の客観的実力が、より鮮明に見えてきます。特に当該年度の合格者ならば、悩ましい部分についてどう書いたのか、難しい部分と簡単な部分の濃淡をどのように付けたのか等の経験をもってコメントをしてくれることでしょう。

  先ほど書いたとおり、再現答案には良くも悪くも問題点が露になっていますので、不合格となった自分の答案を見せることに消極的になる方もいるかもしれませんが、そこはプライドを捨ててください!
  既に目標は来年の司法試験合格に切り替わっています。問題点はあくまでも令和3年の司法試験時点のものにすぎず、当面の課題はその問題点をどのように克服するかということです。
  当該年度の合格者は、テンションが上がっている方、自身に満ち溢れている方が多く、お願いすれば引き受けてもらえることが多いと思います。

  結果発表が令和3年9月7日なので、9月いっぱいを敗因分析に使っても使いすぎということはないと思います。

⑶ セルフチェックをしてみよう

  前述しましたが、再現答案を自分で見ることもやってみましょう。

  不合格という結果を受け、自分に自信が持てなくなっている方もいるかと思います。
  現実的には、採点実感が出されるのを待ってこれを参照しながら、まず、誤りであるとされている部分や低く評価するとされている部分が、自分の答案に当てはまるのかを確認してみましょう。
  次に、当該年度の一定の水準とされているレベルに達しているのかを確認しましょう。近年の出題趣旨及び採点実感はかなり詳細に書かれていますから、どこで検討を漏らしているために、優秀に属する答案・良好に属する答案・一応の水準に属する答案ではなく、不良に属する答案になってしまっているのかが比較的わかりやすいと思います。

2 敗因

 合格者の視点も借りて自分の問題点が明らかになったと思います。

 自分の場合、以下のとおり気付かされた点は大きく分けて3つくらいでした。
 ⑴ 三段論法の不徹底
  特に初学者の頃に多いと思いますが、そもそも答案作成力が乏しい、規範・あてはめ・結論という流れができていないということです。非常に印象が悪いです。
  条文からスタートできていないとか、いわゆる論点主義に陥り唐突に論点の論証を始め、論パを長々と吐き出してしまうなどです。条文文言と事実の間に距離があるからこそ、条文の解釈・事実の評価を通じてその距離を縮めるということを全く意識していないとか。
  もちろん重要度に応じて三段論法を一行で書くこともあり得ますので、その辺の感覚も掴むことができればいいと思います。

 ⑵ 基本的事項の不理解・理解不足、演習不足
  規範部分や理由付けに不理解・理解不足があることもあります。規範部分が間違っていれば、あてはめも間違ってきてしまうはずです。多くの受験生が書ける基本的事項に間違いがある場合、それは大きく評価が沈むことになります。
  翻って言えば、過去に何度も出題されている論点、焼き増しされた論点に対応できないということは、司法試験過去問を「潰した」といえる状態ではなかった(「潰した」ついては、以下の記事の「プロセス③」も参考にしてみてください)といえ、演習不足が否めません。
piropirorin0722.hatenablog.com

 ⑶ 「問いに答えていない」
  よく合格者から言われるのは、「問いに答えていない」ということです。
  これって一体どういうことなんでしょうか。

  形式面では、こんなことが想定されます。
  例えば、令和2年司法試験刑法設問1「以下の①及び②の双方に言及した上で、【事例1】における甲のBに対する罪責について論じなさい(特別法違反の点は除く。また、本件債権に係る利息及び遅延損害金については考慮する必要はない。)」という問いでした。
  このような問いであれば、①及び②の各立場からの説明(「言及」)、甲のBに対する罪責の検討(「罪責について論じなさい」)を解答することが必須となってきます。前者は令和元年の問い方とほぼ同じですから、私見を書き忘れたのであれば、過去問をしっかりやっていたのか疑わしいです(もちろんその場で考えても私見が必要なことは明らかですが)。問われていることに対する解答を忘れないための対策をどうするかを考えましょう。他方で、これも当たり前ですが、甲のBに対する罪責以外を検討しない、特別法違反を検討しない、本件債権に係る利息及び遅延損害金を考慮しないことも必要です。途中答案を避けるためにも重要となります。

  実質面では、こんなことが想定されます。
  事案の分析をした結果、論点を落としてしまっていることがあるかもしれません。理論的には流れの中で出てくるはずの論点を検討していないとすれば、それは基本的事項の特に理論面に不理解・理解不足という原因があるかもしれません。
  不要な論点を検討してしまっていること又は重要でない部分について冗長に検討してしまっていること(相対的に重要な部分の検討が疎かになってしまっていること)があるかもしれません。なぜ不要な論点を検討してしまったのか又はなぜ重要でない部分について冗長に検討してしまったのかを考えましょう。どの事実からそう判断してしまったのか、どうすれば次に避けられるのかを考えましょう。
  司法試験に特有のひねりに対応できていない、つまるところ基本と応用、原則と例外の峻別ができていないということもあるかもしれません。それが基本判例や基本的事項であるとすれば、なぜ考慮することができなかったのかを考えましょう。
  事案の特殊性を捉えられていないとか問題文の事情を使わずに自分の知識や知っている事案に引き寄せてしまっているということがあるかもしれません。

  「問いに答えていない」という指摘は、正直に言って少し不親切なんですよね。
  「問いに答えていない」と言われたら、それはどういう趣旨で言っているのか、具体的にはどういうことなのか、よく聞いて確認するようにしてください。内容によって、対策が変わってくるはずです。

3 分析・対策

 試験対策として答案を書くことは必要だと思います。多くの方が数多くの答案を書いてきたと思います。数をこなせば、答案の流れを掴み、筆力も上がります。
 ただ、基本的事項が不理解・理解不足のままに答案を書いても学習効果が低いと思います。自分で気付いた又は合格者から指摘された基本的事項の不理解・理解不足については、奢らずに再確認しましょう。
 
 記憶の過程とは、覚える(符号化)、覚えておく(貯蔵)、思い出す(検索)という3つの段階に分かれるといわれています。
 特に基本的事項については、既存の知識に、新しく入ってきた情報を付け加えて詳しくする(精緻化する)ことで、覚える効率が上がるといわれています。
 また、試験対策としての記憶というのは、意識的想起を必要とする顕在記憶と呼ばれるものです。そのため、覚える段階で、単に情報を見たり、書いたりするだけでなく、その情報をイメージ化するなど意味的に深い処理を経験しておくことにより、メモリーツリーのように各情報を関連付けて覚えておくことができことができ、思い出す際のスピートや正確性が上がるといわれています。

 もうしばらくすれば、科目毎に答案の評価が返ってくるはずです。司法試験員会採点員の採点によって客観的実力が如実に明らかになりますが、具体的にここは出来ているが、ここは出来ていないということは具体的には知り得ません。そのため、やはり合格者に答案を見てもらうということが必要になります。
 是非苦手な科目・評価が悪かった科目を克服する勉強に軸を置いてみてください。苦手な科目・評価が悪かった科目を一定の水準に引き上げる方が簡単です。
 得意な科目・評価の良かった科目を伸ばすために、様々な基本書・学術論文・コンメンタールを読んでというのは効率が悪いです。得意な科目・評価の良かった科目は、一定の水準をクリアしているわけですから、相対的に勉強の必要は低くなってきます。もちろん当該年度との相性などもありますので、全く勉強しなくていいわけではありません。あくまで濃淡の話です。

 優先度を考えた勉強をしましょう。
 これは科目毎の話にとどまりません。重要論点を完璧にしましょう。行政法なら、処分性・原告適格・裁量、刑訴法なら、強制処分の適法性・任意処分の適法性・伝聞法則などです。
 自分の場合、司法試験過去問を科目別論点別にできるだけ連続して解くという方法も試してみました。

4 リスタートに向けて

 冒頭に書いたとおり、9月いっぱいを敗因分析に使っても使いすぎということはないといいましたが、自分の場合は、同時進行で、論パをクルクル回し、短答の出題判例をチェックした判例六法を眺めて記憶を取り戻していました。
 特に勉強を継続していなかった方にあっては、司法試験受験から約4か月で思った以上に記憶は抜けてしまっているはずです。

 喜ばしいことですがともに勉強した仲間が無事に合格し、一方で一緒に勉強する友人がいなくなってしまったという方がいるかもしれません。また、思うように学習時間を確保できない方や学習施設を利用できないという方もいるかもしれません。
 そのような中で、今この記事にたどり着き、リスタートを検討しているリベンジャーズを大変尊敬します。そして来年こそは合格するという覚悟を決めたのなら、適切な敗因分析を経た後、長期・中期・短期の計画を立て、リスタートをしていただきたいです。是非合格を勝ち取ってください。
 もちろん休憩も忘れずに。